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第4章 一通の手紙と令嬢の定め

トニの村

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(第11回ファンタジー小説大賞の結果が確定し、175位という順位をいただきました。投票してくれた方ありがとうございました)




 迷宮都市ディアラを出発し、シャリエ公爵領を目指す隆人達は退屈という思わぬ難敵と戦いながら、最初の中継地点であるトニという村に到着した。


「ここが、……なんだっけ?」
「トニの村ですよ、リュート様」

 長旅の疲れ、というより退屈さから集中力の散漫な隆人にティナが苦笑いを浮かべながら答える。
 そんなやり取りをしながら2人とそしてロロノは馬車を降りた。


「それじゃあ、1時間後に出発するからクリスティーナ様達はそれまで村を見ているか休むかして待っていてくれ」
「はい、わかりました」


 「蒼翼」のリーダーらしき男が馬車を降りたティナのところにやってきて一言二言指示を出す。


 予定ではここで小休止を挟むことになっている。実は今回のこの行軍は公爵家要人の護送ということになっており、通過する領地の代表や村の長には事前に話を通してある。
 ほとんど形式的なものではあるが、公爵家というそれなりどころかかなり高い地位にある家である為このような体裁は必要なことであり、実際に通過する際にも話を通す必要がある。


 1時間とは村長に、護送対象が到着しまた出発するという確認をしにいく時間である。
 加えて、旅の疲れを出来る限り軽減するという目的もあるにはあるのだが。


「それじゃあ、どうしようか」
「そうですね、1時間となると何もしないでいるには結構長いですし」
「色々みてみたいのです!」
「……たしかに、俺も村ってのは初めてだからね。ちょっと気になっているし、散策してみようか」


 そんな会話をした隆人達3人は、この休憩時間で休息を取ると共に、このトニの村を散策することにする。


 トニは十数世帯ほどが密集して生活している集落で農業や狩をして生計を立てている。
 周辺は近くにある第迷宮の影響か草原ばかりである。


 どこの領地にも属してはいないが、近くにディアラという大都市がある為、そこに向かう商人たちによって物流と付随する商いが成立しており、またその護衛等によって魔物の襲撃が抑制される等の恩恵を受けられている。
 はずなのだが。


「うーん、あんまり活気がないね」
「本当ですね」
「みんなくらい顔なのです」


 散策をする中で、畑や住居らしき場所の周りで何人か村人に出会ったり等はするのだが、その誰もが何やら暗い雰囲気を醸し出している。
 一眼ではあまり不自然なところはなく、それぞれ自分の仕事をしているように見えるのだが、その節々に何やら活気がないのである。


「どうしたんだろうね」
「そうですね、聞いてみましょうか」


 そう言って3人は目に付いた1人の村人の女性に声をかける。
 どうやら村の人たちには事前にティナの情報が知らされていたようで、ティナの姿を一眼見るなり瞠目し、大きく頭を下げる。


「これは貴族様、何か御用でしょうか」
「貴族様!?いえ、そんな事より、皆さんなんだか元気が無いようですが、何かあったのでしょうか」
「いえ、そんな事は……」


 いきなりの貴族様呼びに一瞬驚いたティナであったが、すぐにその理由を察ししかめ面になる。しかしすぐにそんな事はどうでもいいと、本題に移る。
 問われた村人は何やら苦い顔をする。


「何か問題があったのでしたら、私たちで良ければお力になりたいのですが」
「ですが……」


 なおも言い募るティナだが、対する村人も何か言いづらそうにしている。
 このまま分からずじまいか、とティナ達は尋ねるのを諦めようとする。


「盗賊だよ!」
「盗賊?」


 しかしそこに、話を聞いていたのか、近くの住居から10歳弱程の少年が出てきて、開口一番にティナ達に向けて叫ぶ。
 隆人はその言葉に疑問を抱き、少年に再び質問を返す。


「うん!少し前からうちの村にやってきては物を奪っていくんだ!だからみんな元気がなくなって」
「なるほど」


 少年によると、ここ最近この辺りに盗賊の一味が現れ、その盗賊達が頻繁にこのトニの村に襲撃をかけては作物や狩で手に入れた動物、魔物達の肉などを奪っていくのだという。
 このトニの村にとってはそれらは大事な食料であると同時に商品でもある。
 それらが奪われるということはこの村にとって死活問題である。


 また、何度か迎え撃とうと村の男達が抵抗したのだが、それでも一村人と屈強な盗賊では相手にならず何度も返り討ちにあっているらしい。
 それが更に村人達の元気を失わさせていた。


「村の人たちが元気がない理由はわかったけど、何で相談するのを躊躇ったのかな?」
「それは……」


 隆人はそこまで聞いたところで、質問の相手を再び村人の女性に戻す。
 それほど深刻ならば、なぜ自分達に頼ろうとしないのか、それが疑問になったのだ。


「1つは貴方方が他領の貴族様であるからです。貴族様に盗賊退治など依頼してもしもの事があればこのような小さな村は潰されます。それに1つ借りを他領の方に作ればそこから飲み込まれる可能性もありますし。それに……」
「それに?」
「うちの村にはお金がないのです。なんとかみんな飢えずに生活しておりますがそれが限界です。討伐のために冒険者を雇うための報酬となるお金がないのです」


 言いづらそうに語るその理由はなるほど、たしかに小規模な村なりの深い理由があったのだとわかる。


 その理由を聞いた隆人はその深刻さに顔をしかめると共に見過ごせないという気持ちを湧かせる。


「大丈夫だよ」
「はい?」
「盗賊達は俺たちが退治する。これでも冒険者だからね」
「ですが、今言った通り報酬が……」


 ないんです。と言おうとする村人の女性に、隆人は笑いながら、


「いや、それも大丈夫だよ。報酬はいらない。それだと面目が立たないなら……そうだ、この村を俺たちが通る通行料って事にしてもらおう」
「そんな、申し訳が…….」


 それでもなお断ろうとする村人、しかし隆人はそれを遮り、受け入れることはない。


「さぁ、ティナとロロノも行こうか」
「盗賊退治ですか、場所はわかるのですか?」
「いや?だからこれから探すんだよ。アジトを探して強襲して、退治する。休憩時間の1時間の間に片付けないとね!」


 隆人はここまでの馬車の旅で相当フラストレーションが溜まっていたようでウキウキとしながらそういう。


 そうして隆人達は休憩中での超速盗賊退治へと繰り出した。
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