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革命編 四章:意思を継ぐ者

命の選択

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 地獄のような光景を広げる帝都の上空に、生命力オーラで作り出した巨大な気力斬撃ブレードが飛ぶ。
 それに見舞われそうになるウォーリスは転移で避け、捕らえたアルトリアと共に斬撃を飛ばした人物を見た。

 それは長らく行方不明となっていた、元黒獣傭兵団の団長エリク。
 アリアとの旅を経て大きく成長したエリクが、四年の時を経て再びウォーリスと対峙する形を見せた。

 始めこそエリクの姿を見たウォーリスは、困惑を漏らしながら驚愕を見せる。
 しかし僅かな時間で動揺を治め、余裕の笑みすら漏らしながら言葉を零した。

「――……ふっ。……今更になって貴様が現れたところで、どうしようもない」

「……奴は、確か……」

「お前の強さは、既にランヴァルディアとの戦いで確認済みだ。例え『鬼神』の力になったとしても、私には勝てん!」

「……そうか。奴が、ウォーリスか」

「貴様程度の力で、何が出来る? 帝都ここを救う事も、そしてアルトリアも救い出せない貴様にッ!!」

 ウォーリスは帝都に広がる惨状と手の内に収まるアルトリアの事を口にし、絶対的な優位が自身にある事を誇示する。
 しかしエリクの耳にはその声は届いておらず、ただアルトリアを捕まえている男が未来や現状の元凶ウォーリスである事を察した。

 そして再び右手に持つ大剣に巨大な気力オーラを溜め始め、塔の屋根を足場に再び大剣を振ろうとする。
 しかしウォーリスは敢えてアルトリアの首を掴みながら右腕を前へ突き出し、エリクの大剣を止めさせた。

「撃ってみろ! 今度はアルトリア嬢にも当たるぞっ!!」 

「ク……ッ!!」

「……ッ」

「貴様に流れる『鬼神』の力であったとしても、私と同じ到達者エンドレスでなければ恐れるに足らんっ!! ……そして既に、手を下すまでも無い」

「!?」

 ウォーリスはアルトリアを盾にし、左手の人差し指を額横に置く。
 そして口を動かしながら、帝城内の会場に居る悪魔騎士ザルツヘルムに受け付けた悪魔の種を通して『念話テレパシー』で呼び掛けた。

「ザルツヘルム。創造神の肉体リエスティアは確保できたか?」

『――……申し訳ありません。帝国皇子ユグナリス狼獣族の男エアハルトに妨害され、確保に至れていません。特に皇子は、七大聖人セブンスワンにも劣らぬ力を身に着けつつあります』

「チッ、やはりあの皇子おとこ不穏因子イレギュラーか……。排除できないのならば、侍女おんなを自爆させて帝都ここごと消滅させる。貴様は予定地点に戻り、帝都ここを消失させた後に『創造神の肉体リエスティア』を確保しろ」

『……ハッ』

 念話でザルツヘルムに命令を飛ばしたウォーリスは、僅かに苛立ちを声に乗せる。
 そして口に出ているその会話を聞いていたアルトリアは、後ろ首を持たれた状態で呼吸が整えられ、魔力マナで拡声させた声をエリクに届かせた。

「――……エリク、聞いてッ!!」

「!」

帝都ここを消滅できるだけの手段を、あの帝城なかに潜ませてるっ!! それを何とかしないと、貴方まで巻き込ま――……グッ!!」

「余計な事を……っ」

「アリアッ!!」

 放たれる言葉を遮るように、ウォーリスは首を掴んだ右手を離し、今度は右腕でアルトリアの首を絞める。
 それを聞いたエリクだったが、それに対処されるよりも早くウォーリスが行動を起こした。

「だが、もう遅い。――……帝都諸共、貴様も消え失せろッ!!」

 ウォーリスは左手を帝都しろに向けて翳し、手の甲に刻まれている黒い紋様を赤く輝かせる。
 それと同時に帝城内に巨大な威圧感が発生し、エリクとアルトリアはそれに気付きながら下を見た。

 しかし次の瞬間、その膨らむような威圧感が突如として消える。
 それを三名は感じ取り、それぞれに動揺した表情を見せた。

「……膨らんだ圧が、消えた……?」

「いったい、何が……?」

「……どういうことだ。……何故、消滅が起きない……!?」

 驚きを見せるアルトリアやエリクを他所に、ウォーリスだけは怪訝さを含んだ表情で帝城しろを見下ろす。
 そして自身の左手に刻まれていた紋様が剥がれ崩れる様子を見て、ウォーリスは確信するような言葉を漏らした。

「あの侍女おんなに仕掛けた自爆術式は、確かに発動している。……だが、消滅が起きないのはどういうことだ……。……ザルツヘルム、聞こえるか?」

『――……はい、ウォーリス様』

「会場に戻り、中の様子を確認しろ。どうして自爆が起きていない?」

『――……確認しました。恐らく、ログウェル=バリス=フォン=ガリウスの仕業です』

「なに?」

『奴の姿だけ、会場内にありません。恐らく侍女が自爆する瞬間に、何処かに転移したものかと思われます』

「転移だと? 馬鹿な。あの自爆術式じゅつは、都市一つを消滅させる程の規模だ。それならば転移した先で自爆しても、その兆候が確認できるはずだが……」

帝都ここに被害が及ばぬ程の長距離に、転移したものかと』

「……チッ、七大聖人セブンスワンめ。またしても、邪魔に入るとは……」

 ザルツヘルムに状況を確認させたウォーリスは、苦々しい悪態を漏らす。

 自爆術式が施された侍女の傍に居たログウェルは、爆発が起こる圧力をエリク達と同じように感じ取った。
 そして転移魔法に乗せて指定位置に飛ばすのが間に合わないと咄嗟に察し、自ら侍女に触れて長距離の転移を行う。

 これにより侍女の自爆術式は発動しながらも、自爆事態は帝都内では起きずに済む。
 しかし邪魔をされたウォーリスの不機嫌さは増し、その口から漏れる苦々しい言葉と状況を聞いたアルトリアは、口元を微笑ませながら呟いた。

「――……アンタの作戦、随分とお粗末ね。余裕ぶっといてこのザマじゃ、呆れるわ」

「……調子に乗るな。小娘」

「グッ!!」

「言っただろう? 状況は何も変わっていない。消滅させる事は出来なかったが、あの悪魔化した合成魔獣キマイラを止めない限り、この帝国くにはお終いだ」

「……アンタこそ、私を舐め過ぎよ」

「強がりを……」

 首を絞められたまま強がるように声を漏らすアルトリアに、ウォーリスは苛立ちを向け始める。
 しかし次の瞬間、アルトリアの全身から白い輝きが放たれ始めた。

 それに驚きを見せるウォーリスは、首を絞める腕力を高めながらアルトリアの拘束を強める。

「無駄な足掻きは止めろ」

「……ベラベラとお喋りしてくれたおかげで、良いヒントが貰えたわ」

「!」

「アンタが欲しいのは、私の魂なんでしょ。――……だったら、それが消失したらどうなるのかしら?」

「……ッ!?」

 アルトリアは全身に纏う白い生命力オーラを心臓部分に集め、胸部分の肌を中心に生命力オーラで描かれた紋様が浮かび上がる。
 それが何なのか気付いたウォーリスは、驚きを強めながらアルトリアから両腕と両手を離し、その後頭部の首と肩部分の間に手刀を浴びせようとした。

 しかしその瞬間、ウォーリス達に目掛けて縦に放たれた気力斬撃ブレードが襲い掛かる。
 僅か数十センチ先のアルトリアだけを避ける精密な気力斬撃ブレードは見たウォーリスは、苦々しい表情を見せながら両手で斬撃を受け止めた。

「グッ――……ば、馬鹿な……!? なんだ、この威力の生命力オーラは……ッ!!」

 斬撃を両手で受け止めたウォーリスだったが、先程よりも小ぶりな気力斬撃ブレードにも関わらず、掻き消す事が出来ない。
 それどころかアルトリアの魔法を幾度も跳ね除け無傷だった手袋や服袖が裂け始め、予想以上の斬撃に思わず焦りを浮かべながら斬撃そのものを右脚で蹴り上げた。

 気力斬撃ブレードはそのまま真上に逸らされ、上空の雲を突き抜けて夜空に消える。
 そして傷付いた両腕を修復させながら、塔の上から斬撃を飛ばしたエリクを睨んだ。

「貴様……。姿を消していた二年間あいだに、どれ程のちからを……っ!!」

「……やはり直接、叩き斬るしかないか」

 ランヴァルディア戦とは比較できないエリクの力を浴び、再びウォーリスは困惑を浮かべる。
 そしてエリクに対する危険度を更に高めながら、別の呼び掛けるアルトリアの声を聞いた。

「――……余裕が消えたわね。ウォーリス……いや、ゲルガルド」

「アルトリア……。……貴様、自分が何をしているか……っ!!」

「勿論、分かっているわよ。……でもコレって、アンタが最もやられて嫌か事よね?」

 『魂で成す六天使の翼アリアンデルス』で再び六枚の翼を背中に展開したアルトリアは、そう言いながら自身の胸元に浮かび上がる白い紋様を敢えて見せる。
 それが何かを知るウォーリスは表情に憤りを見せ、その術が何かを口にした。

「ミネルヴァと同じ、魂を犠牲にした自爆術式。……まさか、本気でやるつもりか……!?」

「決まってるでしょ。――……アンタみたいな奴にわたしを好き勝手されるくらいなら、アンタを巻き添えにしてでも、魂ごと消滅した方が遥かにマシだわ」

「……ッ!!」

「魂に施した術式は、私の意思と肉体が死んだ時に発動する。解除も私しか出来ない。もし死なれるのが嫌なら、大人しく悪魔達と合成魔獣キマイラ退かせなさい。――……それが、私の選択よ」

 アルトリアは自身の胸に右手を置き、左手の人差し指を向けながらそう述べる。
 それを聞いていたウォーリスは色濃い焦りを浮かべ、塔から見上げるエリクは表情を強張らせながらアルトリアを見ていた。

 こうして状況は一変し、ウォーリスの優勢は一転してアルトリアに傾く。

 それは帝都全体を人質を取られていたアルトリアが、自身の命と魂を人質とすること。
 愚直にさえ見える彼女の選択は、『創造神オリジン』の権能ちからを目的とする悪魔ウォーリスにとって最も的確な弱点を突く形になっていた。
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