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革命編 四章:意思を継ぐ者

変わらない友

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 祝宴パーティーの会場で女勇士パールと再会したアルトリアは、自分自身が過去アリアを思い出しているわけではない事を明かす。
 それについてパールは気にしない態度を見せ、アルトリアは心の奥底にあるもやを幾らか吐き出せた事に満足し、祝宴に参加した狙いの一つを明かした。

 それは、自分アルトリアを誘拐しようとしたクビアとエアハルトの二人をえさにした作戦。
 彼等の侵入を手引きし、自分を誘拐させようとした帝国内の上層部に潜む裏切り者を探り出す為に、アルトリアは二人を連れて祝宴に赴いていた。

 そうした事情を聞いたパールだったが、彼女自身はそうした出来事が起きていた事を知らず、脳内を困惑させながらも簡潔に物事を読み解く。
 アルトリアが祝宴ここでも悪巧みをしている事を察したパールは、微笑みを浮かべながら声を向けた。

「――……お前の状況はよく分からないが、お前が誘拐されそうになって、それに協力した者が帝国内にもいる。それを誘き寄せる為の作戦を、今やっている。そういう話でいいんだな?」

「ええ」

「そうか。――……私も、何か手伝える事はあるか?」

「えっ」

 自分なりに状況を整理して伝えるパールは、自らアルトリアの策に手を貸す意思がある事を伝える。
 それを聞いて驚きを浮かべたアルトリアだったが、微笑みを浮かべた後に顔を横に小さく振った。

「……ありがとう。でも、貴方まで巻き込むつもりはないわ」

「何故だ?」

「貴方とこの件は、無関係だもの」

「無関係なんかじゃない」

「えっ」

「お前は、私の友だ。なら無関係じゃない」

「……!!」

「それにお前には、樹海で何度も助けられた。エリオとの事や、ブルズとの決闘。そしてクラウス達に捕まった私達を助けてくれたことも」

「……決闘とかの事はともかく。貴方達が父上クラウスに捕まったのは、私が樹海に入り込んだせいよ。その贖罪を、私はエリクに頼んだだけ」

「それでも、樹海の者達はお前に感謝している」

「!」

「お前が来たおかげで、樹海の景色はひらけた。外を知り、そして外の者達との繋がりが出来た。……私は次期大族長候補として、そして樹海の代表者として、お前に礼を言いたいとずっと思っていた」

「……」 

「その礼になるなら、お前の手伝いをしたい。……さっき言っていた記憶の事もそうだが、無関係だからと言って私を遠ざけるな」

「……ッ」

 パールは過去の出来事を中心に、今までの出来事を起こしたアルトリアに感謝している事を伝える。
 そして現在のアルトリアが自分パールを遠ざける為に、過去の記憶について敢えて話し、更に部外者である事を理由にパールから遠ざかろうとしていると考えた。

 その直感はアルトリアの図星を突き、思わず表情を強張らせる。
 そして顔を伏せながら大きく溜息を漏らしたアルトリアは、諦めの微笑みを浮かべながらパールに返答した。

「……分かったわ。そこまで言うなら、手伝ってもらおうかしら」

「ああ。それで、私は何をすればいい?」

「そうね。……私と一緒に、その囮役をしている二人を監視してほしいの」

「監視だけか?」

「ええ。ただ彼等と過剰な接触をしてくる人がいた場合、その人物の正体を探ってほしいわ」

「要は見張るのか。そういう事なら、私達センチネルが最も得意とすることだ」

「そうね」

「で、その二人というのは?」

 パールは周囲を探りながら、監視するという二人を見つけようとする。
 それに対してアルトリアは手持ち鞄から一つの紙札を取り出し、それをパールに見えるように机の上に置いた。

 その紙札には何も書かれておらず、一見すればただの白紙にしか見えない。
 それを不思議そうに見つめるパールは、アルトリアに問い掛けた。

「これは?」

「私が新しく身に付けた技術わざよ」

「わざ……魔法と同じ、神のわざという事か?」

「そんな感じ。……パール、この紙を耳元に近付けてみて」

「?」

 アルトリアが紙札を持ちながら、自信に満ちた笑みを浮かべてパールに差し出す。
 それを受け取ったパールは首を傾げながらも、言われた通りに白紙を左耳に近付けた。

 すると、パールの表情に不思議さにまさる怪訝さが宿り始める。
 そして誰も居ない左側に顔を向けた後、紙札を耳から離したパールは眉を顰めながらアルトリアに尋ねた。

「……アリス。これは……」

「どう?」

「……誰も居ない左側こっちから、声が聞こえた。……いや、この紙から……?」

「そうよ。――……その紙と同じ物を、監視している二人の服にも取り付けてるの」

「!」

「その紙を通じて、彼等の周辺から聞こえる声を拾ってる。盗聴器ならぬ、盗聴札ってとこかしら」

「……ここに居ない人の声が、この紙から聞こえるのか?」

「ええ。ちなみに、私の右耳にも同じ紙を付けてるわ」

「!」

「ほら、この耳飾り。一見すればただの宝石だけど、その紙を中継して声が届くように細工してるのよ」

「……よく分からないが、凄い事をしてるんだろうというのは分かる」

「そういう認識でいいわよ」

 微笑みながら右耳の耳飾りを見せるアルトリアは、クビアとエアハルトの衣服に取り付けた盗聴用の紙札について明かす。
 それを聞きながら驚くパールだったが、手に持っていた紙札を机越しに返却しながら、アルトリアに改めて聞いた。

「でも、なんでその二人に盗聴札こんなものを? 協力しているんじゃないのか」

「貴方と違って、彼等との関係はまだ浅い。私を信用して貰ってない可能性が高いし、まだ協力者と通じ合ってる可能性もあるの。最悪の場合、協力者と接触した彼等は、また私の敵になる」

「そんな奴等を囮にしているのか?」

「ええ。だから念の為に、彼等の衣服ふくに取り付けてるの。……彼等の協力者が接触して来るのか、それとも彼等自身が協力者と接触しに行くのか。それを見極める為にね」

 クビアとエアハルトに盗聴札を付けた理由を話すアルトリアは、机に置いた紙札を回収して手持ち鞄に戻す。
 それを聞いていたパールはある疑念の浮かべ、敢えてアルトリアに問い掛けた。

「もし、その二人が協力者というのに自分で近付いたら。どうするんだ?」

「その時には、彼等は今も私の敵ということね。残念だけど、その時には何でも使って、彼等を抑え込むしかない」

「……その二人は、お前の友なのか?」

「友達というわけじゃないわ。……ただ、仲良く出来れば良かったなとは思うでしょうね」

「そうか。……それで、紙札それを使って監視しているのは分かった。だが、私が手伝える監視というのは?」

「さっきも言ったけど、その協力者が現れた時に姿を確認する役目。後は、いざという時に協力者を取り押さえる役目になるかしらね。貴方の実力だったら、大抵の相手は余裕のはずよ」

「そうか。……じゃあ、それまでは?」

「それまでは、基本的に暇ね。だから私も、今は暇をしてるところ。さっきから聞いてるけど、特に二人に絡んで来るような声も聞こえないし、そうした話も二人はしてないからね」

「二人が何処にいるかも、分かっているのか?」

「大まかには。私を中心にどの方角に居るかくらいは分かるわ」

「そうか。なら、近くに居た方がいいんだな?」

「ええ。でも近くで監視してると、あの二人にも監視してるのがバレちゃうだろうし。私って、尾行とか監視とか苦手なのよね」

 自分の不得手を語りながら笑うアルトリアは、二人を盗聴しながらも監視するのが不向きである事を語る。
 それ故に離れて盗聴するのみに留まっている事を伝えると、パールは考えながらこうした提案をした。

「……なら、私がお前に協力すれば?」

「そう。それを貴方に御願いしたいの」

 パールが自身の役割を察した後、アルトリアは再び手持ち鞄から新たな紙札を取り出す。
 それも白紙の状態に見えたが、アルトリアはそれをパールに差し出しながらこう伝えた。

「この紙札も、二人に取り付けた盗聴札と同じ物。この紙の近くで声を発すれば、私の耳飾りに声が伝わる」

「!」

「あの二人の特徴を教えるから、もし見つけたら彼等を上手く監視して。そして二人に必要以上に関わろうとしてくる様子がある人間が居たら、その人間の特徴を伝えてほしいの」

「……なるほど」

「どう、やれそう?」

「やれるさ」

「良かった。……監視して欲しいのは、派手で目立つ金髪金目の女性と、一緒に歩いてる銀髪の男。その二人組を見かけたら、気付かれないように監視して。言っておくけど、あの二人も相当な実力者だから、監視してるのがバレる可能性もあるわ。そうなったら、協力者には接触しないかもしれない」

「分かった。じゃあ、今からか?」

「いいえ。声を聞く限りじゃ、二人が過剰に接触して来る奴はいないみたい。それに時間的にも、もうすぐ皇族が入場して来る頃だと思う。周囲はもっと騒がしくなるだろうし、外部の招待客は席に戻されるだろうから、今は声だけで様子見かしら」

「じゃあ、しばらく暇か。ならお前が樹海もりを出てから、何があったのか聞きたい」

「それは良いけど。ただ話すと言っても、さっき言ったように与えられた記憶の話よ?」

「別にそれでいい。久し振りに、お前の話を聞かせてくれ」

 二人はそうした話を行い、アルトリアの作戦にパールが参加する事も決まる。
 そして久し振りに再会した二人は、樹海で別れてからの二年以上の年月を互いに話し、珍しくアルトリアとパールは笑いを浮かべ合っていた。

 こうして友であるパールと再会したアルトリアは、彼女の手を借りる形で帝国の裏切り者を探り出そうとする。
 そして自己流の魔符術を用いて、クビアとエアハルトの周囲の近付き話し掛ける者達を警戒し続けた。
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