田舎生活 ~農業、海、山、そして異世界人!?~

蛍 伊織

文字の大きさ
17 / 43
第一部 

雄太と一緒にいたい。

しおりを挟む
「・・・(ババッ)」 「・・・(ババッ)」 「・・・(ババッ)」

ユイがヴァレンタインを振り上げるのに合わせて、俺達は土下座する。息ピッタリだ。

そんな俺達にユイは人を見る目とは思えないほどの冷たい視線を浴びせていた。

「本当に去勢してやろうか。」

「「「ごめんなさい。許してください!!」」」

怖っ、何その優しさがまったくない声。本当にやりそうなんだけど。

竹をその剣で楽々と切った光景が思い浮かぶ。どうにかして助かろうと額を床にこすりつけた。

「ユイ、剣はそんなことに使ってはいけません。それは私を守るためにあるのでしょう?」

「はっ、申し訳ありません。ですが、こいつらが姫様に破廉恥な言葉を教えているようでしたので。」

「雄太さんたちは私にお肉のことを教えてくれていたのです。その早とちりするクセは治したほうがいいですよユイ。」

「すみません。気を付けます。」

どの口がそんなこと言うのかな?こうなることわかって『去勢』って言葉を2回も使ったくせに。

「みなさん、もう大丈夫ですよ。」

「助かったぁ。」と言いながら牛田と玉崎が顔を上げる。2人は感謝の眼差しをリリーナに向けていた。

俺達はリリーナに遊ばれているんだぞ。見ろ、あの『この人たちをからかうのも楽しいですね。』みたいな顔。お前たちも早く気づいたほうがいい。

―――――
「ではユイも一緒に教えてもらいましょう。牛や豚のオスを去勢するとどうなるのですか?」

「僕が『わかりやすく』お話ししましょう。」

玉崎が颯爽と立ち上がる。出遅れた牛田は苦い顔をしていた。自分が説明したかったらしい。

「オスの肉は『固くて、脂が多くて、臭くて色も悪い』と先ほど言いました。」

「男は肉の世界でもいいとこなしだな。」

ユイが鼻で笑う。

「さて、そこで雄太を見てください。」

え?俺?

「はい。」と言いながら笑顔をこちらに向けるリリーナ。

ユイは「あまり直視したくないのだが・・・。」と言いながらしぶしぶ見てくる。

「オホンッ。もし、雄太が小さい時にナニを切り落とされ『女として育てられて』いたら。どうなっていたと思いますか?」

おいっ!?

「雄太さんが女の子として・・・ぷっ、あははは!」

どんな姿を想像したのだろうか、リリーナは吹きだしお腹を抱えて笑い始める。

「むしろずっと人間らしくなっていたのではないか?」

今の俺って人間ですらなかったの!?

「この顔で女だろ?気持ち悪くてしょうがないと思うぜ。」

オーケー牛田。次は絶対お前を例えにする。

「わ、笑い過ぎて苦しいです。そ、そうですねぇ。小さい頃からということですから、やっぱり女の子らしくなるんじゃないですか?」

「いい答えです。リリーナさん。」

玉崎は満足気に頷いた。

「子どもの時に去勢された牛や豚は『女らしく』育つんです。肉質は柔らかく、変な臭いもしません。若干、脂肪がつきやすくて、肉色は濃いですけどね。」

わかりやすい、わかりやすいよ玉崎。でもさ、俺を使って説明する必要あった?

「女らしく育つ・・・か。」

「ユイ?」

「すみません、昔のことを思い出してしまいました。何でもありません。」

ユイはどこか寂しそうな顔をしていた。

―――――
「玉崎さん、すごく勉強になりました。ありがとうございます。」

リリーナにお礼を言われ、玉崎は「いやぁ。」と嬉しそうに頭をかいた。反対に牛田は悔しそうに地団駄を踏む。

「リ、リリーナさん、他に聞きたいことはありませんか?この牛田が何でも答えますよ。」

「そうですねぇ、ふふふ。また今度詳しく教えてください。」

牛田はサラッと交わされてしまいガックリと肩を落とした。

「楽しい時間はあっという間ですね。お喋りをしていたらもうこんな時間です。雄太さん、そろそろお店のほうに行かないと。」

リリーナに言われ壁にかかった時計を見る。いつも店に向かって出発する時間はとうに過ぎていた。

「うわっ、やっべ。」

商品を急いでコンテナに入れる。早く行かないと自分の商品を並べるスペースがなくなってしまう。ただでさえ満田の嫌がらせがあっていい場所は確保できないのに。

「牛田、玉崎。悪いんだけど店も一緒に行ってくれない?」

車からの積み下ろし、陳列は3人がかりでやれば効率いいはず。

「いやだよ。何で俺達が。」 「自分で頑張れよ。」

即座に断ってそっぽを向く2人。そうだった、こいつらは『女の子の前』でしか頑張らない奴らだった。

そんな2人を見ながらリリーナがつぶやく。

「あぁ、こんな時に頼れる男性はどこかにいないでしょうか。困っている人を見捨てることのできない優しい人が・・・。」

あざとい。牛田と玉崎に聞こえるように言ったな。

「黒崎君!1人でやるのは大変だろう。俺と玉崎が一緒に行ってやろうか。」

「くっ、自分の仕事もある。だけど、友達を友達を見捨てるなんて無理だ。優しさが抑えきれない。」

2人はコンテナを持ち上げきびきびと車に運び始める。

お前らって、本当バカだよなぁ。

リリーナをふと見ると、『これでよかったですよね?』という表情でこちらを見ていた。

はい、さすがです。助かりました! 

俺は彼女にこの時ばかりは感謝するのだった。

―――――
コンテナを車へ積み込んでいると、突然、首から背中にかけてズシッと重たくなる。

「な、なんだ!?」

驚いて振り返るとブカブカのパーカーに身を包んだ小柄な女の子、プリムが抱き着いてぶら下がっていた。

「エヘヘ、おはよ。クラウスがご飯できたって。」

「プリム、びっくりするからやめてくれ。今から店に行かないといけないから飯は帰ってから食べるよ。」

「むー、雄太と一緒に食べたかったのに。」

唇を尖らせ頬を膨らませるプリム。くっ、この可愛さは反則だ。できることなら俺も一緒に食べたい。

「黒崎、いってらっしゃい。」 「プリムちゃん、俺達と一緒に食べようね。」

牛田と玉崎がプリムの両脇をそれぞれ持って背中から降ろす。

「おい、お前らは俺と一緒に店だろ。さっさと車に乗れよ。」

「黒崎、お前はなんてひどいやつなんだ。こんな可愛いプリムちゃんを家に1人で残して行くって言うのか!?」

「いや、1人じゃないし。そこの2人に婆ちゃんやクラウスさんもいるし。」

「人でなし!!」

「いや、人間だし。」

「そうだ!雄太の亭主関白!!」

・・・それは違うな。俺はこの家で権力持ってないし、そもそも誰の亭主でもない。雰囲気にのっかるのはやめなさいプリム。

3人が一緒に騒いで収拾がつかなくなる。

それを見かねたリリーナが中へと入って来た。

「プリム、わがままを言ってはいけません。」

途端に男どもは大人しくなる。プリムは不満そうな顔で下を向いた。

「でもぉ。」

「私たちと雄太さんが帰って来るのを待ちましょう。ね?」

「・・・雄太と一緒にいたい。」

プリム?嬉しいけど、そんなこと言ったら・・・ほら、牛田と玉崎が嫉妬で怒り狂ってる。

「お店に連れてってよ雄太。」

上目でこちらを見る。少し涙目になっていた。

「くっ・・・それは、ダメなんだ。あの店にどんな変態が待っているかわからない。」

「牛田みたいなやつがいるしな。」 「玉崎のようなやつがいるしな。」

2人は声をハモらせると「「何だと!?」」といがみ合う。

「ほら、こんなやつらがわんさかいるから危険なんだ。・・・なるべく早く帰るから家で待っててくれ。」

「・・・わかったお土産よろしくね。」

俺達は異世界の女の子3人に見送られ、車を店に向かって発進させた。




道中、牛田と玉崎から暴言を浴びせられ続けたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...