虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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終章:エピローグ

化物の夢

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 ホルツヴァーグ魔導国に身を寄せるアルトリアは、女生徒に扮する母メディアと幾度か話を交わす。
 あの『大樹事変できごと』を通じて初めて相対した母親メディアの行動を理解し掴みかねるアルトリアは、それを嫌いながらも徐々に交わす言葉を増やし始めていた。

「――……結局は創造神オリジン権能ちからって、創造神オリジンの分けられた破壊衝動じんかく……『黒』の方を模倣して作られた能力ちからだったの」

「そうそう。私もあの時、『黒』に聞いた話なんだけどね」

「だとしたら、『黒』と『白』の間で創造神オリジン権能ちからに対する見解が違うのも頷けるわ。『黒』は権能を持つ者同士の衝突を、負の感情から来る破壊衝動こうどうだと考えてたんだもの」

「実際、そうだと思うけどね。母さんジュリアがまさに、その典型だし」

「人間に対する憎悪ね。……どうして【始祖の魔王ジュリア】は、それほど人間を憎んでるの?」

「うーん、話していいのかな? ……あっ、良いみたい。君になら」

 依然と同じ場所で昼食ひるの時間に話す二人は、互いに知る情報を共有するように言葉を交わす。
 アルトリアにとってそれはメディアと改めて対峙した際に有益な情報を得る為でもあったが、純粋に自分の知らない情報に興味を抱いていたからでもあった。

 そして魂の回廊を通じて承諾を得たメディアは、【始祖の魔王ジュリア】が人間を憎悪している理由を明かす。

「三千五百年前くらいに起きた第一次人魔大戦。それが二千五百年前に終息したってのは知ってるかな?」

「ええ。【始祖の魔王ジュリア】と【魔大陸を統べる女王ヴェルズェリア】が人間大陸を滅ぼし掛けて終わったのよね」

「実はその直前、人間側から魔族の反抗勢力ふたりに対して和平を結びたいって話を伝えたんだ」

「!」

「人間側の到達者エンドレスだった【大帝ヒト】が、【勇者】を通じて母さんジュリアとヴェルズェリアに伝えてね。その二人は最初こそ和平を罠だと思って拒否しようとしたんだけど、ある人物に説得されて渋々ながら承諾した」

「ある人物?」

「【鬼神】フォウルの息子、フォルス」

「!」

「【鬼神フォウル】と人間の女性から生まれたフォルスは、半鬼人ハーフオーガの魔人だった。彼は鬼神ちちおやにも認められるくらい強い上に、人間だった母親の影響を受けて人間に対する偏見は魔族より持ってなかった。……そんな彼だけど、第一次人魔大戦を経て母さんジュリアとヴェルズェリアの親友にもなってた」

「【始祖の魔王ジュリア】と【魔大陸を統べる女王ヴェルズェリア】の、親友……」

「フォルスは人間を信じてたし、信じたかった。だから【勇者】と一緒に説得して、二人を連れて【大帝】と会う為に人間大陸へ向かった。……でも結局、それは罠だった」

「……」

「そういえば、第一次人魔大戦を起こした【大帝】の目的は知ってる?」

「……知らないわ」

「【大帝】の目的は、地上に在るマナの樹を全て破壊すること。そして、その大樹から生まれた生命マナの実を消滅させることだよ」

「!」

「千年の間に七本のマナの樹を全て破壊した【大帝】は、実から生命となった【始祖の魔王ジュリア】や【勇者】も殺すつもりだった。そしてジュリアを信奉してる到達者ヴェルズェリアも排除する為に、招き入れた都市に敷いた兵器で到達者エンドレスとマナの実を封じて殺そうとした」

「……でもそれって、到達者エンドレスの【大帝】もその影響を受けたんじゃ?」

「その影響を受けない方法も用意してたんだよ。自分自身の肉体を、全て機械にするという方法でね」

「!」

「生身の到達者エンドレスやマナの実にしか効かない封印兵器。それで母さんジュリアやヴェルズェリア、そして【勇者】は逃走も出来ずに殺されそうになった。……でも、到達者エンドレスではない半鬼人ハーフオーガのフォルスには効かなかった」

「……まさか……」

「そう。ただ一人封じられなかったフォルスは、親友達を守る為に到達者エンドレスである【大帝】と戦った。……その結果、フォルスは相打ちで【大帝】の機械からだを破壊し、最後の力を振り絞って親友達を解放して死んでしまった」

「……」

「自分達を騙した上に親友フォルスを殺された二人は、人間という存在そのものを憎悪して徹底的に人間とその文明を滅ぼした。……それを止めたのが、フォルスの娘だったレイ。今のフォウル国の巫女姫だよ」

「!」

親友フォルスを犠牲にした負い目を持ってた二人に、その娘である巫女姫レイは人間を監視し二度と魔大陸に干渉しないようにすることを盟約として、人間全てを滅ぼすことを止めさせた。そういう経緯で、第一次人魔大戦は終了したんだよ」

「……ッ」

「人間大陸が今でも残ってるのは、言わば鬼神フォウルの息子フォルスのおかげなんだよ。……でも時間が経つと、人間はそれも忘れて五百年前に第二次人魔大戦を起こした。しかも母さんジュリアがマナの大樹にさせられて、魔大陸側の戦力が弱まったタイミングにね」

「……だから【始祖の魔王ジュリア】は、御立腹だったわけね」

「そうそう。……今回の事態、巫女姫レイが私のやることに介入しなかった理由は分かる?」

「……盟約を先に破ったのが、自分だから」

「正解。人間側が魔大陸に再侵攻した第二次人魔大戦を、監視者である巫女姫レイは止められなかった。だから第二次人魔大戦それ以降、巫女姫は人間大陸や人間達が滅びの危機に陥っても介入せず、魔大陸や自分達に危害が及ばない限りは手出しを控えてたんだよ」

「【始祖の魔王ジュリア】が人間を滅ぼすのを、止める気が無いのね。……だとしたら。巫女姫を頼りに出来ないわね」

「そうだね。例え巫女姫レイが止めに入っても、今度は母さんジュリアも人間を滅ぼすのを止めないよ。……そういう意味で、母さんジュリアを止める為に【魔神王かれ】を介入させた『黒』の一手は巧妙だったね。【魔神王かれ】以外には、母さんジュリアは止められなかっただろうし」

「彼って、あのゴブリン……【魔神王】のことよね。どうして【魔神王】だけが、【始祖の魔王ジュリア】を止められるの?」

「それは彼が――……あっ、それ以上は言っちゃ駄目みたい。それと、【魔神王かれ】に何かしたら殺すってさ」

「そんなつもりは無いわ。……代わりに一つだけ、【始祖の魔王ジュリア】に答えて欲しい事があるわ」

「……内容次第だって」

「そう、なら知ってたら答えて。――……七つの欠片ちからを一つの器に集めるのは、本当に欠片を持つ者を殺すしかないの?」

「……」

「『黒』が私に教えた方法。創造神オリジンの身体に生きる欠片の精神体を入れる方法を他の身体でも出来るなら、わざわざ欠片を持つ者を殺す必要は無いんじゃない?」

「……それだと欠片は一つに纏まらない。欠片を一つに戻すのは、欠片を持つ者を殺すのが大前提だってさ」

「そうね。……でも、目覚めさせるだけなら?」

「!」

「今も眠ってる女の子。結晶あれでも目覚めないなら、欠片を全てその子に集めれば起きるかもしれない。……そう思わない?」

「……その為には全ての欠片を持つ者を集めて、寝ている女の子がいる場所まで連れていく必要があるね。でも母さんジュリアはマナの大樹に戻ったし、私もそんな面倒なことしたくない。何より欠片を持つ大半の人達に嫌われてるし、殺した方が簡単らくだよ」

「なら、それを私がやるわ」

「!」

「私が欠片を持つ者を説得して、その子を目覚めさせるのを手伝わせる。だからアンタ達は、それを承諾して協力してくれるだけでいい」

「……その代わり、欠片を持つ者達や人間達に危害を加えるなってことね。しかも、母さんジュリアにも頼んでるわけだ」


「ええ」

 メディアを介して【始祖の魔王ジュリア】に交渉を持ち掛けるアルトリアは、そうした条件を向ける。
 すると口を閉じたメディアは僅かに頭を頷かせ、答えを伝えた。

「――……やってみろってさ。私も邪魔しないし、人間も襲わないよ」

「言質、取ったわよ」

「その代わり、こっちも聞きたいことがあるって」

「なに?」

「どうしてそんなに人間を庇うんだ? だって」

「庇う?」

「君にあんな酷いことした人間やつらを助けたり庇うのか、理解できないってさ。別未来の記憶も持ってるんでしょ? 君が一度目に殺された時のとか」

「!」

母さんジュリア循環機構システムを通して、ちゃんと現世で起きた別未来の事も把握してるからね。……君も人間に裏切られたのに、どうして人間に肩入れするのか。母さんジュリアも私も、今の君がそうしてるのが信じられないんだ。別未来あのときみたいに、化物こっち側になって人間を滅ぼすのが普通だよ」

 人間を守るようなアルトリアの言動を理解できないメディア達は、そうした問い掛けを向ける。
 するとアルトリアは視線を落とし、影を宿す表情で本音を明かした。

「……別に、人間なんか滅びてもいいと思ってるわよ」

「へぇ」

「でも失敗したことをもう一回やっても面白くないし。だったら、別のことで楽しみたいと思うのは普通でしょ」

「別のことっていうのが、人間を助けること?」

「それは付属品オプションみたいなモノよ。……昔の私アリアが築き上げて、今の私で完成させたモノがどうなるか見届けたいだけ。その為には、人間には残っててもらった方が都合良いのよ」

「完成させたモノ?」

「そうよ。――……私達が命を賭けて育てた『英雄かれ』を飾るには、人間大陸ここは丁度良い舞台ばしょだわ」

 そう言いながら長椅子《ベンチ》から立つアルトリアは、意地の悪い微笑みを見せながらその場を離れていく。
 その背中を見るメディアは、呆れるような微笑みと言葉を浮かべた。

「なんだ、君もちゃんと持ってるじゃない。――……自分の『化物ゆめ』をさ」

 そう評すメディアは、アルトリアとログウェルの持っている『化物ゆめ』が同じ英雄おとこに注がれているのを理解する。
 こうして親子とは程遠い会話を交わしながらも、アルトリアとメディアは互いの理解を深めていった。
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