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革命編 七章:黒を継ぎし者

弟の想い

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 悪魔ヴェルフェゴールの監視に気付いたメディアは、その目的を語らせる。
 そして使命と趣向に従い到達者ゲルガルドやジェイク達を観察していた事を明かしたヴェルフェゴールは、悪魔の『契約』についても教えた。

 そこに一縷の希望を見出したジェイクは、自身の魂と肉体を代価にウォーリス達を救う事に助力することを求めて悪魔ヴェルフェゴールと契約を交わす。
 するとジェイクの肉体にヴェルフェゴールを形成していた黒い霧が入り込み、その髪と瞳を金色に染め上げた。

 傍らでその様子を見ていたメディアは、今も身に着けている仮面越しに変化したジェイクの姿を覗き込む。
 その一言を聞いたジェイクは自身の手や身体に触れると、僅かに動揺した様子で呟いた。

『……私は、どうなって……。……あの、ヴェルフェゴールという悪魔は……?』

『――……フフフッ。貴方の身体なかに居ますよ』

『!?』

 思念として脳裏に届いた悪魔ヴェルフェゴールの言葉に、ジェイクは金色に輝く瞳を大きく見開きながら驚く。
 そして改めて説明するように、ヴェルフェゴールは今現在の状況を契約主であるジェイクに教えた。

わたくしは今、貴方の肉体に憑依させて頂いております。そして貴方の望みが叶えるよう、助力させて頂きます』

『助力って……。……僕がやるんですか?』

『そうですよ。貴方の願いに対して、わたくし補助サポートするだけです。……そうですねぇ。試しに目の前に見える木まで、走ってみてください』

『……は、はい』

 思念をそうした事を説明するヴェルフェゴールの言葉に、ジェイクは訝し気な面持ちを抱きながらも言う通りにしてみる。
 ジェイクの視界に見えた一本の木へ身体を向けると、そこに駆け出す為に軽く身構えた。

 そして次の瞬間、その場にある地面を大きく抉りながらジェイクは駆け出す。
 するとコンマ数秒もしない内にその木に辿り着き手を着けた瞬間、触れた太い木の幹が意図も容易くれるのを確認した。

『えっ!?』

『わぉ、凄いね』

 凄まじい自分の動きを自分自身で認識できなかったジェイクは、自分の位置と折れた木の幹を交互に見ながら驚きを浮かべる。
 それを傍らで見ながら舞った土埃を結界で防いでいたメディアは、素直な賞賛を向けながら興味深そうにジェイクに尋ねた。

『さっきから一人で話してるみたいだけど、それは悪魔と話してるの?』

『え? は、はい。……あれ、メディア殿には聞こえていない……?』

『うん。憑依している君自身にだけ聞こえてるんじゃないかな』

『そ、そうなんですか?』

『――……フフフッ、どうですか? これが、私の補助サポートです』

『は、はい。……全然、全力じゃなかったのに。あんなに速く、しかも手を着いただけで……』

 メディアと自身にしか聞こえない悪魔ヴェルフェゴールの言葉を聞いたジェイクは、自分に与えられた驚異の身体能力に驚きを浮かべる。
 するとヴェルフェゴールは微笑むような声で、憑依したジェイクの能力ちからを更に明かした。

『貴方が思い描けば、彼女メディアにように空を飛ぶ事も可能です。そしてお兄さんウォーリスのように、転移魔法も使えますよ』

『!?』

『今の貴方は、わたくしの持つ能力ちからを制限なく全て扱えます。そしてお兄さんウォーリスに接触すれば、御望みの事も叶えられるでしょう』

『……兄上ウォーリス父上ゲルガルドに繋がっている、回線パスを妨げる……! いや、この能力ちからがあれば……ゲルガルドを倒すことも……!』

 改めて悪魔ヴェルフェゴールと同等の能力ちからを与えられた事を自覚したジェイクは、自身の非力さを解消した事で僅かな高揚感を抱き始める。
 しかしその高揚感かいかんを落ち着けるように、ヴェルフェゴールは更なる説明を続けた。

『ただ一つ、注意させて頂くことがあります』

『注意?』

『貴方は私と契約し、魂と肉体を代価とされている。しかし貴方が望んだ願いを貴方自身の意思で放棄した場合、それは契約違反と見做した上で代価となる魂を没収させて頂きます』

『!?』

『貴方がお兄さんウォーリスの救済を望まず、この能力ちからを別の私利私欲ねがいに利用する場合。それは契約違反であると見做しますので、どうか御注意を』

『……わ、分かりました』

 悪魔の能力ちからを行使する上での注意点を伝えたヴェルフェゴールに、温まろうとしていたジェイクの心情が冷える。
 以前の肉体では考えられない能力ちからを得た事で、その万能感に酔いが生まれようとしていたジェイクに再び冷静な思考が戻った。

 そして改めて自分が今やるべき事を思い出したジェイクは、上着に包まれながら地面に寝かされているリエスティアに視線を向ける。
 するとメディアに対して視線を向け、検めて頼み事を伝えた。

『メディア殿。僕はこれから、屋敷に戻ります。……だから、この子リエスティアの事を御願いします』

『それはいいけど。一つ、聞いていいかな?』

『はい?』

『どうしてそこまで、ウォーリス君の為に出来るの?』

『!』

『自分の身体と魂を悪魔に売って、それでもウォーリス君を救いたいって気持ち。私には理解できないんだよね。もっと正直に言えば、この子リエスティアの事も見捨てて自分だけ皇国以外に逃げる道だってあったはずだよ』

『……それは……』

『家族と言っても、君達は母親の違う異母兄弟きょうだい。話に聞く限り、君達にはゲルガルドを倒すという以外に接点も少ない。……なのにどうして、そんなにウォーリス君を助けるのにこだわるの?』

 不思議そうに尋ねるメディアの言葉に、ジェイクは言葉を詰まらせる。
 しかし兄であるウォーリスを救うのに拘る自分自身の理由を改めて問い掛けられた時、ジェイクの思考にある一人の人物が思い浮かんだ。

 それを自覚したジェイクは、口元を微笑ませながら改めてメディアの問い掛けに答える。

『……兄上と出会う前、僕はある人の事がずっと気になっていました。……その人が、僕にとっての初恋だったんです』

『……』

『その人を通じて、僕は兄上と出会った。そしてあの伯爵家いえの真実を知り、自分達が助かる為に兄上に協力することになった。……確かにそれは、ただの利害関係。兄弟だからとか家族とか、そんな情を始めから持っていませんでした』

『……でも、今はそうではない?』

『はい。……その人はいつも、苦境の中で抗う兄上の事を心配していました。正直、そうして思われ続ける兄上には嫉妬してしまった時期もある。……でも屋敷で何事もなく暮らして居る僕が、あんな実験を強いられ続けている兄上にそんな嫉妬ことを思い続けられない。……いや、思う資格は無い』

『だから、大人しく身を引いた?』

『引くも何も、僕では元々から勝ち目なんか無かった。……でも、その人が兄上の幸せを望むのなら。僕も、あの二人の幸せを見届けたいと思ったんです』

『……不器用だね。君も』

『そう思います。……きっと、兄上も気付いていたんだろうな。だからその人と子供の事を、僕に託したんでしょうね』

『それが嫌だから、遅めの反抗期をしようってこと?』

『そうかもしれません。……兄上にとっては、それも贖罪のつもりなんでしょう。でもこんな中途半端な形で自分の命も想い人も譲られたって、僕は嬉しくない。……だから兄上には、そちらの責任こそ果たしてもらわないと』

『なるほどね。そういう事なら、納得かな』

 メディアはそう問い掛け終わると、意識の無いリエスティアを胸に抱き持つ。
 そして改めてジェイクに顔を向けながら、最後の言葉を向けた。

『この子の事は任せなさい。上手く隠しておくから、後で見つけるようにウォーリス君達に言っておいて』

『ありがとうございます。……ヴェルフェゴール、行くぞっ!!』

『――……はい、我が契約主マイマスター

 メディアの言葉を聞き終えたジェイクは、屋敷いえを意識しながら憑依している悪魔ヴェルフェゴールに命じる。
 すると契約主の意思を反映させたように能力ちからを行使したヴェルフェゴールは、ジェイクの肉体を転移させた。

 それを見届けたメディアは、軽く息を吐き出す。
 そして抱え持つ幼いリエスティアを見ながら呟き、今後の行動を自問自答し始めた。

『任されたのはいいけど、この子を持ったままだと浮遊も転移も出来ないのよね。しかも魔法も使えない。……徒歩で行くとして、どっちに行こうかな』

 そう言いながら歩み進む方角を品定めするメディアは、帝国領このくにの地形と位置関係と思い出しながらある方角に視線を向ける。
 その方角には帝国領の中で未開拓地域の多い樹海が存在し、それを超えた先にある子爵領地ガゼルの港があるのを思い出していた。

『ここから一番近い港は、北よりも南かな。南の方だと、ここからだと未開拓の樹海もりを抜けないとダメかも。……まぁ、いいかな。これも冒険ってことで!』 

 メディアは進むべき方角みちを決めると、仮面を外しながら自身の外套マントでリエスティアを包む。
 そして背負う形で走り始めると、そのまま帝国領の南方に広がる樹海を抜けた港町を目指し始めた。

 この一連の戦闘が起きた廃鉱山の異常事態は近隣の村や町を騒がせたが、後に鉱山に残っていた爆薬によって起きた崩落事故という形で片付けられる。
 そしてメディアは幼いリエスティアを連れて帝国領このくにから姿を消し、それ以後の消息はとある地域の者達の口から語り継がれていた。

 こうして悪魔ヴェルフェゴールと契約を交わしたジェイクは、兄ウォーリスを救う為に屋敷へと戻る。
 そして彼等が去った実験施設には肉体を再生もどしたゲルガルドが現れ、創造神の肉体リエスティアが奪われている事を知るのだった。
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