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革命編 八章:冒険譚の終幕
鬼神の目覚め
しおりを挟むアルトリアに貸し与えていた権能を取り戻したメディアは、自らの肉体に巨大な『マナの大樹』を取り込む。
そして自らの肉体を依り代として、大樹となっていた【始祖の魔王】を復活させた。
その脅威はメディアを遥かに上回り、ただ手の平を仰いだだけでアルトリア達が居た扇状の前方数キロ以上の地面を吹き飛ばす。
五十メートル程の高さにも及んでいた巨大な樹林地帯が全て更地になるほどの威力は、まさに伝承に残る【始祖の魔王】そのものであった。
一方、その影響を受けたのはメディアと対峙していたアルトリア達だけではない。
彼女達と合流しようとしていたエリクやマギルス、そしてその傍に居るバルディオスやクビア達もまた、消失したマナの大樹側から起こった衝撃波と樹林の瓦礫に襲われていた。
『――……お前さん等、伏せろっ!!』
「ッ!!」
機動戦士に搭乗していたバルディオスは、積載装置を通して一早く異変に気付く。
膨大なエネルギーを持つマナの大樹が消失し、それに代わるように凝縮されたエネルギー体から衝撃波が放たれた事に気付くと、全員に呼び掛けながら機体を前に歩み出せた。
それと同時にエリクとマギルスも異変に気付き、前方から来る衝撃波を感じながら跳び下がる。
するとバルディオスは機動戦士の背部分を盾代わりにしながら屈ませ、機体の影に全員を隠した。
そして次の瞬間、凄まじい衝撃波と共に樹林や土塊の瓦礫が吹き飛んで来る。
瓦礫が次々と機動戦士に激突し、手の平に乗せていたシエスティナとクビア、そして遺体であるログウェルを両手から降ろしながら地面に指を噛ませた。
『グッ、オォオッ!!』
「こぉ、今度は何なのよぉ……っ!?」
「やはり、そういうことか……!」
「白いおじさん! どういうことっ!?」
「彼奴の狙いは、世界を滅ぼすだけではない! 権能を集めて、【始祖の魔王】を復活させることだったのだっ!!」
「!?」
「映像の時には、そんな過去は視えなかった! だからきっと、その後だ。聖域に来た彼奴は、マナの大樹と接触して【始祖の魔王】を復活させるよう命じて――……っ!!」
「クッ!!」
同じように機体の影に隠れてやり過ごす『白』の帝は、マナの大樹を通して過去視した状況をマギルス達に話す。
しかしその情報は轟音と共に押し寄せる衝撃波と瓦礫によって掻き消され、その場の全員がただ耐える事に集中した。
それから十数秒後、押し寄せていた轟音と瓦礫は一気に途絶える。
すると目を開けて周囲を見たマギルスは、薄暗い状況に声を零した。
「――……ど、どうなったの……!?」
「……瓦礫が重なって、周りが見えない……」
「お爺さん! 大丈夫っ!?」
『――……儂はな。だが、機体の方が破損しちまったのか。操縦が利かなくなってる』
「動けないってこと?」
『外の様子も分からん。瓦礫は、お前達で退けてくれ!』
「はーい!」
激突した瓦礫の影響で機動戦士の破損を伝えるバルディオスの言葉に、マギルスは応じる。
そして自ら背負う大鎌を持ち、周りを囲む瓦礫を押し退け始めた。
瀕死のエリクはそれを手伝えず、荒い息を零しながら呼吸を整える。
しかし彼の精神内で、こんな声が聞こえた。
『――……チッ、あの野郎か』
「……フォウル?」
『おい、小僧。ちょっとこっち来い』
「え――……っ!?」
鬼神の声が聞こえた瞬間、エリクは自身の精神内に意識を引き込まれる。
すると以前にも訪れた真っ白な精神世界に居る事に気付くと、自身の肩を掴んでいた赤鬼姿のフォウルに気付いた。
「――……フォウル?」
「お前の身体、俺に貸せ」
「……なに?」
「だから、貸せって言ってんだよ。ちょっとの間でいい」
「……どういうことなんだ? 何が起こった」
突如としてフォウルに精神内へ引き込まれたのだと知ったエリクは、その理由を問い掛ける。
すると表情を苛立たせるフォウルは、軽い舌打ちと溜息を漏らしながら事情を伝えた。
「チッ……はぁ……。……ジュリアだ」
「え?」
「ジュリアのクソガキが復活しやがった。あの大樹になってたのは知ってたが、循環機構に意識を残してやがるとはな。通りで人間を滅ぼしたがるわけだ」
「……ジュリアというのは、始祖の魔王と呼ばれていた者のことか?」
「そうだ。……アイツは根本的に、人間ってのを反吐が出るくらい嫌ってる。このまま放置しとくと、人間全員を滅ぼしかねん。実際、第一次人魔大戦にもやりそうになったからな」
「!!」
「奴を止めれるのは、相当な実力を持ってる到達者だけだ。……お前も良い線まで強くなったが、まだジュリアのクソガキには敵わねぇだろうな」
「……だからお前が、俺の身体を使って? だが、どうして【始祖の魔王】にだけ……」
「簡単だ。俺がジュリアのクソガキを、殺したいほど嫌いだからだ」
「!」
「あんなクソガキに好き勝手されたまま傍観してる程、俺は腐ってねぇんだよ。……今回だけは特別だ、俺がクソガキの相手をしてやる」
フォウルはそう言い放ち、【始祖の魔王】の復活を察知して自らが戦う意思を見せる。
今までどんな強敵と対峙しても自らの意思で手を貸した事が無い鬼神がそうした助力を伝える事に、エリクは意外そうな表情を浮かべていた。
しかしそれに応じるより先に、エリク自身は懸念を伝える。
「……俺の身体は、ログウェルと戦って傷が治らないままだ。それでも戦えるか?」
「その辺は、どうにかなる」
「どうにか?」
「そんな事より、身体を貸すか、貸さないのか。どっちだ?」
「……」
「安心しろ。クソガキをぶん殴って気が済んだら、お前に主導権は戻してやる」
「……俺では、【始祖の魔王】には勝てないんだな」
「ああ、今はな」
「……そうか。……分かった、頼む」
鬼神フォウルにそう告げられたエリクは、僅かに口元を微笑ませながら頷く。
そして身体を貸す事を認めると、フォウルはエリクの横を素通りしながらその場から離れ始めた。
するとエリクは、振り向きながら別の頼みも向ける。
「フォウル」
「あ?」
「今だけでいい。俺の代わりに、アリアとケイルを、皆を守ってくれ」
「……フンッ」
エリクの頼みを聞いたフォウルは、ただ鼻息を漏らしながら振り返らずに精神内部から消える。
すると視点は現世側に戻り、一秒にも満たない時間で瞼を閉じていたエリクは瞳を見開き、僅かに赤い輝きを秘めながら瀕死の身体で立ち上がった。
瓦礫を押し退けていたマギルスはそれに気付き、淀みの無い歩調で瓦礫に近付くエリクに呼び掛ける。
「おじさん? 無理しなくていいよ、僕が――……えっ!?」
「!?」
次の瞬間、エリクは巨大な樹木が幾重にも重なっている瓦礫に無造作な右足の蹴りを放つ。
すると軽々とそれ等の瓦礫が吹き飛び、一気に外に繋がる隙間が開いた。
今まで重傷で動く事すらやっとだったエリクの怪力に、マギルスや周囲の者達は絶句する。
しかし『白』だけは、銀の瞳でエリクを見ながら驚きを浮かべながら納得した。
「……これは驚いた……。お主、鬼神フォウルか?」
「!?」
「えっ」
「――……テメェ、『白』か。……これは俺の喧嘩だ。手ぇ出すなよ、出したら殺すからな」
「いや、戦ったら余が勝つだろ……」
「なんか言ったか?」
「……わ、分かったよ。……もう……」
声はそのままながらも違和感の強い口調を見せるエリクに、周囲の者達は動揺を浮かべる。
しかしその時、ログウェルの遺体に刻まれたままだった『緑』の聖紋が右手の甲から消えた。
すると次の瞬間、ログウェルの遺体が緑色の光を放ち始める。
それに気付いた周囲の者達と同様に、雰囲気の異なるエリクもそちらに視線を向けながら悪態を零した。
「やっとか。随分と遅かったな、今回は」
「お、おじさん……?」
「到達者が到達者を殺すと、殺された方が持ってる生命力と魔力が全て殺した到達者に流れ込む」
「!」
「だから勝った方の到達者は、その流れ込んだエネルギーで傷を治す。――……こんな風にな」
「……!」
そうした知識を述べるエリクに、ログウェルの遺体から放たれる緑色の発光体が流れ込み始める。
すると彼の言う通り、重傷だったらエリクの深手が次々と癒え始め、砕かれていた両拳や両腕も修復を戻り始めた。
『白』を除く全員がそれを見て驚き、再び唖然とした様子でその光景を見届ける。
そしてエリクの負った傷は全て完治すると、両拳を握りながら瓦礫の隙間を通り、まだ積もっている瓦礫を手で軽く払うように吹き飛ばしながら悪態を聞かせた。
「チッ、やっぱ俺の身体じゃねぇからな。威力が弱ぇな」
「……もしかして、おじさん。本当に……鬼神フォウル?」
「あ? ……まっ、ちょっとコイツから借りてるだけだ。心配すんな」
「!」
「それよりテメェ等、さっさとここから離れろ。……ここに居ると、死ぬぞ」
「!?」
「おじさんっ!?」
目の前に居る大男が鬼神フォウルである事を改めて理解したマギルスだったが、詳しい事情は明かさずに困惑を強める。
そんなマギルスや他の者達に対して、フォウルはその場から走りマナの大樹が在った方角へ駆け出し始めた。
呼び止めたマギルスの声にフォウルは反応せず、そのまま凄まじい速さで瓦礫を飛び越えながら走り去ってしまう。
それでもこれから起こるであろう出来事を予期したマギルスは、操縦席に乗るバルディオスに呼び掛けた。
「お爺さん! 機体、まだ動かせないっ!?」
『――……飛行装置が壊れちまってるが、ちょいと修理すりゃ歩くくらいは出来そうだ!』
「だったら早く修理して! 修理が終わったら、皆と一緒に出来る限りここから離れてね!」
『ああ! ……ん? その言い方、お前さんはどうする気じゃっ!?』
「僕、おじさんと一緒に行って来る! 他の皆も心配だし!」
マギルスはそう言いながら、クビアの傍に居るシエスティナを見る。
不安な表情を強めるシエスティナに対して微笑みを向けるマギルスは、自信に満ちた声を向けた。
「大丈夫。君のお父さんもお母さんも、僕が守るから!」
「……うん!」
『待つんじゃ、マギルス!』
マギルスは友達とそう約束し、エリクを追うようにその場から離れる。
そうして二人は互いの目的を遂げる為に、【始祖の魔王】が出現した位置へ向かった。
こうして【鬼神】は【始祖の魔王】の出現に気付き、自らの意思で戦う事を決める。
それは彼にとって、まだ決着していない喧嘩を終わらせる為でもあった。
応援ありがとうございます!
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