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革命編 八章:冒険譚の終幕
死者の裁断
しおりを挟む輪廻に留まるリエスティアの魂に憑依していたゲルガルドは理想郷にウォーリス達を引き込み、彼等を支配し新たな創造神になる目的を再び叶えようとする。
しかしそれを阻むように現れたアルトリアは、現世のユグナリスとその子供シエスティナを伴いその理想郷に乗り込んで来た。
そしてゲルガルドに対する恐怖を抱えるウォーリスは、初めて自分自身の意思で助けを乞う。
アルトリアとユグナリスはそれを聞き入れ、改めて膨大な瘴気を操るゲルガルドと相対した。
瘴気を浄化できる大規模な結界を展開しているアルトリアは、組んでいた両腕を解放するように左右へ広げる。
それと同時に背負う『魂で成す六天使の翼』の翼を広げ、その羽一枚一枚から注がれる光の粒子を両手に集め始めた。
すると巨体を成した瘴気に向けて、アルトリアは粒子を溜めた両手を向ける。
そして次の瞬間、アルトリアの両腕から白き閃光となった砲撃が巨体の瘴気へ向かった。
『ッ!!』
「うわっ!?」
「……こ、これは……!!」
「わー、綺麗!」
今までにも幾度か似た砲撃をした事があるアルトリアだったが、今まさに見せる砲撃はそれを遥かに凌いでいる。
彼女を中心とした半径数キロ以上にも及ぶだろう砲撃は、ゲルガルドが瘴気で形成した巨体を全て吹き消した。
それを見ながらそれぞれが驚愕し、表情を強張らせる。
しかし幼いシエスティナだけは、アルトリアが放った砲撃の輝きに喜びを浮かべていた。
その砲撃が止んだ後、砲撃が行われた景色が改めて見られる。
するとアルトリアの前方に存在していた瘴気が、全て消失していた。
しかしそれ程の攻撃を放ったにも関わらず、アルトリアは平然とした様子を見せている。
そうした状況にユグナリスは呆然とする一方、ウォーリスは瞳を見開きながら呟いた。
「……魔力を使った砲撃ではない。それに生命力とも違う。……まさかコレが、創造神の権能……!?」
アルトリアの攻撃が創造神の権能ではないかと推測するウォーリスは、改めて目の前にいる彼女が異次元の強さを手に入れた事を悟る。
彼女は二つに分けた魂が再び融合したことで権能を爆発的に高め、創造神の記憶を得てその肉体と一時的に融合した事で権能の使い方を把握していた。
本人にとっては不本意な形とは言え、今までの出来事がアルトリアの権能を極限まで高めた要素となっている。
その結論となる言葉を、アルトリアは不機嫌そうな表情で呟いた。
「……やっぱり手加減すると、こんなモンよね」
「!?」
「て、手加減……コレでっ!?」
「なに驚いてるのよ、当たり前でしょ。核を守ってるとはいえ、ここはリエスティアの魂内部よ。全力を出して傷付けるわけにはいかないじゃない」
「!!」
「しかも瘴気だけ消すようにしないと、後々で面倒臭いし。まったく、厄介この上ないわ」
そう言いながら愚痴を零すアルトリアに、ユグナリスとウォーリスは唖然とした様子を見せる。
今見せた砲撃が全力ではなく、更にリエスティアの魂を傷付けず瘴気だけを浄化するという離れ業。
それすらも不満を見せるアルトリアに、改めて二人は目の前に居る女性が別格の存在なのだと自覚させられた。
そんな化物と相対せねばならないゲルガルドもまた、残る瘴気の中で隠れ潜みながら驚きの声を漏らす。
『――……なんだ、アレは……。……魔力や生命力ならば、私の瘴気は吸い尽くせた。なのに奴の砲撃は、取り込む事すら出来なかったぞ……!!』
「……案の定、本体は隠れてるみたいね」
『なんだ、あのエネルギーは……。今まで一度も、あんなモノは見た事が無いぞ。……まさか……!?』
「本当に面倒臭いわね、さっさと出て来てくれないかしら。……でないと……」
『まさか、創造神の権能とは……この世に存在しない、未知のエネルギー……それを生み出す能力……!!』
「纏めて、消し飛ばすわよ」
『ッ!!』
再び両腕に光の粒子を溜め始めたアルトリアに、ゲルガルドは恐怖を抱く。
すると即座に決断したゲルガルドは、理想郷に存在する全ての瘴気をアルトリアに向けて放った。
それを眺めるように見るアルトリアは、微笑みを浮かべながら呟く。
「そう、それでいいのよ」
「な、何を言って……!?」
その呟きに反応したユグナリスだったが、それを問い質す前に再び極光が起こる。
アルトリアは押し寄せて来る瘴気を再び浄化し、瞬く間に消し去った。
しかしその瞬間を狙うように、ゲルガルドは魂の回廊を用いて自らの魂核をリエスティアの魂内部から離脱させる。
その狙いは、アルトリアという脅威からの脱出だった。
『――……創造神の肉体に逃げれば……! そして輪廻に居る今ならば、奴等を屠ることも……!』
「……と、ゲルガルドは思う。でも、その先に待っているのは――……」
『――……!?』
逃走するゲルガルドだったが、極光の中でアルトリアはそう呟く。
すると魂の回廊を通っていたゲルガルドの魂核は、いきなり放り出されるように別空間へ転移させられた。
その場所は、暗い闇にしかない空間。
それと同時に、ゲルガルドは自身の魂核が綻びを生むように崩れ始めている事に気付いた。
『な、なんだっ!! なんだここは……何故、私の魂が……!?』
『――……虚無へようこそ。ゲルガルド……いや、ギルヴァルド』
『!?』
魂が崩れていく最中、ゲルガルドはその声を聞く。
そして周囲を見回すと、そこには白い光に包まれた謎の人物が立っていた。
それはアルトリア達が出会った輪廻を管理者、『白』の七大聖人。
そして『黒』同様にゲルガルドの真名を知る彼は、消滅する魂を見下ろしながら再び声を掛けた。
『久し振りだな。五百年ぶりか?』
『き、貴様は誰だ……!? こ、ここは……!?』
『ここは虚無の世界だが。はて、私の事を忘れたか?』
『な、何を言って……』
『私だよ、私。ほら、五百年前に白の七大聖人をやってただろ?』
『……ま、まさか……あり得ない……。何故、お前が生きて……!?』
『私こそ驚きだ。まさか彼女が五百年前に殺した男が、まだ生きて現世で悪さをしていたとは』
『!!』
『二度目の人魔大戦を引き起こした時と同様に、今回も色々とやったようだな。魔族が憎いというだけで、よくやるものだよ』
『……貴様に何が分かるっ!! 魔族共に敗れて懐柔された七大聖人風情が……っ!! 大帝の望み、そして叶わぬ願望を私は引き継いだっ!! そして新たな神となって人類を導き、この世界から魔族を駆除を――……』
『あぁ、そういうのはもういい。もうすぐお前は、消えるんだから』
『……!?』
そう言いながら言葉を止めた『白』によって、ゲルガルドは改めて自分の魂が崩壊を続けていた事を知る。
そして赤い輝きを失い灰色となっていくと、断末魔とも言える声をゲルガルドは漏らした。
『な、何故……。……私は、まだ……何も……成し得ては……』
『そうか? その割は、お前を恨む者は多いようだぞ』
『!?』
『輪廻にいる死者達の多くは、お前を許さないそうだ。……その死者達の意思によって、管理者である私がお前への処罰を伝える』
『……!!』
『ギルヴァルド。お前の魂は二度と、この世では生まれ変われない。永遠にさらばだ!』
『い、嫌だ……嫌だぁあああああ――……』
微笑むような声で軽く手を振る『白』は、そう言いながら別れを告げる。
そしてゲルガルドは『虚無』に飲まれ、魂の欠片も残さず消滅していった。
それを見届けた『白』は、やり遂げた様子を見せる。
『さて、やり残した仕事は終わった。次の仕事に移るとするか』
満足気な声を浮かべる『白』は、『虚無の世界』から姿を消す。
こうして今回の事態を引き起こした元凶ゲルガルドは、今度こそこの世から消え失せたのだった。
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