どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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最後の仕上げ

218. 偉くなっても絶対勝てない相手

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 読みに来てくださってありがとうございます!
 再開いたします。

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「それじゃあ今度から、王宮に通うようになるんだね?」
「うん。とりあえずは三日に一度にして、今後必要に応じて変更していく予定だよ」

 ムスター邸の俺の部屋でお茶を飲みながら、リシェルに王宮での出来事と今後の予定を共有した。
 従僕のカイとノアにも関わってくる話なので、退室しようとする彼らを呼び止め、この場に待機してもらっている。
 ミッテちゃんも好物の粟のお皿をつつきながら、意識の大部分は俺の話に向けていた。

「四公改め四大公は、基本的に今まで通り本邸で暮らし、三日に一度は王宮に出向いて仕事を行う。常時王宮にいなければ国が回らないとか、実はそんなことはなくてね」

 これまでは国王と王妃がまったく機能していなかったため、宰相と大臣達は各自の権限では決められない重要なものごとを、会議で決定して進めなければいけなかった。
 話し合いで決めようというのは平和的でいいが、結論を出すのに日数がかかるというよくない側面もある。
 中には三日どころか、一週間以上かけても解決しないことがざらにあったらしい。

 国のためにどうこうという理屈をこねながら、実際は個人的に都合が悪くて反対する者が出るせいで、堂々巡りになって一向に話がまとまらないのだ。
 そして彼らは当然のように派閥に分かれ、強い力を持つ派閥か、事前の票集めの巧い派閥が意見を通せるようになる。

「遠い未来にはそういうまつりごとの形も必要になるかもしれないけれど、国の頭が代わる時は『速さ』が重要だからね。今のこの国には必要のない仕組みだ。今後は各大臣達も、正式に僕ら大公をトップとして動いてもらうようにする」

 大雑把に分けると、ヴェルクの義父上ちちうえ様とエアハルトは『武』の方面を担ってもらい、シュピラーレの小父様と俺は『文』を担う。大臣達もそれを基準にして、俺達の下に振り分けた。
 独立しているのは宰相の地位だ。彼は俺達四人全員の補佐であり、不在時には大臣達の取りまとめを行う。

 宰相のおじさんも言っていたけれど、俺達がトップに立つことで不毛な話し合いの日数がカットされるから、なんなら週に一度の王宮通いでも充分に回るほどなのだ。
 だから当初は週一でもいいんじゃね? という声もあったけれど、俺とシュピラーレの小父さんは首を横に振った。

「僕らの不在期間が変に長いと、自分達が王宮の実権を握ろうなんて増長する輩が出るからね。こまめに顔を出して、勝手な真似は許さないと睨みをきかせたほうがいいんだ」
「そうだね……わたしも、ランハート達が何日もいなかったら、自分達の天下だと勘違いをする人達が出てきそうだと思うよ」

 これに関しては俺とシュピラーレの小父さんの見解が一致しているから、義父上ちちうえ様とエアハルトはすぐに納得してくれたんだけど。
 リシェルも同意見となれば、やっぱり確実にそうなるよね。

「それで、カイとノアにもここで聞いてもらっている理由なんだけどね」
「はい。俺達に関係があるということですが」
「いったいどのようなことで……?」
「うん。早い話が、二人とも僕とリシェルの『侍従』になってもらうから」
「は!?」
「私達が、ですか!?」

 二人とも目を見開いている。彼らの将来設計に『侍従』は存在しなかったろうから、さぞかしびっくりしたことだろう。

「ですが、俺とノアは平民ですよ? 侍従なんて無理でしょう?」

 そういうことなんだよね。
 貴族が従僕やメイドになることはできても、平民が侍従や侍女になることはできない。だから二人とも、それを想像したことすらなかった。

「普通はもちろんできないさ。でもおまえ達が従僕のままだと、王宮で近くに仕えてもらうことが不可能になるんだよ。汚れの大部分は排除してだいぶ綺麗になったけれど、さっきも言ったように大臣達の中には野心家もいる。この先、そいつらが自分の息のかかった使用人をこっそり送り込んで来ないとも限らないから、身近で世話をするのはカイとノアに頼みたいのさ」
「それは……そう、ですが」
「ちなみに、これはもう確定事項だから。一週間後には宰相が手続きを済ませてくれている予定だ」

 カイとノアはあんぐりと口を開けた。そう、もう決まっちゃったから取消しできないんだよ~。
 二人は今回限りの特例として、平民でありながら侍従となる。とはいえ、王宮で貴族出身の使用人や官吏に舐められてはいけないから、騎士爵か準男爵か男爵か、それ相応の身分も用意しようかという話も出ていた。

「お、俺達が貴族……!?」
「嘘でしょう……」
「はっはっは。おまえ達の代に限った身分だがな。というわけで、一週間後までに姓を考えておきなさい」
「無茶言わないで下さいよ!!」
「そういうのはもっと早く教えておいてください!!」

 早めに教えたら辞退されそうだからギリギリで事後承諾にしたんだよね、という裏話は内緒である。
 俺の心の声が聞こえたのか、リシェルがソファの隣で「もう」と苦笑し、手の平で俺の頭をペシリと叩いた。



 それはもう軽~い『ぺし』だったんだが、その程度でもスイッチが入る俺はこう見えてお年頃。
 流れるようにリシェルを押し倒し、カイとノアが頭を横に振りながら退室していく気配があった。
 背後でドアの閉じる音を聞きつつ、服の上からリシェルの身体をまさぐろうとして、ふと違和感に気付いた。

「あれ? ……リシェル、もしかして体調悪い?」
「え? いや、そんなことはないよ?」
「そう……?」

 でもなんか、反応が微妙に鈍いんだよな。
 考えてみれば以前、こうしてソファに押し倒したら「ここじゃイヤだ」と涙目で抵抗されたのに、なんとなく抵抗するのが億劫おっくうというか、気怠そうに見える。

「今日はやめておこうか。疲れているんなら、無理は……」
「い、いやだ……!」

 離れようとしたら、リシェルが俺の上着を掴んできた。
 唇を引き結び、涙目でうるうると俺を見上げてくる。……その目は明らかに、行為の続きを訴えかけてきた。

 こ、こんなワザをどこで会得したんだリシェル!?

 ――即座に複数のメイド達の顔が浮かんだ。
 彼にこのテクニックを教えそうな女性が周りに多すぎて、誰が犯人かわからない。

「ランハート……」
「う……」

 俺の脳内で、理性を堰き止める何かがガラガラガラと崩される幻聴。
 そして揚がる白い旗。

「じゃあ、今日は少しだけ、ね」
「うん」

 恥ずかしそうに嬉しそうに頷くリシェルに、まんまと心臓を掴まれた俺は、慎重に彼を抱き上げて寝室に運んだ。

「おや……? リシェルは……」

 ミッテちゃんの呟きが耳に入った。
 あ、しまった。またミッテちゃんを放置しちまってるわ。
 ごめんよ。




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 読みに来てくださってありがとうございます!
 すみません……明日は肌色回になると思います(汗)

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