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革命編 八章:冒険譚の終幕
黒い微笑み
しおりを挟むマシラ一族の秘術を用いて輪廻に留まるリエスティアの魂へ赴いたウォーリスとカリーナだったが、生きていたゲルガルドの待ち伏せを受けてしまう。
そして創造神に満ちていた憎悪の瘴気を取り込んだゲルガルドは、二人の精神体を拘束し汚染させながら存在そのものを支配しようとした。
絶望的と思える状況に抗えないウォーリスだったが、彼の魂に留まっていた未来のユグナリスが『生命の火』を用いて二人を救う。
そしてゲルガルドと相対し、その悪魔を討つ為に聖剣の矛を向けた。
すると左手で支える意識の無いカリーナに視線を僅かに向けると、膝を着いているウォーリスに呼び掛ける。
「ウォーリス、彼女を!」
「……!」
ユグナリスはそう伝えると、カリーナを任せようとする。
それを聞いたウォーリスはよろめきながら立ち上がり、二人に近付こうとした。
しかしそれを阻むように、ゲルガルドは憤怒の表情と激昂の怒声を向ける。
「調子に乗るなよ、『赤』の末裔風情がっ!!」
ゲルガルドは自身の精神体から溢れる瘴気を再び展開し、三人に向けて鋭い触手を穿つように放つ。
しかし次の瞬間、未来のユグナリスによって切断されたゲルガルドの右腕に炎が灯った。
「!?」
「『生命の火』は、もうお前に届いてるぞ」
「な――……グッ、ガァアッ!!」
右腕を燃やす『生命の火』が急速にゲルガルドの精神体を伝い、ゲルガルドの全身を炎上させる。
すると激痛の声を漏らしながらゲルガルドはよろめき、穿ち向けた瘴気の触手が全て燃え尽きながら消失し始めた。
それを見ている未来のユグナリスは、近付いたウォーリスにカリーナを渡す。
「大丈夫か?」
「あ、ああ」
「瘴気は消しておいた。……これで、ゲルガルドも終わりだ」
「……」
二人はそうした会話を行いながら、炎に焼かれるゲルガルドを見る。
精神体の纏う瘴気を焼かれながらのたうち回るように転がる姿に、未来のユグナリスは勝利を確信した。
それからゲルガルドの精神体は燃え尽き、灰のように崩れながらその場で崩れ落ちる。
それを見届けた未来のユグナリスは安堵の息を漏らし、ウォーリスの方を見ながら声を掛けた。
「これで大丈夫。さぁ、リエスティアを連れてここから脱出を――……ッ!!」
「なっ!?」
脱出を提案しようとした未来のユグナリスだったが、その隙を突くように部屋の奥から凄まじい速さの黒い瘴気が幾つも襲う。
それを聖剣を握る右腕と胸を受けた未来のユグナリスは、精神体を貫かれながら吹き飛ばされた。
突如の事態に硬直するウォーリスは、瘴気が放たれた場所を見る。
するとそこには、椅子から立ち上がり瘴気を纏わせているリエスティアの姿が見えた。
それを見たウォーリスは、再び驚愕しながら声を漏らす。
「な、なんで……」
「――……私が言った事を忘れたか? ウォーリス」
「!?」
「今の私は、貴様の娘の肉体に憑依できたのだ。……ならば、その肉体と繋がる魂も掌握できるに決まっているだろう」
「……まさか、既に……!?」
「貴様の娘、その魂は既に私の支配下にある。――……とうとう手に入れたのだよ。私が、創造神の肉体をっ!!」
「……っ!!」
幼いリエスティアの姿をしながらも、その口調はゲルガルドと同じ。
彼女の肉体を掌握し終えていたゲルガルドの本体は、その魂も乗っ取り終えていた。
暗い笑みを浮かべるリエスティアの顔を見たウォーリスは、唖然としたまま身体を硬直させてしまう。
しかしそんな彼を叱責するように、伸びた瘴気を燃やした未来のユグナリスが怒鳴り声を向けた。
「――……逃げろ、ウォーリスッ!!」
「!」
そう伝えた瞬間、未来のユグナリスが纏う『生命の火』が部屋全体に行き渡る。
更に扉を塞いでいる家具を燃やし、扉諸共に押し寄せている瘴気を燃やしてみせた。
逃げ道を確保した未来のユグナリスは『生命の火』を纏わせた聖剣を引き戻して握り直し、立ち尽くしているウォーリスに再び怒鳴る。
「行けっ!! リエスティアは、俺が救い出すっ!!」
「……っ」
燃え盛る炎とリエスティアの姿を見ながらも、ウォーリスは表情を強張らせカリーナを抱えながら開けられた扉を走り抜ける。
それを見送った未来のユグナリスは赤い閃光となってリエスティアに迫り、聖剣を使い『生命の火』を浴びせてゲルガルドの瘴気を消滅させようとした。
しかしそれが届く前に、リエスティアの肉体を瘴気が覆う。
更にそれが瞬時に縮小すると、次の瞬間には膨張するように膨らみながら弾けた。
「ッ!?」
「――……酷いです、ユグナリス様。私を焼いてしまうおつもりですか?」
「な……っ!?」
弾けた瘴気の中から現れたのは、未来のユグナリスが最も知る成人姿のリエスティア。
瞼を閉じた表情と声や口調までもが彼女本人と酷似した様子は、思わず聖剣の動きを止めさせてしまった。
しかし未来のユグナリスが躊躇いを見せた時、リエスティアは普段なら絶対にしない黒い笑みを浮かべる。
「……やはり甘いな、貴様もっ!!」
「グァッ!!」
再び隙を見せた未来のユグナリスに、今度はリエスティア自身が右手を向けながら瘴気の収束砲を放つ。
それを浴びた未来のユグナリスは、屋敷の天井を破壊しながら上空まで吹き飛ばされた。
それでも『生命の火』を纏う彼は、自分の精神体を瘴気で汚染せずに空中に浮遊しながら踏み止まる。
そして屋敷の方を見ると、黒い装束と黒い翼を背に生やしたリエスティアが同じように浮上していた。
「リエスティア……!」
「……言っておくが。もし貴様の炎で焼けば、私はこの娘を道連れにする」
「!!」
「それでも良ければ、貴様の火で炙るといい。……さぁ、どうした?」
「……クソ……ッ!!」
ゲルガルドは憑依するリエスティアの魂を盾として、瘴気の天敵とも言える『生命の火』を使える未来のユグナリスを脅迫する。
それを聞いた彼は聖剣を向けられず、表情を強張らせたまま動きを止めた。
するとニヤけた表情と笑みを浮かべるリエスティアは、精神体から発する瘴気を鋭い触手の矛に幾つも変貌させる。
更に勝ち誇る声を向け、その瘴気で未来のユグナリスを襲い始めた。
「ガッ、グァ……ッ!!」
「ルクソードの『生命の火』は、その術者の生命力に応じて威力と持続力が増す。生命力の持続力だけならば、今の貴様はルクソードと同等だろう。……だが生命力を使い尽くせば、『生命の火』は使えない」
「……っ!!」
「貴様の火が消えた時、私の瘴気で飲み込んでやろう。どうだ? 愛する者の手で逝けるのだ、喜べっ!!」
「……この、外道め……っ!!」
凄まじい速さで迫り殴る瘴気の触手によって、未来のユグナリスは襲われ続ける。
辛うじて瘴気の汚染は『生命の火』で免れているが、精神体への負傷は幾度も重なり積み重ね続けた。
それでも未来のユグナリスが意識を向ける先には、ウォーリス達が残る屋敷が映っている。
屋敷の全てを覆う瘴気を相殺するように燃え広がる『生命の火』は、術者の意思に反映しながら燃え広がり続けた。
こうしてリエスティアの魂を乗っ取ったゲルガルドは、助力に入った未来のユグナリスを嬲り殺す様相を見せ始める。
そしてカリーナを抱えたまま瘴気から逃げるしかないウォーリスは、その内心にゲルガルドの深い絶望として残る父親の存在に恐怖してしまっていた。
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