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革命編 六章:創造神の権能
勝利なき一撃
しおりを挟む天界で繰り広げられる激闘において、上位悪魔へ進化したザルツヘルムは圧倒的な能力を発揮し始める。
それに圧し負けるエリクは制約による反動で寿命を大きく失い、マギルスですら自身の死と敗北を否応なく察した。
それでも諦めずに立ち向かおうとした二人の背後で、気絶していたケイルが身体を起こす。
しかしケイル自身の意識は目覚めておらず、彼女が携えていた魔剣に秘められていたもう一つの魂が目覚めていた。
それは螺旋の未来において、『神』となり『悪魔』へ姿を変えたアリアを圧倒する実力を見せた青年。
別の未来を生き延び、あのウォーリスを討ち果たしたという、未来のユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュだった。
未来のユグナリスは【悪魔《アリア》】を滅した代償として深い眠りに就いていたが、再びケイルの肉体を依り代として目覚める。
すると彼が目にしたのは、懐かしくも驚くべき光景だった。
「『――……どうしてまた、俺は天界《ここ》に……』」
ケイルの視界を通して周囲の景色を確認する未来のユグナリスは、そこが『天界』である事を把握している。
それは未来の彼が、天界に来た事があるという証明でもあった。
更に階下を見下ろす未来のユグナリスは、そこに見える三名の姿を確認する。
一人は青髪の青年と、白髪の大男。
その二人に対して記憶の片隅に覚えがあるように感じ取る未来のユグナリスだったが、そこから視線を移しもう一人に異形に身を包んだ男を見つめた。
そして男の顔と異形の姿を見つめながら、未来のユグナリスは驚きの声を漏らす。
「『……アレは、ザルツヘルム……。……奴は俺が、十五年前に倒したはず……』」
倒したはずの悪魔が目の前に存在し、更に見覚えのある者達がその前に立つ光景。
それを見た未来のユグナリスは、寝惚けるような意識を鮮明にさせながら徐々に状況を把握し始めた。
「『……彼等は、確か……。……そうか、そういう事か……』」
意識を覚醒させた未来のユグナリスは、握る魔剣を通じて己の生命力を肉体に纏わせながら姿を変える。
するとそこには、数多の悪魔達を屠って来た歴戦の勇者が現れた。
ケイルが持っていた魔剣も『生命の火』を纏い、勇者が持つ聖剣へ変わる。
姿を変えたケイルに今までに無い悪寒を走らせた悪魔は、その勇者を排除すべく激突を始めた。
「――……キィァアアッ!!」
「ハァアアッ!!」
上位悪魔となったザルツヘルムは、奇声の雄叫びを響かせながら両手に作り出した瘴気の剣で乱舞を放つ。
それに対してユグナリスも『生命の火』を纏わせた聖剣を右手だけで振り捌き、ザルツヘルムの剣を全て迎撃して見せた。
更に瘴気を消滅させた赤槍を器用に左手だけで扱い、聖剣の迎撃に合わせながらザルツヘルムを突き狙う。
その赤槍が瘴気すら一瞬で浄化する能力を持つ事に気付いていたザルツヘルムは、その矛先を避けながら階段での剣戟を繰り広げた。
圧倒的な力によってエリクやマギルスすら敵わなくなった上位悪魔に対して、未来のユグナリスは互角以上の接戦を見せる。
それを辛うじて目で追うマギルスは、口を僅かに開きながら呆然とした表情を浮かべた。
「悪魔のおじさんと、互角に戦ってる……。……あのお兄さん、何なの……!?」
「……ケイルが、あの男になったのか……?」
「そう、みたいだけど……。……でも、なんで?」
「分からない……。……ケイルに、いったい何が……?」
突如としてケイルの姿が見知った青年に変身した事に、エリクとマギルスは唖然とした様子を浮かべる。
しかもザルツヘルムと拮抗する程の実力を見せる未来のユグナリスに、二人は状況を理解できずに困惑を浮かべた。
未来で戦っていたユグナリスの勇姿を見ていない二人は、その実力がどれ程のモノかを理解していない。
しかし同盟都市で戦っていたユグナリスと、目の前で戦う未来のユグナリスが別人と呼べる程の力量差がある事を、二人は無意識に悟っていた。
それは最も理解させられているのは、戦っているザルツヘルム本人だと言ってもいい。
帝都や同盟都市で異常な成長を見せた姿とは全く異なる、まるでその完成系とも言える実力と能力で対抗する未来のユグナリスに、ザルツヘルムは表情を厳しくさせていた。
「――……お前はいったい、何者だっ!?」
「知っているだろうっ!!」
「違うっ!! この強さ、あの皇子で、あるはずがないっ!!」
「俺は、お前達を倒す為だけに強くなったんだッ!!」
「ヌグッ!!」
「覚えてないなら、また見せてやる――……俺の能力をッ!!」
互いに両手で武器を繰り出しながら一進一退の攻防を続けていた二人だったが、そこから変化が生じる。
ケイルの右手に刻まれた聖紋が炎で模られた未来のユグナリスの右手に浮き出し、赤い光を発し始めた。
それと同時に鮮明だったユグナリスの姿が赤い閃光となり、凄まじい加速を見せながら夥しい数の剣戟を飛ばす。
しかしザルツヘルムは相手の動きにも即座に対応しながらも、その剣圧と加速した手数は先程の数倍にも増していた。
すると次の瞬間、捉えられぬ速度で聖剣の刃が斬り込む。
それはザルツヘルムの右腕を斬り裂きながらも、瘴気の再生能力によって切断するまでには至れなかった。
しかし再び右腕を動かした時、ザルツヘルムはすぐにその違和感に気付く。
「なんだとっ!?」
「セァアッ!!」
「グォ……ッ!!」
違和感の強まる右腕を即座に動かせなかったザルツヘルムは、再び迫るユグナリスの聖剣を避けられい。
そして今度はザルツヘルムの腹部を聖剣が貫き、更に左肩には赤槍が突き立てられた。
それにより強い衝撃と痛覚を走らせたザルツヘルムが、金色の瞳を大きく見開かせながら声を漏らす。
しかし残る膂力を使いその場から大きく退き跳ぶと、大階段を降りた地面に着地しながら斬られた場所を確認した。
「……左肩は駄目か……!!」
赤槍によって貫かれた左肩を基点として急速に肉体が崩壊しようとしているのを確認したザルツヘルムは、即時に左肩と左腕を自らの右手で捥ぎ取る。
そして新たな左肩を作り出そうと瘴気で再生をしながら、別の異常が自身の身体に起きている事を察した。
「……奴に斬られた瞬間に、瘴気が抜けた……。……なんだ、コレは……!?」
ザルツヘルムは聖剣で斬られた右腕と腹部に視線を落とし、違和感の正体を探る。
すると聖剣で斬られた箇所に、今まで存在しなかった赤い印が刻まれていたのを発見した。
奇妙な印が刻まれた事を悟ったザルツヘルムは、口を大きく開きながら印のある右腕を咥えるように噛む。
そして顎と首の力で右腕も噛み切ると、即座に右腕を再生させた。
しかし再生させた右腕を見て、ザルツヘルムは再び驚愕を浮かべながら呟く。
「……馬鹿な、消えない印だと……!?」
「――……肉体ではなく、魂に刻む聖痕。それが『七聖痕』だ」
「!!」
再生したはずの右腕に今も残る聖痕を見るザルツヘルムに、その前まで歩み寄ったユグナリスが言い渡す。
それに驚愕しながら立ち上がり右腕で身構えるザルツヘルムに、ユグナリスは続けて自身の能力を明かした。
「魂に刻んだ聖痕は、その全てが揃ってから燃え尽きるまで消えない。――……そして聖痕を刻まれた悪魔は、瘴気を使えなくなっていく」
「……そんな能力が、何故……!?」
「言っただろ。……これがお前達を倒す為に編み出した、俺の能力だッ!!」
二つの聖痕を刻んだザルツヘルムに対して、ユグナリスは赤い閃光となって容赦の無い斬撃を浴びせ放つ。
それを防ごうとした右腕だけで捌こうとしたザルツヘルムだったが、刻まれた聖痕によって瘴気を練る事ができず、違和感を感じる程に低下した身体能力ではその全てを避け切れなかった。
ユグナリスは瞬く間に聖剣を走らせ、ザルツヘルムの顔と心臓、そして左足と右足にも聖痕を刻む。
それにより大幅に瘴気を失ったザルツヘルムは急速に弱体化し、最初の悪魔騎士にまで戻された。
瘴気を失い続けるザルツヘルムはその場に倒れ、苦々しい表情を見せながらユグナリスを睨む。
そのユグナリスは聖痕を刻むべき左腕を見下ろしながらも、瘴気の消失と再生能力の低下によって再生しないザルツヘルムの左腕に溜息を漏らした。
「左腕は、再生はしないのか? それとも、もう出来ないのか?」
「ハァ……ハァ……ッ」
「……出来ないらしいな。……こうなってしまえば、『七聖痕』が発動できないという弱点があったということか……」
ほとんどの瘴気と再生能力を失ったザルツヘルムに対して、未来のユグナリスは苛立ちの声を漏らす。
それは左腕の無いザルツヘルムに対して『七聖痕』を刺せないという、憤りにも近い感情が見えていた。
しかし左手に持つ赤槍で突く構えを見せた未来のユグナリスは、ザルツヘルムに言い渡す。
「浄化は出来なかった。……でもこの一突きで、お前は終わりだっ!!」
「……ッ」
ユグナリスは躊躇も無く赤槍を振り下ろし、ザルツヘルムの顔に突こうとする。
その一突きによって消滅させられる事を悟ったザルツヘルムは、金色の瞳を閉じながらその終わりを待った。
しかし突き終えていなければおかしい時間が経ちながらも、ザルツヘルムはまだ自分が存在している事に気付く。
そして状況を把握する為に再び瞼を開くと、そこで奇妙な光景を見上げることになった。
「――……待つのだ。『赤』の末裔よ」
「貴方は……っ!!」
「……『青』の、七大聖人……」
ザルツヘルムが見たのは、鼻先まで差し向けられている赤槍の刃。
そしてその先に見えたのは、赤槍を突き降ろすユグナリスの左腕を握り止めた、青い法衣を纏った青年だった。
こうして強敵であるザルツヘルムと対峙した未来のユグナリスは、見事に完封して見せる。
しかし荒ぶる心のままトドメの一撃を放つユグナリスは、『青』の七大聖人によって止められたのだった。
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