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革命編 五章:決戦の大地

世界を滅ぼした者

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 修理された通信用魔道具を使う為に魔法学園へ赴いた帝国宰相セルジアスは、そこでウォーリスの側近ともアルフレッドと画面越しに向かい合う。
 そこで天変地異以降に築かれた大国に様々な面でゲルガルド血族の支配が及んでいるという、驚愕の事実を教えられる。

 更に帝都で起こした襲撃を人間大陸規模で決行しようとするアルフレッドの脅迫にオイゲン学園長等を含む魔法師達が屈し、命じられる帝国宰相セルジアスの殺害が実行された。
 そうした事態に女勇士パールも巻き込まれながらも、凄まじい速さで敵対する魔法師達を次々と制圧する。
 窮地となっている状況で更なる窮地を強いるウォーリス勢力の企みは、帝都の状況を更なる混沌へ導いていた。

 そして場面は通信用魔道具が設置された研究塔に戻り、学園長等を含む魔法師達は攻撃魔法を放った場所を見る。
 すると全員が目を見開き、そこに見える光景に驚きの声を漏らした。

「――……ッ!?」

「これは……結界っ!?」

 魔法師達が驚愕して見るのは、通信用魔道具そうちを含むセルジアスが居た場所に張られている球体状の結界。
 そしてその中に見えるセルジアスの無事な姿と、その前に立つように現れている黒い布を纏った謎の人物だった。

 それは魔法師達のみならず、セルジアス自身も驚愕させている。
 そうして守るように現れ結界で自分達を覆う謎の人物に、セルジアスは問い掛ける声を向けた。

「……貴方は……?」

「――……こんな罠も見抜けずに来るなんて、らしくないわね。セルジアス=ライン=フォン=ローゼン」

「!」

 謎の人物は機械的で籠る声ながらも、そうした口調でセルジアスに話し掛ける。
 その言葉から自分を知るであろう謎の人物は、次の室内に居る学園長等に布の隙間から見える赤い視線を向けた。

「アンタ達もアンタ達ね。こんな状況でこんな事をやってるなんて、間抜けにも程があるわ」

「……な、何を……っ!!」

「そんなに自分の命が惜しいなら――……今すぐ、その未練を断ち切ってあげる」

「!」

 謎の人物は呆れ混じりの声でそうした言葉を向けると、布から出た左腕を出して学園長オイゲンに向ける。
 見える左腕の様相は人間のそれとは異なり、肌色は無く黒く金属的な肌を見たオイゲン学園長は察するように声を漏らした。

「その腕は義手……いや、魔導人形ゴーレム! ならば、術者との回線パスを阻害するっ!!」

 学園長は現れた謎の人物が魔導人形ゴーレムである事を察し、それを操作する術者が居る事を悟る。
 そして握る錫杖を振るいながら床に叩き着けると、室内全体に施された魔法陣を輝かせながら発動させた。

 その魔法陣によって室内に青い魔力が満ちるように景色を色褪せ、それを見ながら学園長オイゲンが述べる。

「これで魔導人形そやつと術者の回線パスは切れた! 皆の者、攻撃の準備をっ!!」

「はい!」

 学園長の声に続くように、他の魔法師達も手に持つ杖を構えながら再びセルジアスへと向ける。
 そして魔力で用いる回線パスを切断できた魔導人形ゴーレムが、結界を解くのを待った。
 
 しかし十秒以上が経過しても、魔導人形ゴーレムと思しき謎の人物が張った結界は解けない。
 それを見ながら狼狽える学園長達は、動揺の声を漏らした。

「……な、何故……結界が切れない……!? 術者との回線パスは途切れ、もう操作はされていないはず……」

「……アンタ達、本気マジで言ってるの?」

「!?」

「だとしたら、もう用は無いわ。――……全て終わるまで、寝てなさい」

 回線を切断できたと思っていた謎の人物ゴーレムが再び動き声を発する様子を見て、学園長達は驚愕を浮かべながら後退あとずさる。
 しかしそれを逃さぬように、かざした左手の五本指を僅かに変形させ小さな穴を作り出した謎の人物は、そこから凄まじい速さの何かを発射した。

「グワ―ー……ガガガガッ!!」

「学園長っ!? ……ひっ……ががっ!!」

「うわぁあっ!!」

 謎の人物が張った結界を通過した何かが、学園長の身体に弾丸らしき物体を浴びせる。
 すると後方に吹き飛びながら僅かに黄色い魔力の走りを起こすと、学園長は倒れながら完全に意識を途絶えさせていた。

 更に左手を動かしながら他の魔法師達にも指を向けた謎の人物は、更なる弾丸を浴びせ撃つ。
 それに直撃した十数人の魔法師達は、浴びた直後に短い絶叫を上げた後、学園長達と同じように床へ倒れながら気を失った。

 瞬く間に学園長等を含む高位魔法師達を全て制圧した謎の人物は、左手の指を全て元の形状に戻しながら腕を下げる。
 そして振り向きながもセルジアスへ視線は向けず、通信用魔道具そうちに映し出されているアルフレッドを見た。

 そのアルフレッドが僅かに目を見開きながら、謎の人物に対して話し掛ける。

『……誰だ?』

「随分とお粗末なことしてるわね。アンタの御主人様は。……まぁ、当然よね。家畜の餌に手を出さなきゃ、この世で生きられないような奴ですもの。その部下なら、こんなせこい手段しか使えないのも頷けるわ」

『……貴様、何者だ?』

「アンタみたいな雑魚に、教えてやる義理は無いんだけど。まぁ、私の正体が知りたいなら。アンタの御主人様ボスが、よく知ってると思うわよ」

『何を言っている……?』

「あの時は逃げおおせて、今の人間大陸で好き勝手やってるみたいだけど。――……調子に乗ってると、またアンタ達ごと潰すわよ?」

『……なにっ!?』

 身体を覆う黒い布の隙間から赤い視線を覗かせる謎の人物は、画面越しにそうアルフレッドに告げる。
 すると画面の向こう側にいるアルフレッドが動揺した声を漏らし、手元と思しき場所に置かれた操作盤を激しく指で叩く音が聞こえた。

 それと同時に画面に浮かび上がる映像が大きく変化し、今度はガルミッシュ帝国のある大陸の地形が立体となって映し出される。
 すると帝国と共和王国の領土に挟まれる場所に、赤い点滅が浮かび上がる光景が見えた。

 状況に置いて行かれながらもその映像を見たセルジアスは、帝国の地理から赤く表示されている地点に何が在るのかを口に零す。

「……あの場所は、同盟都市の建設予定地……?」

「なるほど。そこに今、その雑魚アルフレッドがいるみたいね」

「!」

『……貴様、何をしたっ!? どうしてこちらの制御コントロールが奪われるっ!?』

「だから雑魚なのよ。いちいち手を動かさなきゃ、物も操作できないなんて。……その程度の装置なら、思考だけで簡単に掌握できるし、逆探知も出来るわよ」

『思考で操作……!? 馬鹿な、そんな事はウォーリス様でも……っ!!』

「鼠と私を比較するなんて、身の程知らずにも程があるわね。――……ウォーリスに伝えなさい。今から【魔王】が、またアンタを踏み潰しに行くってね」

『魔王だと……!? まさか貴様、あの――……』

 アルフレッドは驚愕した表情を見せながら荒げた声を聞かせていたが、突如として映像が途切れる。
 すると球体状に浮かぶ画面が平常時に戻り、通信用魔道具そうちは正常な状態へと戻った。

 そうしたやり取りを横で見ていたセルジアスは、巻き起こった状況の変化に必死に適応しようと思考を回す。
 それを終える前に自分達を囲んでいた結界が解けると、その場から立ち去るように歩み出る謎の人物に慌てながら声を向けた。

「ま、待ってくださいっ!!」

「……なに?」

 呼び止めるセルジアスの声に応じた謎の人物は、機械的な声ながらも不機嫌に思える口調と声色で振り返る。
 そんな人物に対して僅かに臆する様子を見せたセルジアスだったが、一呼吸を置いた後に頭を下げながら礼を述べた。

「助けて頂き、本当にありがとうございました。貴方がいなければ、私は死んでいた……」

「別に。奴等の居場所を突き止める為の、ついでよ」

「……奴等は、同盟都市の建設予定地を拠点に?」

「みたいね」

「……貴方も、ウォーリス達と敵対しているのですか?」

「敵対? こっちは人間大陸を食い荒らしてる邪魔な蛆虫と白蟻を、潰してるだけよ」

「そ、そうですか。……助けて頂いた上で、不躾だとは思いますが。貴方の御名前を、御聞きしても?」

「……はぁ……」

 そう尋ねるセルジアスの言葉に、謎の人物は敢えて溜息を漏らす。
 そして背中を見せながら部屋を出る際に、こうした言葉を残していった。

「……名前なら、さっき雑魚アルフレッドと一緒に聞かせたはずだけど?」

「え?」

「私は、この世を一度は滅ぼそうした者。……【魔王】よ」

「!」

 そうした言葉を述べた後、【魔王】と称する人物は扉から出て行く。
 それを追うように走り部屋を出たセルジアスだったが、そこには既に【魔王】の姿は無かった。

「……魔王。まさか伝承に聞く、あの……?」

「――……おいっ!!」

「!」

 消えた【魔王】について何かしらを思うセルジアスだったが、それに代わるようにある人物の声が廊下に響く。
 それは槍を持ちながら走って来るパールであり、焦りの表情を浮かべながら廊下に居たセルジアスに呼び掛けた。

「無事だったかっ!?」

「え、ええ。パール殿は?」

「外の魔法師れんちゅうが襲って来たから、全員を叩きのめした。多分、殺してはいないと思うが」

「そうですか……」

「そっちも無事だったみたいだな。良かった」

「……」

「……どうした? どこか、怪我をしたのか?」

「いえ……。……あの魔王ひとは、何処かで会っているような気が……」

「?」

 【魔王】と名乗る人物について、セルジアスは奇妙な既視感を抱く。
 それは懐かしさにも似た違和感であり、【魔王】と名乗った人物の口調や行動の一つ一つが、誰か見知った人物に重なるような気がした。

 そんな時、セルジアスの脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。
 それはセルジアスにとって身近どころか身内の人間であり、しかしながら重ねるには容姿や年齢、更には今現在その人物が陥っているであろう状況とは異なるという結論に至った。

「そうだ……。あの【魔王ひと】は……幼い時のアルトリアに、言動が似ている……。……いや、【魔王アレ】がアルトリアのはずがないか……」

「……何の話だ?」

「いえ。……パール殿、敵対した魔法師ものたちを縛り上げて、拘束する手伝いを御願いします。彼等を落ち着けて、冷静に話し合わなければいけません」

「ああ、分かった」

「それが終わったら、また各領地と各国への通信を試みます。……今は私達だけで、出来る最善を尽くさなければ……」

「そうだな」

 セルジアスはそうして落ち着きを取り戻し、学園長等を含む敵対した魔法師達から杖を取り上げ、用意した縄で縛りあげる。
 そうした状況になって判明した事だったが、他の場所に居た魔導国の魔法師達は何者かによって気絶されられており、その多くが再起不能の状況になっていた。

 それもまた【魔王】が行った事だと意識的に納得するセルジアスは、それ等の魔法師達も縛り上げながら拘束する。
 更に魔法学園に施されたという結界の仕掛けも発動せず、正常に戻った通信用魔道具を用いて、改めて各帝国領の貴族達と各国に状況の説明と救援を要請を行い始めた。

 こうしてセルジアスは【魔王】と称する人物に救われ、魔法学園での窮地を脱する。
 自分達を救いながらも消えた【魔王】なる人物を気掛かりにしながら、リエスティア奪還とウォーリス討伐に向かったユグナリス達の安否を心配に思っていた。
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