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革命編 四章:意思を継ぐ者
二人の包囲網
しおりを挟む元マシラ共和王国の闘士エアハルトは、リエスティアが居た客室を襲撃しそこに居たアルトリアを誘拐する。
そして自身の身体能力を駆使して帝城から脱出し、貴族街の中に紛れ込んだ。
銀髪に戻りアルトリアを抱えながらも建物の屋根を跳躍し移動するエアハルトは、ある建物の路地へ降りる。
そして石畳の地面にアルトリアを降ろすと、何かを待つように周囲を確認しながら鼻を動かした。
すると後ろを振り返り、路地の中に入って来た人物を確認する。
その人物は顔を隠す茶色の外套を羽織っており、エアハルトは視線を細めながらそれを見ていた。
そしてエアハルトの傍で立ち止まったその人物は、自ら顔を覆っている布部分を外す。
その人物はアルトリアよりも薄い金色の髪を持つ、絶世の美女と言える容姿をした妖艶な女性だった。
「――……御苦労様ねぇ。エアハルトぉ」
「……クビア」
そこに現れたのは、エリクの魔力斬撃を受けて重傷を負ったエアハルトを治癒した妖狐族のクビア。
そしてクビアという名は、【結社】の仲介役としてケイルにも通じていた女性でもある。
更に黒獣傭兵団に潜んでいた魔人であるマチスに関しても、老騎士ログウェルに追い詰められていた状況で救い出した事もあった。
エリク達の旅において影に隠れながら暗躍していたクビアが、再びその姿を見せる。
しかも自ら勧誘したエアハルトと再び会うと、労う言葉を向けながら更に歩み寄った。
「それにしてもぉ、予定とちょっと違うんじゃなぁい?」
「……」
「本当ならぁ、リエスティアって子の護衛をしてるフリをしてぇ、隙を見てアルトリアって子を誘拐する手筈だったのにぃ。どうしてこうなってるのよぉ?」
「共和王国から来た人間共が拘束された」
「あらぁ、そうなのぉ?」
「そんな状況で、護衛など出来ないだろう。だったら、目的の女を誘拐した方が早い」
「それはさぁ、ちょっと安直過ぎなぁい?」
「どんな形であれ、お前の依頼は果たした。後は勝手にしろ」
「……そうねぇ。確かにぃ、こっちの依頼者の要望は叶えたわけだしぃ。まぁ、いいかしらぁ」
エアハルトとクビアはそうした話を交え、互いに不測の事態に対する結果にある程度の妥協を示す。
この話を聞く限り、本来の計画では共和王国の使者達と共に同行して来たエアハルトは、本当にリエスティアの護衛となるはずだった。
しかし裏の目的では、リエスティアと共に居るアルトリアを誘拐する事をクビアから依頼されていたらしい。
最終目的がアルトリアの誘拐である以上、エアハルトは確かにその目的を果たした。
それに納得したクビアは、エアハルトの足元に寝かされているアルトリアを見下ろしながら膝を曲げて屈んだ。
「じゃあ、この子をさっさと依頼者の所に――……えっ?」
「どうした?」
「……ちょっとぉ。これ、どういうことぉ?」
「!!」
クビアは倒れているアルトリアの乱れた金髪に触れ、その顔を確認しようと手を動かす。
しかしアルトリアの顔を見たクビアは驚愕の表情を見せ、立ち上がりながらエアハルトを睨んだ。
そしてクビアの文句にエアハルトは怪訝な表情を見せ、そこでアルトリアの顔を見る。
するとそこに倒れていたのはアルトリアではなく、木製で出来た人形の顔が浮き彫りとなっていた。
「人形だと……!?」
「……騙されたわねぇ、エアハルトぉ」
「騙された……!?」
「貴方が攫って来たのはぁ、本物じゃなくて人形だったぁ。そういうことよぉ」
「なっ!! だが、匂いと感触は確かに……!!」
「そんなのぉ、幾らでも誤魔化せる手段はあるわよぉ。……人間の魔法ってのもぉ、意外と凄いわよねぇ」
「……ッ!!」
エアハルトは自分が騙されて本物ではなく人形を連れ去った事を知り、驚愕しながらも歯を食い縛りながら屈辱に満ちた表情を浮かべる。
そんなエアハルトに呆れた様子を見せるクビアだったが、見下ろしていた人形を見ながら呟いた。
「どうしようかしらぁ。今からじゃ仕切り直しも出来ないしぃ……」
「……俺がまた乗り込み、本物を攫う」
「本物が何処に居るか、分かるのぉ?」
「!」
「人形を用意していた以上はぁ、帝国もこっちの目的に目星は付けてたってことよぉ。本物が帝城の何処かにいるとしても、完璧に居場所は隠蔽されてるはずよねぇ」
「ならば、帝城の人間全員を倒して聞き出せばいい。それから探す」
「それも手なんだけどねぇ。でも事態を公にし過ぎると、他の国まで動きかねないしぃ――……」
「――……随分と馬鹿っぽい話をしているわね?」
「!!」
「!?」
目的を果たす為に話している最中、突如として別の声が二人の言葉を遮る。
それに気付き声が聞こえる場所に視線を移した二人は、倒れている人形に視線を注いだ。
そして金色の偽髪を被せられた人形の顔が、黒い魔力に覆われ始める。
すると人形の顔から再びアルトリアが形成され、二人は驚愕を示しながら飛び退き警戒を見せた。
アルトリアを模した人形は両手を動かし、身を起こしながら立ち上がる。
そして普通の人間と変わらぬ動作を見せながら、エアハルトとクビアに対して向かい合いながら話し始めた。
「どうも。私に騙されたお間抜けさん達」
「……ッ!!」
「さっきから話を聞いてたけど、馬鹿っぽい話をしてるわね。……そもそも、帝城に私が居ると思い込んでるのが馬鹿の発想だわ」
「なに……!?」
「私もリエスティアも、共和王国から使者が来るって聞いてから別の場所に隠れてるわよ。大人しく帝城に居るワケがないでしょ?」
「く……っ!!」
「全てがアンタ達やウォーリスの思い通りになるとは思わない事ね、お馬鹿な魔人さん。――……もう出て来て良いわよ。二人とも」
「!」
アルトリアは人形を通して魔法で擬態した表情ながらに笑みを浮かべ、二人に対して馬鹿にしたような言葉を向ける。
それを聞き憎悪混じりの敵意を浮かべたエアハルトとクビアは、人形のアルトリアを破壊しようと攻撃を加えようとした。
しかし怯む様子も見せないアルトリアの声が、別の者達に向けられる。
その瞬間に路地の両側となる出入り口から降り立って姿を見せた二つの影に、エアハルトとクビアはそれぞれに視線を向けながら驚愕した。
「ッ!!」
「なんですってぇ……!?」
「こっちが何の用意もせずに、アンタ達を逃がすわけがないでしょ?」
「――……ほっほっほっ。若者達が頑張っとるのに、年寄りが暇を持て余しておるのはいかんですからなぁ」
「――……ここまで作戦通りとは、見事な御手前ですな。アルトリア様」
アルトリアは黒い影を見せた笑みを浮かべ、路地の両出口を塞ぐように現れた新たな二人に視線を向ける。
片や現れたのは、『緑』の七大聖人である老騎士ログウェル。
そしてもう一人は、その『緑』の七大聖人を先代として務めていた老執事バリス。
気配を消して現れたログウェルとバリスは、互いに似た尺度の長剣を携え、隠していた威圧感と殺気を路地全体に満たしながら魔人の二人に近寄り始めた。
そうした状況でエアハルトとクビアは互いに構え、囲まれた状況に対応しようとする。
しかしアルトリアは勝ち誇る様子を見せながら、ログウェルとバリスに改めて声を向けた。
「お爺ちゃん達、期待してるわよ」
「ほっほっほっ」
「期待に応えられるよう、努めましょう」
「……チッ」
「本当に、厄介な事になったわねぇ……」
アルトリアの声に応えたログウェルとバリスは、互いに微笑みを浮かべながら長剣を構える。
それに対してエアハルトとクビアは表情を険しくさせ、包囲されるという予想外の状況に対応すべく構えを見せた。
こうして誘拐されたかに見えたアルトリアは、人形を使い自身の姿を擬態する。
そして誘拐の主犯である魔人達と、新旧である『緑』の七大聖人ログウェルとバリスを対峙させたのだった。
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