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革命編 八章:冒険譚の終幕
天地の立合
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アズマ国の実力者達に救援を求めに来たケイルとクビアは、そこで『茶』の七大聖人ナニガシとその弟子達である各剣術流派の当主達に会う。
そんな彼等に仕えられる『帝』は、【始祖の魔王】の再来と予測するメディアと彼等が相対する事を望まず、自分自身が天界へ赴く意思を見せていた。
それに反対する周囲を他所に、帝は自分自身の意思で障子に遮られた姿を明かす。
するとその姿は青年の年頃に見えながらも、各国では見られない銀髪銀瞳という奇妙な容姿だった。
更にクビアが告げた帝の正体と相まって、ケイルは驚愕を見せながらも納得を浮かべる。
「……そういや、『白』が言ってたな。自分の転生体が現世に居るって。帝がそうだったのよ……」
少し前に出会った『白』の話を思い出したケイルは、そこに居る帝が『白』の七大聖人を継承した転生体だと理解する。
そして改めて帝の姿を見ていると、畳の上に足を着けた彼を止めるように回りに控えていた『雨』と『雲』の当主が立ち上がりながら前を塞ぎ止めた。
「行かせませんぞ、帝様!」
「どうか御戻りを!」
「止めるな、雨四郎! 朧!」
「これも帝様の為であれば、御免っ!!」
「ぐっ!?」
立ち塞がる『雨』と『雲』の当主達に対して、帝は説得できずに取り押さえられる。
それに抵抗することも出来ずに帝は捕まり、再び障子の奥へ押し込まれそうになった。
それを見ていたケイルは、今までの話を聞いた中で静観に留まる武玄へ疑問の声を向ける。
「師匠! 帝様が到達者に強いと言うならば、メディアを倒せるのでは……!?」
「――……あの者は、到達者ではないらしい」
「えっ」
「帝様の話では、奴の肉体は『マナの実』なるモノにて作り出されている。故に膨大な生命力《ちから》を有してはいるが、到達者の条件となる信仰などは受けておらぬそうだ」
「……それじゃあ、到達者じゃなくても攻撃を与え続ければ勝ち目はあると?」
「そうだ。しかしそれが至難だからこそ、帝は我々の参戦を良しとはしていない」
「どうして、そんな事が……」
ケイルは武玄から話を聞き、メディアが『マナの実』で生まれた生命ながらも、到達者まで至れていない事が語られる。
しかし帝が確信を持って彼等の参戦を拒む理由が分からず、ケイルはそうした疑問を改めて向けた。
すると障子の中に戻されそうになっている帝が、耳に届いたその疑問に答える。
「余の瞳は、『黒』とは逆なのだ!」
「……逆?」
「『黒』は未来を見通す瞳を持つが、『白』の瞳はその者の過去を見通す!」
「!?」
「だからこそ、映像で見たメディアなる者の過去も視えた。――……あの者は魔大陸の到達者達と一戦を交え、その実力は【始祖の魔王】と遜色は無い!」
「……!!」
「だからこそ、余はあの者の下に行かねばならぬ。――……あの者も、この世界に忘れられた者の為に戦っているのだから!」
「……世界に忘れられた者の為にって、まさか……!?」
帝は自身の瞳を通して視たメディアの過去から、その目的を推察しているかのように語る。
それを聞いたケイルは押し戻されている帝を見ながら、何かを決意するようにクビアやシルエスカに視線を向けて小声を漏らした。
「……クビア、それにシルエスカ。お前等に頼みがある」
「?」
「なんだ?」
「帝をここから連れ出す為に、協力してくれ」
「えっ」
「……どういう事だ?」
小さな声で頼むケイルの言葉を聞き、二人は互いに驚きを浮かべる。
するとケイルは、その言葉の意味を改めて伝えた。
「帝は、今回の鍵を握ってる気がする。だったら天界へ連れて行くべきだ。……でも……」
「……周りが、それを邪魔するか」
「シルエスカ。アタシと一緒にあの人達を抑えて、クビアは帝を連れて天界へ行ってくれ。アタシ等は置いていって構わない」
「ちょっ、ちょっとぉ……そんな事したらぁ……!?」
「アズマ国全体を敵に回すだろうな。……それが嫌なら、シルエスカは何もしないでくれ。アタシとクビアだけでもやるから」
「わぁ、私は協力しなきゃいけないのねぇ……」
「転移を使えるのはお前だけなんだから、当たり前だろ」
ケイルはそうした頼みを向けながら、その返事を聞く前に正座から立ち上がる。
するとそれに反応した、立ち上がらず静観していた『星』の当主も同じように立ち上がりながら左腰に携える刀の柄に手を掛けた。
自分の意図を察するような『星』の当主に、ケイルは苦々しい面持ちを浮かべる。
そしてそうした動きの他の当主達も気付き、ほぼ全員がケイルを注視すると、対峙するように構える『星』の当主が呼び掛けた。
「――……何のつもりだ?」
「……貴方達には悪いが、その帝を天界へ連れて行きたい」
「それを我等が許すともで?」
「思わないさ」
「ならば、どうする?」
「……推し通るっ!!」
ケイルは自身の決意を見せながら、その場から跳び出すように前へ走る。
それを見た『星』の当主はケイルの敵対を確認し、自身のケイルに向けて駆けながら凄まじい速さの抜刀と同時に飛び出す気力斬撃を放った。
ケイルはその間に『無我の境地』へ瞬時に至り、無手のまま斬撃を飛び避ける。
そして回転しながら跳躍した天井へ足を着けると、そのまま帝が押し込まれている障子へ視線を向けながら飛び向かおうとした。
しかしケイルが足を天井から離す前に、別の者に両腕を掴まれながら拘束される。
それは彼女の後ろから声を発した、御庭番衆の頭目である巴だった。
「巴さんっ!?
「止めろっ、軽流っ!!」
あの瞬間に追い付き天井へ両足を着けた巴は、ケイルを両腕で抱え込むように拘束して畳まで落下する。
更にケイルの両腕を後ろ手に拘束しながら、身体の正面を畳に叩き着けた。
それと同時に両足を絡めてケイルの手足を拘束した巴は、落ち着かせるように声を発する。
「お前は、自分が何をしようとしているか分かっているのか……!?」
「……分かってます、そんなの……!」
「ならっ!!」
「……今、天界では。アタシの仲間がたった一人でメディアと死ぬ気で戦ってるんだ。……アイツを助けられる可能性があるなら、それに賭けたいんだっ!!」
「ッ!!」
たった一人でメディアと対峙する為に天界へ向かったアルトリアの事を思い出すケイルは、この場に赴いた自身の覚悟を改めて見せる。
すると踏み止まらせようとする巴を引き離すように、肉体の生命力を高めて巴の拘束を力任せに振り解いた。
更に両手を畳に付けて両足を振り放ち、再び拘束しようとする巴を迎撃しながら飛び退いて立ち上がる。
しかし次の瞬間、そのケイルに凄まじい数の気力斬撃が飛び交う。
ケイルは再び『無我の境地』へ瞬時に至ると、それを飛び避け自身の両手と両足に生命力を纏わせながらそれを斬撃として飛ばし、自身に命中する気力斬撃を相殺して見せた。
そして気力斬撃を飛ばして来た相手を見て、ケイルは表情を更に渋らせる。
「……師匠……っ」
「――……軽流」
斬撃を放ったのは、ケイルの師匠である『月影流』の当主である武玄。
そして『星』の当主の前に武玄は立つと、巴と共にケイルの前後を包囲して見せた。
すると改めて、二人は暴挙に出たケイルに呼び掛ける。
「冷静になれ、軽流」
「自分が何をしているか、本当に分かっているか?」
「……分かっています。……だからこそ、アタシはあの帝を連れて行くっ!!」
「軽流……」
「すいません、師匠。それに巴さん。……今日限りで、アタシは破門にしてくださいっ!!」
「……ッ」
自分の意思を見せる愛弟子に対して、武玄は苦々しい面持ちを強める。
巴もまた覆面で隠れた口元を苦々しく歪めると、仲間の為に離反したケイルに対してどうすべきか迷う様子を浮かべた。
そうした三人の姿を、各当主達やシルエスカ達は各々に見つめる。
するとその時、その場に居る一人が笑いを浮かべた声を発した。
「――……カッカッカッ!」
「!」
「……親父殿……!?」
相対する者達の沈黙を破ったのは、今までこの場の事態を静観し続けていた『茶』の七大聖人ナニガシの笑い声。
それを聞いた者達はナニガシに注目すると、彼は息子である武玄やその妻である巴に声を向けた。
「武玄。それに巴よ。だからお前達は、いつまでも未熟者なのだ」
「!?」
「それに引き換え、お主等の弟子はこの短期間で成長しておるなぁ。自分の心に従い、その身を動けるようにもなっている」
「……!!」
「偶には、己の弟子を見習ってみろ。――……儂は、それしか言わぬぞ」
そうした声を向けたナニガシに対して、武玄と巴は互いに唖然とした瞳を浮かべる。
しかしその言葉の意味を理解するように、愛弟子へ視線を移しながら表情を強張らせた。
そして互いにケイルへ向けていた構えを解き、逆にケイルと相対そうとする各当主達に相対するような姿勢を向ける。
「!!」
「武玄、貴様……血迷ったかっ!?」
「……そう、年甲斐もなく迷っておったわ。……だがこれで、決心も付いた」
『星』の当主と向かい合う武玄は、そう言いながら抜き身の刀を構え向ける。
すると帝を抑えていた『雲』の当主がケイルへ斬り掛かろうと踏み込むと、それを防ぐように分身体を瞬時に出現させた巴が立ち塞がった。
それを見た『雲』の当主は、鋭い眼光を向けながら巴の本体に怒鳴りを向ける。
「巴、貴様もかっ!!」
「……私が仕えると決めた方は、この世でただ一人。そしてその方の娘として愛すると決めた者も、ただ一人だけ」
「師匠……巴さん……!」
アズマ国に属している武玄と巴は、互いに愛弟子と呼ぶべきケイルに加担する意思を見せる。
それを見たケイルは驚きながらも喜びの感情を僅かに浮かべ、自分に味方してくれる義両親の隣に立ちながら身構えた。
するとその後方から、自身の身体に纏わせる生命力を『生命の火』にさせるシルエスカが同じように構え立つ。
「――……彼等の客人として、私も加勢させて貰うが。構わないな? ケイル」
「シルエスカ……!」
「これで、数的にはこちらが有利になったはずだが。……何ならこの結界を解いて、増援を呼ぶべきではないか? 武士達よ」
「……ッ」
『白』の七大聖人である帝を連れ去ろうとするケイルに加担した三人は、共に各流派の当主達と向かい合う。
そしてクビアに転移魔術を使わせる為に結界を解くよう挑発するシルエスカに、各当主達は苦々しい面持ちを強めた。
七大聖人であるナニガシはどちら側にも付く様子を見せず、ただ笑みを浮かべながら事態を静観している。
そうした一触即発の状況を見せる中、再び映像が各々の目の前に出現した。
「!?」
『――……ほらほら、どうしたの。元気が無くなってきたね?』
『……ハァ……。……ハァ……ッ!!』
「アリア……!?」
再び自分達の前に出現した映像には、銀髪紅眼のメディアが映し出される。
しかもメディアと相対するのは、その色合いとは対照的な金髪碧眼を持つ女性も映し出された。
その映像は、メディアが腕を組んだまま余裕の表情で立つ姿と、周囲の木々を破壊されながら地面へ膝を着くアルトリアの姿。
それは今まさに、天界の聖域でアルトリアとメディアの母子が欠片を奪い合う激戦を映し出していた。
そんな彼等に仕えられる『帝』は、【始祖の魔王】の再来と予測するメディアと彼等が相対する事を望まず、自分自身が天界へ赴く意思を見せていた。
それに反対する周囲を他所に、帝は自分自身の意思で障子に遮られた姿を明かす。
するとその姿は青年の年頃に見えながらも、各国では見られない銀髪銀瞳という奇妙な容姿だった。
更にクビアが告げた帝の正体と相まって、ケイルは驚愕を見せながらも納得を浮かべる。
「……そういや、『白』が言ってたな。自分の転生体が現世に居るって。帝がそうだったのよ……」
少し前に出会った『白』の話を思い出したケイルは、そこに居る帝が『白』の七大聖人を継承した転生体だと理解する。
そして改めて帝の姿を見ていると、畳の上に足を着けた彼を止めるように回りに控えていた『雨』と『雲』の当主が立ち上がりながら前を塞ぎ止めた。
「行かせませんぞ、帝様!」
「どうか御戻りを!」
「止めるな、雨四郎! 朧!」
「これも帝様の為であれば、御免っ!!」
「ぐっ!?」
立ち塞がる『雨』と『雲』の当主達に対して、帝は説得できずに取り押さえられる。
それに抵抗することも出来ずに帝は捕まり、再び障子の奥へ押し込まれそうになった。
それを見ていたケイルは、今までの話を聞いた中で静観に留まる武玄へ疑問の声を向ける。
「師匠! 帝様が到達者に強いと言うならば、メディアを倒せるのでは……!?」
「――……あの者は、到達者ではないらしい」
「えっ」
「帝様の話では、奴の肉体は『マナの実』なるモノにて作り出されている。故に膨大な生命力《ちから》を有してはいるが、到達者の条件となる信仰などは受けておらぬそうだ」
「……それじゃあ、到達者じゃなくても攻撃を与え続ければ勝ち目はあると?」
「そうだ。しかしそれが至難だからこそ、帝は我々の参戦を良しとはしていない」
「どうして、そんな事が……」
ケイルは武玄から話を聞き、メディアが『マナの実』で生まれた生命ながらも、到達者まで至れていない事が語られる。
しかし帝が確信を持って彼等の参戦を拒む理由が分からず、ケイルはそうした疑問を改めて向けた。
すると障子の中に戻されそうになっている帝が、耳に届いたその疑問に答える。
「余の瞳は、『黒』とは逆なのだ!」
「……逆?」
「『黒』は未来を見通す瞳を持つが、『白』の瞳はその者の過去を見通す!」
「!?」
「だからこそ、映像で見たメディアなる者の過去も視えた。――……あの者は魔大陸の到達者達と一戦を交え、その実力は【始祖の魔王】と遜色は無い!」
「……!!」
「だからこそ、余はあの者の下に行かねばならぬ。――……あの者も、この世界に忘れられた者の為に戦っているのだから!」
「……世界に忘れられた者の為にって、まさか……!?」
帝は自身の瞳を通して視たメディアの過去から、その目的を推察しているかのように語る。
それを聞いたケイルは押し戻されている帝を見ながら、何かを決意するようにクビアやシルエスカに視線を向けて小声を漏らした。
「……クビア、それにシルエスカ。お前等に頼みがある」
「?」
「なんだ?」
「帝をここから連れ出す為に、協力してくれ」
「えっ」
「……どういう事だ?」
小さな声で頼むケイルの言葉を聞き、二人は互いに驚きを浮かべる。
するとケイルは、その言葉の意味を改めて伝えた。
「帝は、今回の鍵を握ってる気がする。だったら天界へ連れて行くべきだ。……でも……」
「……周りが、それを邪魔するか」
「シルエスカ。アタシと一緒にあの人達を抑えて、クビアは帝を連れて天界へ行ってくれ。アタシ等は置いていって構わない」
「ちょっ、ちょっとぉ……そんな事したらぁ……!?」
「アズマ国全体を敵に回すだろうな。……それが嫌なら、シルエスカは何もしないでくれ。アタシとクビアだけでもやるから」
「わぁ、私は協力しなきゃいけないのねぇ……」
「転移を使えるのはお前だけなんだから、当たり前だろ」
ケイルはそうした頼みを向けながら、その返事を聞く前に正座から立ち上がる。
するとそれに反応した、立ち上がらず静観していた『星』の当主も同じように立ち上がりながら左腰に携える刀の柄に手を掛けた。
自分の意図を察するような『星』の当主に、ケイルは苦々しい面持ちを浮かべる。
そしてそうした動きの他の当主達も気付き、ほぼ全員がケイルを注視すると、対峙するように構える『星』の当主が呼び掛けた。
「――……何のつもりだ?」
「……貴方達には悪いが、その帝を天界へ連れて行きたい」
「それを我等が許すともで?」
「思わないさ」
「ならば、どうする?」
「……推し通るっ!!」
ケイルは自身の決意を見せながら、その場から跳び出すように前へ走る。
それを見た『星』の当主はケイルの敵対を確認し、自身のケイルに向けて駆けながら凄まじい速さの抜刀と同時に飛び出す気力斬撃を放った。
ケイルはその間に『無我の境地』へ瞬時に至り、無手のまま斬撃を飛び避ける。
そして回転しながら跳躍した天井へ足を着けると、そのまま帝が押し込まれている障子へ視線を向けながら飛び向かおうとした。
しかしケイルが足を天井から離す前に、別の者に両腕を掴まれながら拘束される。
それは彼女の後ろから声を発した、御庭番衆の頭目である巴だった。
「巴さんっ!?
「止めろっ、軽流っ!!」
あの瞬間に追い付き天井へ両足を着けた巴は、ケイルを両腕で抱え込むように拘束して畳まで落下する。
更にケイルの両腕を後ろ手に拘束しながら、身体の正面を畳に叩き着けた。
それと同時に両足を絡めてケイルの手足を拘束した巴は、落ち着かせるように声を発する。
「お前は、自分が何をしようとしているか分かっているのか……!?」
「……分かってます、そんなの……!」
「ならっ!!」
「……今、天界では。アタシの仲間がたった一人でメディアと死ぬ気で戦ってるんだ。……アイツを助けられる可能性があるなら、それに賭けたいんだっ!!」
「ッ!!」
たった一人でメディアと対峙する為に天界へ向かったアルトリアの事を思い出すケイルは、この場に赴いた自身の覚悟を改めて見せる。
すると踏み止まらせようとする巴を引き離すように、肉体の生命力を高めて巴の拘束を力任せに振り解いた。
更に両手を畳に付けて両足を振り放ち、再び拘束しようとする巴を迎撃しながら飛び退いて立ち上がる。
しかし次の瞬間、そのケイルに凄まじい数の気力斬撃が飛び交う。
ケイルは再び『無我の境地』へ瞬時に至ると、それを飛び避け自身の両手と両足に生命力を纏わせながらそれを斬撃として飛ばし、自身に命中する気力斬撃を相殺して見せた。
そして気力斬撃を飛ばして来た相手を見て、ケイルは表情を更に渋らせる。
「……師匠……っ」
「――……軽流」
斬撃を放ったのは、ケイルの師匠である『月影流』の当主である武玄。
そして『星』の当主の前に武玄は立つと、巴と共にケイルの前後を包囲して見せた。
すると改めて、二人は暴挙に出たケイルに呼び掛ける。
「冷静になれ、軽流」
「自分が何をしているか、本当に分かっているか?」
「……分かっています。……だからこそ、アタシはあの帝を連れて行くっ!!」
「軽流……」
「すいません、師匠。それに巴さん。……今日限りで、アタシは破門にしてくださいっ!!」
「……ッ」
自分の意思を見せる愛弟子に対して、武玄は苦々しい面持ちを強める。
巴もまた覆面で隠れた口元を苦々しく歪めると、仲間の為に離反したケイルに対してどうすべきか迷う様子を浮かべた。
そうした三人の姿を、各当主達やシルエスカ達は各々に見つめる。
するとその時、その場に居る一人が笑いを浮かべた声を発した。
「――……カッカッカッ!」
「!」
「……親父殿……!?」
相対する者達の沈黙を破ったのは、今までこの場の事態を静観し続けていた『茶』の七大聖人ナニガシの笑い声。
それを聞いた者達はナニガシに注目すると、彼は息子である武玄やその妻である巴に声を向けた。
「武玄。それに巴よ。だからお前達は、いつまでも未熟者なのだ」
「!?」
「それに引き換え、お主等の弟子はこの短期間で成長しておるなぁ。自分の心に従い、その身を動けるようにもなっている」
「……!!」
「偶には、己の弟子を見習ってみろ。――……儂は、それしか言わぬぞ」
そうした声を向けたナニガシに対して、武玄と巴は互いに唖然とした瞳を浮かべる。
しかしその言葉の意味を理解するように、愛弟子へ視線を移しながら表情を強張らせた。
そして互いにケイルへ向けていた構えを解き、逆にケイルと相対そうとする各当主達に相対するような姿勢を向ける。
「!!」
「武玄、貴様……血迷ったかっ!?」
「……そう、年甲斐もなく迷っておったわ。……だがこれで、決心も付いた」
『星』の当主と向かい合う武玄は、そう言いながら抜き身の刀を構え向ける。
すると帝を抑えていた『雲』の当主がケイルへ斬り掛かろうと踏み込むと、それを防ぐように分身体を瞬時に出現させた巴が立ち塞がった。
それを見た『雲』の当主は、鋭い眼光を向けながら巴の本体に怒鳴りを向ける。
「巴、貴様もかっ!!」
「……私が仕えると決めた方は、この世でただ一人。そしてその方の娘として愛すると決めた者も、ただ一人だけ」
「師匠……巴さん……!」
アズマ国に属している武玄と巴は、互いに愛弟子と呼ぶべきケイルに加担する意思を見せる。
それを見たケイルは驚きながらも喜びの感情を僅かに浮かべ、自分に味方してくれる義両親の隣に立ちながら身構えた。
するとその後方から、自身の身体に纏わせる生命力を『生命の火』にさせるシルエスカが同じように構え立つ。
「――……彼等の客人として、私も加勢させて貰うが。構わないな? ケイル」
「シルエスカ……!」
「これで、数的にはこちらが有利になったはずだが。……何ならこの結界を解いて、増援を呼ぶべきではないか? 武士達よ」
「……ッ」
『白』の七大聖人である帝を連れ去ろうとするケイルに加担した三人は、共に各流派の当主達と向かい合う。
そしてクビアに転移魔術を使わせる為に結界を解くよう挑発するシルエスカに、各当主達は苦々しい面持ちを強めた。
七大聖人であるナニガシはどちら側にも付く様子を見せず、ただ笑みを浮かべながら事態を静観している。
そうした一触即発の状況を見せる中、再び映像が各々の目の前に出現した。
「!?」
『――……ほらほら、どうしたの。元気が無くなってきたね?』
『……ハァ……。……ハァ……ッ!!』
「アリア……!?」
再び自分達の前に出現した映像には、銀髪紅眼のメディアが映し出される。
しかもメディアと相対するのは、その色合いとは対照的な金髪碧眼を持つ女性も映し出された。
その映像は、メディアが腕を組んだまま余裕の表情で立つ姿と、周囲の木々を破壊されながら地面へ膝を着くアルトリアの姿。
それは今まさに、天界の聖域でアルトリアとメディアの母子が欠片を奪い合う激戦を映し出していた。
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