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番外・後日談2
『鏡の精霊~』からの出張編 (10)
しおりを挟む以前ユウマ殿の境遇を話してもらった時、彼は『別の世界から無理やり引きずり込まれた精霊』という言い方をしていた。
禁術を使った奴のせいで元の世界と切り離され、永遠に彷徨うことになりかけていたところを、レムレス殿に救われたと。
だが、元の世界でも精霊だった、とは聞いていないな。
子猫もこういう言葉遊びが得意だ。それにレムレス殿が子猫と喋る時、かなり言葉に気を付けている印象がある。言質を取られないよう、慎重になっているというかな。
俺は全然気にせず子猫と喋りまくっているけれど、そういう時にレムレス殿は奇妙な目でこっちを見てくる。前にアレッシオが子猫の真実を知った時も、似た視線を向けてきていた。
俺としては九歳の頃から、もう十年以上も子猫とこんな感じで話しているし、今さら変える気もなければその必要性も感じない―――いや、今気になっているのはそういうことではなかった。
俺は心の中で子猫に問いかけた。
―――なあ。ユウマ殿に『俺』がいた世界のことを詳しく話したり、ユウマ殿のいた世界のことを詳しく訊き出すのって、何かまずい影響でも出るか?
「んにゃ? 特にそーゆーのはないぞ。仮にユウマがおまえに愛着湧いて『元の世界に戻りたくない!』とか思うようになったら、マジで帰れなくなる問題あるケド。レムレスいるからその心配はないだろ」
「ええっ? 猫ちゃん、何の話?」
子猫のセリフよりも、真っ先にユウマ殿の『猫ちゃん』呼びに反応し、何とも言えない表情で彼を見つめるレムレス殿……と、アレッシオ、おまえもか。
いいじゃん別に。『猫ちゃん』呼びの何が悪いんだよ?
猫ちゃん、子猫ちゃん、うちの子、うちの子猫、我が家のにゃんこ、素敵にゃんこ、好きなので呼べばいいじゃんよ。
しかしそれは置いといて、必要以上に愛着が湧く結果になったら、危ないことは危なかったんだな。
でも子猫の言ったように、ユウマ殿はレムレス殿のいないこっちの世界に残りたいとか思わんだろう。
なら大丈夫だな。
「アレッシオ。すまんが、今夜はユウマ殿と寝る」
「……承知しました」
ロッソ邸ツアーに関するユウマ殿との会話、その直後に俺が子猫と何やら内緒話をしたことから、少し込み入った話をしたいんだなと察してくれたのだろう。今回ばかりはすんなりと頷いてくれた。
レムレス殿もなんとなく察してくれたようで、仕方なさそうに小さく息を吐いている。
申し訳ないな、一晩だけだからユウマ殿を借りるよ。
なんならアレッシオと酒でも飲んでくれていいからね。
ユウマ殿はどうしてそんな話になったのか不思議そうにしつつも、俺の部屋へお泊まり自体は喜んでくれた。
アレッシオは本当にレムレス殿と飲むらしい。白ワインと二人分のグラスを自分の部屋に準備し、最近ではいつも開けっぱなしな、俺達の部屋をぶち抜いて繋いだ内扉を閉ざした。
さらにレムレス殿が、お互いの話し声を魔法で遮断してくれるそうな。ほんと万能だなこの人。
子猫は俺の部屋に来るかなと思ったら、アレッシオ達に交ざるそうだ。この世の不条理について、この機会に語らいたいことがたくさんあると言っていた。
なんか壮大なテーマだけど、楽しく飲めよ~。
って、子猫は酒を飲んじゃダメだから! 命に関わるから!
絶対ミルクにしとけよ!
「いや、僕は死なんケド。別に好きでもないから飲まないって」
ほっ、そうか。
ならいいよ、行ってらっしゃ~いとアレッシオの手に預けた。
ところで、客人達に提供していた部屋は、俺の部屋からそんなに遠くない。
なのでユウマ殿は風呂に入ってから寝間着に着替え、就寝前の時刻になると俺の部屋へ来てくれた。
薄手のネグリジェっぽい寝間着の上に、ナイトガウンを羽織っている。
どちらも俺の服だけれど、最近の俺はこのネグリジェタイプを、真冬以外はほぼ着ていない。ぶっちゃけ、あんまり俺に似合ってない気が個人的にはしている。
でも、ユウマ殿には似合うと思ったんだよな。
彼はいかにも可愛らしい系の外見ではなく、禁欲的で真面目そうでいながら、しっとりした色香も帯びているというミステリアスな容姿の持ち主だ。
大人びた少年とも、若々しい青年とも取れ、ふと目が引き寄せられる絶妙なアンバランスさを備えている。
日頃から彼が着ている服は、かなり上質でいて、デザインそのものはかなりシンプルだ。そして色は、上から下までほぼ黒。
そんなユウマ殿に、オフホワイトのピラピラレースなワンピースタイプの寝間着をチョイスしたのは俺ではない。
エルメリンダだ。
俺の服、どれでも貸してあげてと言ったら、彼女は迷わずこれを選んだ。
ほんと肝が据わっている。
そして目が確かだ。寝間着単体だと、ユウマ殿の雰囲気とギャップがあり過ぎて似合いそうにないのに、いざ着ているところを想像してみたら「あれ? いける?」となった。
そのギャップの妙というかな。
さらに言えば、俺のサイズで仕立てられているものだから、ユウマ殿には少々大きい。
なので裾は長めで、袖も余っている。
そのぶかぶか感が、妙に可愛らしい。
頭の中に『彼シャツ』という単語が浮かんだ。
なるほど。俺も『俺』もついぞそんな体験をしたことはなかったが、世の中の彼氏が彼女のシャツ姿、それも自分のシャツを着ている姿に萌える気持ちがなんかわかってしまった。
ちなみに俺がアレッシオのシャツを着たことはある。
子供の頃にも借りて着たことがあったし、最近では朝に寝惚けながらシャツをもそもそ着てみたら、なんかデカくね? あ、これアレッシオのじゃん? ということがあった。
すまんすまんと謝り、俺のシャツを探そうとしたら、なんでかガッと両肩を押さえて止められた。
『アレッシオ?』
『―――…………いえ』
彼はどういうわけかものすごく葛藤している表情になり、結局は俺のシャツを差し出して着替えさせてくれたんだけども、普段とは別人のように動きがのろのろしていた。
その日以降、アレッシオと……少々激しめのいちゃいちゃをしたあと、俺の意識が飛んでいる間に着せてくれているのが、寝間着じゃなく彼のシャツということがたびたびある。
もしやアレッシオも、そういうのに萌えるのかな?
ユウマ殿以上に、俺は可愛らしいとは到底言えない容姿の系統だから、あんまりそういうのに向いていないと思っていたんだけれども。
でも意外と、俺の『彼シャツ』姿って、グッとくるのかな?
……これは検証が必要だ。
あまりに珍奇な格好は、たとえアレッシオに頼まれてもしたくはない。むしろアレッシオは、俺に変な服など断固着せてたまるかという方々の筆頭である。
けれど着るのは、アレッシオのシャツ。
たとえ他人の目にはそれが滑稽に映ろうと、見せるのはアレッシオだけだし、彼が見ていい感じであればいいのだ。
うん。今度試そう。
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