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第1章 異世界へ

ダンジョン探索(2)

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 この世界での生活にも慣れ、ダンジョン探索をすることになった隆人、3度目の階段を下った彼の目の前には緑が生い茂っていた。


「すごいね、ダンジョンの中のはずなのに森が広がってる。どういう仕組みなんだろう」



 視界全部を覆い尽くすような木々。上を見ると枝葉の隙間から遠くに天井が見える。階層自体はこれまでの洞窟系の階層より圧倒的に明るいが、鬱蒼とした木が光を遮っていて地面に木漏れ日が出来ている。


 そしてその地面には雑草のようなものが生えておりこれまでの階層より多分に水分を含んでいるのか少し柔らかい。


 天井や後ろの壁を見るに洞窟の中であることに変わりはないが、階層全部が一部屋のようになっており、そこに無数の木がひしめくここは、さながらジャングルのようであった。


「森系の階層の可能性も考えていたけど、実際に目にすると圧倒するね。流石異世界って感じだ」


 これまでずっと洞窟系の階層ばかりでフラストレーションが溜まっていたのか、ここへきての森系階層に喜びと感慨が混ざったような表情になる隆人。


 これまで洞窟系しか見ておらず、前世も家から滅多に出る事ができなかった隆人からすれば、ジャングルなど映像で見たことがあると言ったレベルであり、目の前に広がる見慣れぬ景色にしばし圧倒されていた。


「さて、ここでじっとしてても意味はないからね、早速探索してみようか」


 呆然としていた隆人であったが、しばらくしてふと我に返ると、ステータスや荷物に不備がないのを確認したあと、1歩ずつ森(?)の中に踏み入っていく。


 ガサッガサッという今までになかった草を踏みしめる音を響かせながら、探索していく。
 足首まで程の長さのある雑草が歩く度に足に絡みつくのを感じながら、隆人はその歩を進めていく。



「……ん?」


 数分ほど歩いていると、広げていた気配探知の網に何かが引っかかる。


「きたね、森階層初の魔物はどんなかな」


 気配の主は少しずつこちらに向かって来ており、耳を澄ますとガサガサと地面の草が揺れる音が大きくなってくる。


 対する隆人の方も周囲の気配探知は維持したまま体を気配のする方に向け、油断なく構える。


「……大蜘蛛っ」


 やがて一段と大きな音と共に木の向こうから姿を見せたのは蜘蛛であった。


 といっても普通の蜘蛛ではなく、全長は2メートル近くあり、足もそれに合わせて非常に太い。黒光りするその身体はかなりの迫力を持つ。
 まさに大蜘蛛といっていい様相である。


 もちろん魔物であるが、前世では考えられないその異様に隆人は瞬間的に怯む。


「キシャァァァァァ」


 対する蜘蛛魔物は隆人の姿を目に留めると、けたたましい声を上げながら速度を上げ迫ってくる。


 そしてその太い足の1本を隆人目掛けて振るってくる。よくみるとその足の先には鋭い爪が付いており、かなりの威力があることがわかる。


 「うわっ、危なっ」
 

 大蜘蛛のインパクトに一瞬怯んでいた隆人は爪の攻撃をなんとかバックステップで回避する。


 目の前を爪が通り過ぎ、ブオンという音を立てる。
 その威力を肌で感じた隆人は、着地してすぐに更に後ろへ飛び蜘蛛魔物から距離をとる  


  ブシュゥ


 それを見た蜘蛛魔物の口が膨らんだと思った次の瞬間、白い線が網のように口から吐き出され空中にいる隆人に向かって伸びてくる。


 隆人は天駆を発動し空中を蹴って、迫ってくる白い網をなんとかかわそうとするが、予想以上に広範囲に広がる網からは逃げられず絡め取られてしまう。


 白い線は隆人の身体に触れると粘着し動きを阻害してくる。そこまできて、この白い線の招待が糸であると理解する。


「口から糸って、そんなのありかよ!?」


 つい悪態を吐くが、構わず糸は隆人の体にまとわりつき、その勢いのまま後方にある木の一本まで吹っ飛びくっつく。


「くっ、この糸抜け出せないなっ」


 隆人の体にまとわり着いた糸はかなりの粘土であり、身動きが封じられてしまった。手足を動かそうにもそれが余計に糸を絡ませる。


 蜘蛛魔物は糸によって隆人が動けないのを理解してのか、じりじりと距離を詰めてくる。


 やがてその距離がなくなり、糸に絡められ動けない隆人の目の前にきた蜘蛛魔物は今度こそその腕で切り裂こうと振るう。


「よし!間に合った!」


 近づいてくる蜘蛛魔物をもぞもぞと動きながら見ていた隆人だったが、その手が腰についているある物に触れた瞬間、一気にその物にMPを流す。


 するとゴウッという音と共に腰の辺りから炎が吹き出し隆人の体にからみついていた糸を一気に燃やし尽くす。


 そして蜘蛛魔物がその炎に一瞬驚いた隙をついて、蜘蛛魔物から離れる。


「ふぅ……危なかった……。あと少し遅ければ危なかったかもしれない」


 隆人の手に握られていたのは炎を出す魔道具でもある熊魔物の短剣。そしてさっきの炎は短剣に魔力ーーMPを流したことによって発生したものである。


 「ストレージから短剣を出すにはスペースがないし、風の魔法やスキルじゃ糸をなんとかできない。メインの短剣を持ってて助かった……」
 

 メインの短剣が腰にあった為にそこから炎を出して窮地を乗り越えることができたが、そうでなければ蜘蛛魔物に切り裂かれていた可能性が高かった。


「最初から身体強化を使ってればこうはならなかったし、油断したつもりはなかったんだけど、無意識に気を抜いていたのかな」


 ここまでの階層では戦ったことのある魔物ばかりで身体強化を使う必要のない戦いが多かった。その為に魔物を無意識に甘く見てしまっていたのだ。



「スーハー……よし、もう油断はしない。『身体強化ブースト』」


 深呼吸をして息を整えた隆人はユニークスキルである身体強化を発動させる。隆人の体を青白いオーラが包み込むと共に纏う雰囲気が変わっていく。


 そしてそれに呼応するように隆人の目からどこか油断が消え、鋭い視線を蜘蛛魔物に向ける。


 そして、目を見開いた隆人は地を蹴り一気に蜘蛛魔物に向けて突っ込んでいく。
 隆人対蜘蛛魔物の第2ラウンドがスタートした。
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