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第3章 獣人少女ロロノ

85層

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 ゆっくりと階段を降りていく隆人達3人、85層へと続く階段は84層と同じ神殿様式になっている。石のような質感の階段であり、進む度にカツカツと靴の裏が階段を踏む音が響き渡る。


 特訓最終日、睡眠から目覚めたティナ達は隆人に従って更に下の階層に進むこととなった。


「長いですね……」
「リュートさまー、まだなのです?」
「あと少しだよロロノ」


 退屈したようなロロノに隆人は優しく答える。これまでの階層と違い、85階層への階段は長い。既に1分以上ひたすら下へ降り続けている。しかも薄暗い事もありまだ底は見えていない。
 1分は時間にしてみれば大した事はないのだが、同じ景色の中同じ動作を繰り返すのは子供には飽きがくるものなのだろう。


 だか隆人の言う通りすぐに終わりがくる。階段の終わりが見えた。
 ロロノが一気にかけ降りる。2人も後に続いた。階段の下にはこれまで通り細い通路が続いており3人は進んで行く。


 そして開けた所に出た。


「さぁ、ここが、85階層だよ」



 隆人がティナとロロノの方を向きそう言う。2人は真っ直ぐ向いたまま動きを止めていた。

 
 85階層は異質とも言える階層であった。藍色のような無機質な床、それがひたすら広がっている。迷宮の床だけあ硬さらあるが踏みしめても何とも質感が感じられない。


 光源が全くないのに周囲は問題なく見ることができる。
 左右には壁があるがその距離はそれぞれ10メートル以上はあるように思え、通路の先は枝分かれしている。天井は高いのか全く見えない。


 そして異様な空気が辺りに充満している。独特の雰囲気にティナとロロノは揃って息を呑んだ。
 隆人はそんな2人に構うことなく進み初め、少し遅れて我に帰った2人も追いかける。


「85階層から先の階層は全てがこんな感じの無機質な階層になっているんだよ。そしてその広さもこれまでとは段違いに広い」
「迷宮の底にこんな階層が……」


 何本かの枝分かれを進んだ先で隆人が説明口調で話す。ティナはキョロキョロと周囲を見回しながら隆人のすぐ後ろを歩く。


「そうそう、後もうひとつ」


  ドン   ドン   ドン

 隆人がニコリと笑い、そう言いながら振り向いた所で大きな音が耳に届く。それは一定のリズムで響き、少しずつ近づいてくる。
 そしてその音が一段と大きくなったところでその音の正体が分かる。


「青い狼……」
「大きいのです……」


 隆人達の進行方向、その先から姿を見せたのは全身が淡い水色の身体をした狼のような魔物。そしてその大きさは3メートルを優に超える。
 そんな魔物がゆっくりとこちらに近づいて来ていた。


 そしてこちらに気づいたのか立ち止まると、すぐに急加速してくる。その巨体と裏腹に恐ろしい速度である。


「リュート様!後ろ!!」


 こちらを向いたままの隆人にティナが焦るように叫ぶ。しかし、隆人は全く意に返さない。


 そうしている間にも青い狼はどんどんとその距離を詰める。だが、その距離が50メートルを切ったところで狼の進行はストップする。


 ドゴン!と言う音とともに青い狼の横っ腹が爆発する。狼の身体は勢い良く吹き飛び、横の壁に激突する。


 見ると先程青い狼がいた場所には腕を振り向いた人型の魔物がいた。大きさは2メートルくらいで全身が火のように真っ赤である。振り抜いた右腕はぶすぶすと煙を立てる。


 と、今度は右側から尖った氷塊が赤い魔物目掛けて飛んでくる。そちらを見ると先程の青い狼が起き上がり魔法のように氷塊を作り飛ばしてきていた。 
 氷塊を回避した人型の魔物が狼魔物に急接近する。その速度は上の階層でこれまでみてきたどんな魔物よりも速い。


 狼魔物は氷塊を飛ばすのをやめ、大きく吠えたかと思うと、狼魔物の方からブォッと渦をまくように冷気が吹き出す。
 接近をやめ退避しようとする人型の魔物だが広い冷気の渦は逃げようとした人型魔物を容赦なく包み込む。


 人型魔物の赤い体は高温のようで、冷気と拮抗していたが次第に冷気の勢いは強まっていき。やがてその身体は凍りついた。


「今のは『猛吹雪ブリザード』!?まさか、氷魔法のしかも上級魔法ですよ!?」


 ティナが驚きの声を発する。今青い狼が放った冷気の渦、それは猛吹雪と言う魔法と全く一緒であった。
 猛吹雪は氷魔法の1種である。氷魔法は水属性に分類される魔法であるが、扱いが難しい魔法と言われている。その中でも猛吹雪は上級魔法と言うレベルの高い魔法である上に風属性の適正も必要となる。


 魔法使いの中でも使い手の滅多にいないその魔法を魔物が使用したことに驚きが隠せない。
 

 だが、そんな事は露知らず。青い狼魔物は凍りついた人型魔物の所へと近づいていく。
 そして凍ったままその身体にかぶりついた。


 魔物同士の凄まじい殺し合いと捕食。目の前の光景にティナとロロノは固まる。
 しかし驚くべき事はこれで終わらない。


  ズドンッ

「きゃぁっ」


 いきなり上から何かが恐ろしい速度で降ってくる。それは着弾し大きな音を立てる。
 ティナはつい可愛らしい悲鳴をあげる。


 それは巨大な鷲のような魔物であった。その魔物は巨体に合わせた大きな足で狼魔物の頭を地面に叩きつけている。頭に鉤爪がしっかりとくい込んでいる。
 大きな鷲の魔物は足を離す。青い狼魔物は既に息絶えていた。


 一瞬前まで殺し合いに勝ち捕食者となったはずの魔物が、次の瞬間には殺される側になる。


 鷲の魔物は隆人達に気づいたようで鋭く睨み付けたかと思うと、再び羽を広げる。
 そして、滑空するように飛びかかってきた。一番前にいた隆人に向けてその鉤爪が向けられる。


「と、言うように」


 当の隆人は全くの通常通りの様子で再び口を開く。だが、その手にはいつの間にストレージから出したのか剣が1本握られていた。


 鉤爪が直撃する、と言うところで振り向き鷲魔物の方に逆に突っ込むと同時、瞬時に剣を2度振るう。一撃目で鉤爪ごと前足を切り飛ばし、そのまま二撃目で鷲魔物の首を飛ばす。
 即死した鷲魔物は突進の勢いのまま地面を滑る。そして数メートル程進み止まった。


 まさに一蹴。圧倒的な力の差である。


 そしてティナとロロノの元に戻ってきた隆人は事も無げに先程の言葉をつづけた。


「85階層からは魔物の強さも段違いなんだよ。だからこれまで以上に油断しないようにね」


 そう言ってニコリと笑うのであった。


「聞いたこともない魔物達、強さも恐らくAランクを優に超えています。迷宮の底はこんな世界があったのですね……」
 

 ティナが緊張した面持ちで呟く。


「まぁここにはもっとやばいのもいるんだけどね……って、話をすればちょうど来たみたいだよ」


 聞こえてくるバサッバサッと羽ばたく音。巨大な気配が近づいてくる。
 ティナが視線を上に向け、今日1番の驚きを顔に写し、そして思わずと言った様子で言葉を発した。


「りゅ、竜っ……………」
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