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15. 恋の犠牲になった娘
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※前話から引き続き暗め注意です。
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「なんという非道な真似をするのだ、ロシータ! 今この瞬間をもって、おまえとの婚約を破棄する。己の罪を償うがいい!」
ああ、ついにこの日が来てしまった――
絶望と同じぐらいの納得が己の内に生じ、それが何よりもロシータを打ちのめした。
きっとこうなると思っていた。ダリオとパトリシアが初めて挨拶をした日、彼らがうっとりと見惚れ合った瞬間から。
いいや、もっとずっと前。
婚約後の初顔合わせの日、自分の婚約者がつまらなそうに目を逸らした瞬間から。
ロシータと同い年の伯爵令息、ダリオとの婚約が成立したのは、二人とも十歳の時。
どちらも感情の取り繕い方が身についていない無知な子供に過ぎず、自分が母のような美を備えていない娘だと理解していたロシータは、伯爵令息の婚約者という立場に喜びよりも恐怖ばかりを覚えていた。
相手はきっと、こんな醜い娘を気に入りはしない。父だって何度も言っているではないか。
褒めようのない容姿を持って生まれた哀れなおまえに、世の男は見向きしないと。
ダリオは凛々しく美しい少年だった。彼はロシータとは逆に、己の婚約者に何らかの理想を描いていたのだろう。レイエス子爵は己の娘の愛らしさを宣伝したに違いなく、何より儚げな美貌で知られたローサの娘なのだ。
ところが初顔合わせで婚約者の実物を前にした彼は、顔全体に大きく「これが?」と書いた。
そして委縮して姿勢も悪く、目を伏せがちな少女にはっきりと落胆し、あからさまに重い息を吐き出した。
溜め息の音にロシータはますます小さくなった。こんなに美しくなくてごめんなさい。何の魅力もない女の子でごめんなさい。
気に入られずとも、せめて嫌われたくないと思うのに、どうすれば愛想良くできるのかがまるでわからない。
無理に笑おうとすると、どうしても歪んだ笑顔になる。自分の笑顔はみっともなくて、何もしていないのに笑っていると不気味だとか、頭がどこかおかしいのではないかと皆に言われるのだ。
特に母ローサの絶大な信頼を得ているカタリナからは、旦那様が恥をかきますのでお嬢様は笑ってはいけませんと、何度も注意されている。
にこりともしない面白みのない女だと、ダリオに何度不満をぶつけられようと、ロシータは笑顔を浮かべるわけにいかなかったのだ。
ロシータが十四歳の時に病弱だったローサが亡くなり、一年後にカタリナが後妻となって、二歳年下のパトリシアという義妹ができた。
義妹はとても無邪気で善良で愛らしく、家じゅうの誰もが初日で彼女の味方になった。
継母カタリナはともかく、この頃のパトリシアに野心があったかどうかは、ロシータにはわからない。彼女の行動のすべてを簡潔に説明するなら、ただ『無邪気』だった。
義姉に冷たい態度を取られて悲しむのも、「お義姉様に嫌われている私がいけないの」と人前で宝石のごとき涙を流すのも、彼女の行動のすべてにたいした裏はなかったのだろう。
ただもしかしたら、楽しんではいたかもしれない。
義姉に虐げられている可哀想な義妹。それを自分が演じている自覚はなく、比較されたロシータのみじめな姿も、ロシータとは大違いだと褒めそやされる己の姿も、何もかもがきっと楽しかったのだ。
義姉の婚約者ダリオとの『運命の出会い』、許されざる二人の仲という素敵なスパイスも、何もかも彼女を夢中にさせるには充分だった。
「ダリオ様……できることならばあなたと、お義父様とローサ様のような未来をともに築いていきたいわ」
「なんと嬉しいことを言ってくれるのだろう、パトリシア。約束しよう、私の愛は永遠にきみのものだ」
パトリシアはダリオという男のことをよく知らず、自分もレイエス夫妻のような恋物語の主人公になれると信じて疑わなかった。
そう――ロシータが彼のことを知らなかったように、パトリシアもまた知らなかったのだ。
身分も財力も格上のバルガス伯爵家、その一人息子であるダリオが、どうしてたかが子爵家の、さほど美しくもない娘と婚約をするはめになったのか。
それはレイエス子爵家以外に、婚約を申し込む家がなかったからだ。
ダリオの父であるバルガス伯爵は女性を見下す傾向が強く、正妻をないがしろにし、家の外に大勢の愛人を作っていた。
彼の品性はどれほど婉曲な言い方をしても良い表現を使えず、多くの貴族から煙たがられていたというのに、レイエス子爵だけはそれを知らなかったのである。
夫婦揃って純粋培養の箱入りと呼ばれ、どこまでも疑うことを知らない。
バルガス伯爵に娘を差し出すということは、下僕になる約束をさせられたと同義なのにと、周囲から嘲笑されていてもレイエス子爵は気付かなかった。
そんなバルガス伯爵の人生は、妻と愛人達の争いに巻き込まれて刺されるという、原因が自然に結びついた終わりを迎える。
ダリオはわずか十七歳にして家督を継ぐことになり、誰に邪魔されることなく堂々と婚約破棄を宣言し、パトリシアを新たな婚約者に迎えたのだった。
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