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第4章 一通の手紙と令嬢の定め

苦悩

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(セバスさんの口調、普段使うものではないので非常に書きにくい……違和感感じたらすみません汗)



「旦那様」
「セバスか」


 隆人達のいる牢で話、もとい交渉を終えたオズワルドは地下室を出るや否や何もいない傍らから声が響き、オズワルドもその方へと話しかける。


「旦那様、僭越ながらあれは流石にやり過ぎではないかと」


 と、突然オズワルドの隣に滲み出るように1つの人影が現れる。先程まで隆人達の出迎えをし、執務室までの案内をしていたセバスである。
 いつの間にかいた彼の姿は当然のようにオズワルドのすぐ横に控えていた。


 そんなセバスはオズワルドに対し表情を崩すことなく苦言を呈す。


「あれではお抱えにするどころか逆効果かと思われます」
「わかっておる。だがあの者たちの態度は受け入れられなかったのだ」
「日頃から旦那様の短気は収めるよう言っておりますのに」
「すまぬな、悪癖とは分かっているのだが……」


 そう言って苦笑するセバス。恭しい言葉ながらその様子はかなり砕けており、内容もとても主従の関係とは思えないほど辛辣である。


 セバスば先代のシャリエ家当主から仕えているため、数十年という非常に長い付き合いであるこの2人は今では立場や年齢こそ違えど親友の様な存在であり、オズワルドも絶対の信頼を向けているのだ。
 この気兼ねのなさもそれ故である。


「それより、どうだ?」
「はい。やはりあの者たち、相当の実力者なようでございます」
「そうか、お前から隣の部屋に待機させた腕利き達の気配に気づいていたと、聞いてもしやと思っていたが」
「はい。あの男性の方は完全に気づいていたようです、先ほども隠れていた私にも気づいたようおられますし」


 その言葉を聞きオズワルドが瞠目する。横にいるセバスは執事という立場にこそいるがその実力は確かなものであるという事を知っている。
 多くの実力ある冒険者達をお抱えにしていながら自らの脇をこの執事に置いている事からもそれは伺える。


 先程の交渉の際も実は影で様子を伺うとともに警戒をしていたのだ。


「私、これでも隠密にはそれなりの自負があったのですが。もう歳でしょうか」
「冗談を言うな。お前の隠密能力は、王都で軍部の指揮を執る私から見ても超一流だよ。Aランク冒険者の斥候にすら勝るとも劣らないだろう」


 事実、セバスの隠密は一般人にはすぐ隣に立ったとしても知覚するのが困難というほどのレベルである。 
 だからこそそんなセバスの本気の隠密を見破ったという隆人にオズワルドは戦慄する。


「どうやら気配察知系の能力を持っているようだな。それもかなり高精度の」
「そのようでございます。しかも手には魔力の使用を無効化する手錠がかけてありますので」
「自前の技術アーツのみでスキル並みの精度の気配探知か。それだけでも化け物だな」
「はい。恐らく私でも念入りに準備をしてなお制圧できるがどうか。隣の獣人の少女も男性に及ばすながらかなりの手練れです」
「わかった。監視の者たちにも注意を促しておこう」


 そう言いながら苦笑いをするオズワルド。先程自分の短気で隆人と対立した事が頭をよぎる。


「それと、クリスティーナの様子は?」
「お嬢様は部屋にお戻りになりました。扉は厳重に警戒しております」
「そうか。もう家出などさせないよう徹底してくれ。これから忙しくなるぞ、本来なら去年のうちに成人の儀も終えているはずなのだが」
「仕方ありません。これから穴埋めをしていけばよろしいでしょう」
「そうだな。準備は任せる。」
「お任せを」


 そんな会話を交わし、オズワルドはセバスを別れ、残った作業を片付けるために執務室へと戻っていった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  ボフンッ

 その頃、ティナは自室のベッドに身を投げていた。部屋に通された後すぐに風呂に入ったティナは準備されていた部屋着に袖を通していた。


 部屋着といっても貴族らしくゆったりとしながらも飾りの散りばめられた豪華なものである。しかもあつらえたようにサイズもぴったり仕立てられている。


 しかしティナはその服が皺になるのも気にせず、心情のままこれまた豪華なベッドへと飛び込んだ。


「どうしましょう……」


 ベッドに埋もれたティナが苦く相貌を歪める。頭の中は先ほど捕らえられた隆人とロロノで占められている。


「まさかお父様、話も聞かずリュート様たちを牢に入れるなんて、信じられません。あの様子では説得もできそうにありませんね」


 ある程度予想はしていたといえ、この状況はティナを焦らせるには十分である。このままでは隆人達はよくて監視の中でのお抱え。それか幽閉。最悪処刑すらありえる。
 

「それに、私の部屋も外には監視がいるようですしね。困りました」


 そう呟くティナの目は淡く輝いている。「天眼」を発動し周囲を伺っているのだ。
 ティナの天眼は隆人の気配探知とは違い視覚がスキルの中心であるため壁など障害物を挟むと効果は大幅に減少する。しかし、これまで培った感覚も併せて、ある程度なら感知できる。


 ティナはその感知で外に監視が立っている事を理解していた。


「恐らくこのままでは事態は悪化するだけでしょうし。私が戻った事でお父様は王太子殿下との婚約を進めるでしょうね」


 そこまでブツブツと呟いたティナはやがてガバッと体を起こす。


「やはり、私がなんとかしなければ!」


 
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