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革命編 六章:創造神の権能

燃え尽きぬ涙

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 天界エデンに聳え立つ巨大な神殿前の大階段にて行われていた悪魔騎士ザルツヘルムとの戦いは、思わぬ形で決着を見せる。

 意識の無いケイルの肉体からだを依り代に、魔剣けんに宿っていた未来のユグナリスが自らの意識を目覚めさせる。
 そして『生命の火』を用いて自らの姿を表層おもてにし、数百万の魂と瘴気を取り込み上位悪魔アークデーモンへ進化したザルツヘルムと短くも激しい激闘を繰り広げた。

 その決着の末、未来のユグナリスは自らの能力ちからである『七聖痕セブンスワン』をザルツヘルムに刻み込む。
 左腕以外の全てに聖痕を刻まれたザルツヘルムは、取り込んでいた大量の瘴気オーラを燃やし尽くされた。

 上位悪魔アークデーモンから悪魔騎士デーモンナイトの肉体にまで強制的に弱体化させられたザルツヘルムに、ユグナリスは左手に持つ赤槍でトドメの一撃を放つ。
 そのユグナリスの左腕を止めたのは、予想外にも『青』の七大聖人セブンスワンだった。

 ユグナリスは突如として現れ左腕を掴み止める『青』に対して、怪訝そうな表情を浮かべながら睨む。
 しかしその様相を確認し、自身の記憶から目の前の人物が『青』である事を察した。

「――……貴方は……。……『青』の七大聖人セブンスワン

「久しいな、『赤』の末裔よ」

 互いに見知った様子を見せる未来のユグナリスと『青』は、視線を向け合いながら曲げていた背を真っ直ぐに立たせる。
 互いに別の未来に関する記憶を有しながら現世に留まっている二人は、瀕死のザルツヘルムを前にしながら言葉を向け合った。

「その槍、今は引かせよ」

「……まさか、この男ザルツヘルムを見逃せとでも言うつもりですか?」

「いいや、既に我がとらえている」

「!」

 『青』はそう告げると、未来のユグナリスはザルツヘルムを見下ろす。
 するとザルツヘルムの周囲に透明度の高い魔力で形成された檻が形成され、更に首や手足に枷のような光の輪が嵌められていた。

 それを見たユグナリスは表情を強張らせ、再び『青』を見ながら声を向ける。

「奴は悪魔です。生かしておいたら、何をするか分からない」

「そうさせぬ為に拘束したのだ。……それに、この男には聞きたい事がある」

「今更、何を聞くと……」

「この現世せかいは、我等の居た未来せかいではない。……『黒』によって、我々は過去の世界に戻された。それを理解しているか?」

「えっ。……じゃあ、ザルツヘルムやウォーリスが秘かに生きていたわけじゃ……!?」

「……やはり理解していなかったか」

「過去に戻ったって……。……いったい、どういう事なんです? それになんで、俺はまた天界ここに……?」

 未来のユグナリスは誤解していた現状を改めて認識し、困惑した様子を見せる。
 それに対して『青』が口を開こうとしたが、大階段側に視線を向けながら言葉を発した。

「説明はするが――……まずは、治療が必要であろうな。彼等には」

「……!」

「――……『青』のおじさん! あれっ、ここって魔法は使えないんじゃないの!?」

「――……どういうことなんだ、これは……」

 『青』はそう述べると、大階段側へ未来のユグナリスも視線を向ける。 
 そこには白髪に染まり衰弱するエリクと、それに肩を貸しながら階段を降りるマギルスの二人が近付いて来ていた。

 状況を理解していない者達が集う場で、一人だけ理解を示している『青』は三名と向き合う。
 そして答え易い質問から処理するように、『青』は口を開いて答えた。

「我等がいるこの場所は、魔法が禁じられている空間との境界さかいだ。だから使用できる」

「あれ、そうなんだ」

「残る疑問は、お前達の治療をしながら話そう。――……エリク、お主はどうだ?」

「俺は、アリアを助けるまで……諦めない」

「……ならば、敢えて何も言うまい。二人共、こちらに来い。治療をする」

 禍々しい瘴気オーラを浴びながら数々の負傷ダメージを受けている二人に対して、『青』は治療が必要だと判断する。
 その言葉に従う二人は頷き合い、足を動かしながら『青』の傍に歩み寄った。

 そして足をもつれさせるように膝を着く二人に、『青』は右手に持つ錫杖つえを向けながら短く詠唱を呟く。
 それと同時に緑色と青色が入り混じる魔力の光が二人に降り注ぎ、表面に見えていた傷を癒し始めた。

 治癒魔法を施される二人は、傷と同時に息を乱している様子がやすらいでいく。
 そして余裕を戻しながら腰を降ろす二人は、改めて未来のユグナリスと拘束されたザルツヘルムを見つめた。

 すると未来のユグナリスを見上げていたエリクが、改めて話し掛ける。

「……やはり、同盟都市あそこで見た男と少し違うな」

「え?」

「どうしてお前が、ケイルから……。……ケイルは、無事なのか?」

「ケイル? ……あぁ、そうか。この肉体からだの人ですね」

「そうだ。無事なのか?」

「受けていた傷なら、俺の生命力ほのおで治しました。大丈夫です」

「……身体はそれでいい。だが、魂や精神は無事なのか?」

「精神は、まだ気を失っているようです。意識が戻れば、彼女に肉体からだは御返しします」

「そうか。……それなら、いい」

 ケイルの安否について改めて確認したエリクは、安堵の息を漏らしながら上げていた顎を下げる。
 それと交代するように、隣に座っていたマギルスが未来のユグナリスに問い掛けた。

「ねぇねぇ、お兄さん。僕のこと、覚えてる?」

「……いや。君は『青』に似て姿こそ似ているけど、魂の波動が違うな」

「あれ? 同盟都市で一緒に戦ったじゃん!」

「同盟都市で? ……俺はあそこで、君のような人とは会ってないはずだけど……」

「えっ。……どういうこと?」

「さぁ……?」

 マギルスの問い掛けに答える未来のユグナリスだったが、その話は噛み合わず互いに首を傾げさせる。
 そんな二人に対して、『青』は口を挟むように説明を始めた。

「マギルスよ。この男は、お前達の居ない未来でウォーリス達と戦っていたユグナリスだ」

「えっ」

「この男も、お前達と同じように未来で『黒』に選ばれていたのだ。……そしてどうやら、女剣士ケイルの持っていた魔剣けんに宿っていたらしい」

 改めて説明する『青』の言葉を聞いたエリクとマギルスは、目の前のユグナリスが未来の人物である事を認識する。
 そして自分達と同じように『クロエ』の能力ちからに選ばれ、未来の記憶を覚えたまま現世に戻ってきている者だと理解した。

 そうして納得を浮かべたマギルスは、改めて未来のユグナリスに問い掛ける。

「へー、そうなんだ。ケイルお姉さんに憑依してるってことは、お兄さんも精神生命体アストラルってやつなの?」

「それに近いかな」

「お兄さん、すっごい強いよね。この悪魔ザルツヘルムのおじさんを、あっさり倒しちゃうんだもん」

「……俺は、悪魔こいつらを倒す為だけに強くなったんだ。……俺の両親を、そしてアルトリアを利用して帝国の皆を殺した、コイツ等に……」

「!」

「だが、ここが過去で……倒したはずのザルツヘルムやウォーリスが生きて、天界 ここにいるという事は……。……既に父上や母上、セルジアス兄上も殺されて……帝国はアルトリアに滅ぼされた後なんだな……」

「ううん。アリアお姉さんなら連れ去れただけだよ、天界ここに」
 
「……えっ」

「あと、帝国もまだ滅んでないはずだし。そうだよね? 『青』のおじさん」

「うむ」

「……帝国が、滅びてない……? どういう事ですかっ!?」

 マギルスと話していた未来のユグナリスは、自身の知る未来と大きく異なる現世いまの状況に強い動揺を示す。
 すると二人の会話に入る『青』は、改めてユグナリスに現在の状況を伝えた。

「我等の知る未来せかいと、今の現世せかいは大きく変わっている」

「!?」

「我等の知る未来せかいでは、ウォーリス達にる計略で王国と帝国は戦争になり、死霊術で操られるアルトリアがその二国を滅ぼした。……しかしこの現世せかいでは、ウォーリスはアルトリアを生かしたまま捕らえ、創造神オリジンの肉体と共に天界ここに来ている」

創造神オリジンの肉体……。……つまり、リエスティアの死体を……」

「いや、現世ここでは創造神オリジンの肉体は生きている」

「……え?」

創造神オリジンの『魂』であるアルトリアと、『肉体』であるリエスティア。二人は生きて、天界ここにいる」 

 現世いまの出来事を伝える『青』に対して、ユグナリスは唖然とした表情を浮かべる。
 すると瞬時に表情を強張らせ、両手に握る聖剣と赤槍を手放しながら『青』の両肩を掴み揺らして問い質した。

「……リエスティアが生きてるって、本当なんですかっ!?」

「そうだ」

「でも彼女は、俺の子を身籠って……。……でも治癒魔法が効かなくて、出産が困難で……。……帝王切開になって、でも失敗して……子供と一緒に……。……俺のせいで、彼女も子供も死んで……っ」

「この現世ここでは、無事に子も産んでいる。アルトリアのおかげだ」

「アルトリアが……!?」

「お主の知る未来せかいでは、ローゼン公爵領に居たアルトリアは何もしなかった。だがこの現世せかいでは、主治医となって治療と分娩にも手を貸していたのだ」

「……じゃあ、リエスティアも……俺の子も……?」

「どちらも生きている」

「……そうか、よかった……。……ぅ……ぐっ、よがっだぁ……っ!!」

 自分の知る未来せかいでは死んでいた最愛の者達が生きている事に、ユグナリスは安堵と同時に悲しみの言葉を浮かべる。
 そして『生命の火』で自身の姿を模す瞳から炎の涙を零し、愛する女性リエスティア子供シエスティナに深い感動を示した。

 それを傍らで見上げていたエリクとマギルスは、互いに首を傾げた様子を浮かべる。
 しかし事情を知る『青』だけは、そのユグナリスの右肩に左手を添えながら頷く様子を見せた。

 こうして『青』の言葉を聞いた三名は、現状を理解して落ち着き始める。
 そして最も厄介だったら敵勢力ウォーリスの側近ザルツヘルムを見事にらえ、『青』は彼を見下ろしながら何かを問い質そうとしていた。
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