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雪に閉ざされた山荘での密室殺人
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前日から降り続いた雪が、人里離れた山奥にポツンと建つ一軒の山荘を包み込んでいた。
豪華なディナーを終えた酒の飲めない世界的名探偵の保成(ポナロ)氏は、暇を持て余してテレビを見ていた。それを見かねたこの館の執事が、保成氏の横に座り、話し相手になった。
登場人物
数々の難事件を解決してきた世界的名探偵 保成(ポナロ)(五六)
大会社の会長 直上 盆太 (七六)
大会社の社長で盆太の息子 直上 盆凡 (四七)
盆太の甥 直上 将一 (四三)
真面目な執事 (六四)
働き者の家政婦 (五一)
二階でドスンという何か物のぶつかる音がして、保成氏と執事は耳を澄ませた。
すぐに「おじさん、おじさん」と呼ぶ声が聞こえてきた。
保成氏と執事は急いで二階へ行った。
廊下の一番奥の部屋の前に直上将一が立ち、ドアノブを握りしめて中に声をかけている。
「どうかしたのですか?」
保成氏が尋ねた。
「隣の部屋で人が倒れるような音がしたので、心配して見にきたのです。心筋梗塞か何かで倒れているといけませんから。でもドアには鍵がかかっていますし、中から返事はありません」
「急いでカギを取って参ります」
執事が急ぎ足で立ち去った。
将一はなおも叔父を呼び続けた。保成氏はドアに耳を近付けて中の様子を伺ってみたが、何の物音もしなかった。
「どうしたのですか?」
反対側の奥にある部屋から直上盆凡が出てきた。
それに続くように、カギを持った執事が息を切らせてやってきた。
執事からカギを受け取ると、将一はカギを回し、ドアを開けた。
部屋の中央に盆太が横たわっていた。頭から血を流している。
駆け寄ろうとする人々を保成氏が止めた。
「待ちなさい。誰も入らないよう、ここで待っていてください」
保成氏はそう言うと、一人部屋に入り盆太の様子を調べた。
「死んでいますな。皆さん、ここに来て確認してください。周りのものには一切手を触れないように」
盆凡と将一と執事が部屋に入り、死体を確認した。触れるまでもなく、見開いた目を見れば、事切れているのは明らかだった。
「警察に連絡をしてください。この雪ではすぐに来られないと思いますが」
執事が部屋を出ていった。盆凡と将一も後に続いた。
保成氏はスマホで死体や部屋の様子を撮影しだした。
暖房を切り、部屋のドアを閉めると、保成氏はカギをかけた。
「警察が来るまで、この部屋には入らないでください。それではひとまず全員居間に集まってもらいましょう」
保成氏は執事にカギを渡しながら言った。
居間に五人の人間が集まった。この屋敷にいる全ての人で、思い思いの場所に陣取っている。
「ちょうど先ほど、この家には数え切れないほどのカギがあるという話が出たばかりでありましたな」
保成氏は誰に話しかけるとでもなく、先ほどのディナーでの話題について話しだした。
「亡くなった盆太さんの部屋のカギは三つあり、一つは盆太さんが、一つは盆凡さんが、もう一つは執事さんが管理をしているという話も出ましたが、間違いはありませんか?」
「はい」
保成氏の問いかけに、盆凡と執事が答えた。
「先ほど盆太さんの部屋のドアを開けるときに使ったカギはどこにありましたか?」
「この屋敷の全てのカギはその金庫にあります」
執事が居間の片隅にある大きな金庫を示した。
「このカギもその中に?」
「はい。ありました」
「では、その話が真実として先に進みましょう。もう一つのカギは盆太さんご自身が管理していました。これは警察が来て、部屋を捜索すればはっきりするでしょう。残りはひとつ。盆凡さん、盆太さんの部屋のカギはどこにありますか?」
「私の部屋の机の中にあります」
「申し訳ありませんが、持ってきていただけますか?」
「はい」
盆凡は二階に上がり、カギを持ってきた。
保成氏は二つのカギを見比べた。
「同じカギですな。カギのかかった部屋の中で盆太さんが死んでいました。頭には二度殴られた形跡がありました。傷がひとつなら何らかの事故ということも考えられますが、二つというのは考えられません。盆太さんは殺されたのです。殺されたのですから、自分で部屋のカギをかけることはできません。必然的にカギを持っている者が犯人となるわけです」
「ちょっと待ってください。じゃあ、私が父を殺したとでもいうのですか?」
盆凡が慌てた様子で言った。
「状況を鑑みると、そうなりますかな。お父さんを殺していないと証明することはできますか?」
「もちろんです。食事の後、私は自分の部屋に行き、騒ぎがあるまでずっと部屋にいて外に出ていません」
「それでは証明になりません」
「私はずっと部屋で会議をしていました。ネットを使ってのテレビ会議です。月に二回、今日のように夜、役員たちで会議を行います。昼間の固い会議と違って、参加を強制していませんし、一杯飲みながら参加する者がいるような砕けた会議です。雑談みたいな話が多いのですが、意外とそんなところから良いアイデアが出てきたりするものなのです」
「それではその会議に参加されていた皆さんが証人になるということですか?」
「そうです。今日の会議には七名の役員が参加していました。一応会議ですので、議事録として会議の様子も録画してあるはずです」
「では、あなたは無実ということですな。これで全てがはっきりしました」
そう言うと、保成氏は一人の人物を指さした。
「あなたが盆太さんを殺した犯人です」
「え? 何で僕が? 僕は部屋にカギをかけることはできません」
将一が驚いた様子で言った。
「なぜ犯人は盆太さんを殺害した後、部屋にカギをかけていったのでしょう? そんな必要はありません。必要があるとすれば、カギを扱える人物に罪を着せるためです。あなたは盆太さんを殺害した後、隣の自分の部屋に行き、盆太さんの部屋に接した壁に体当たりをして盆太さんが床に倒れたような音を出しました。そのあと盆太さんの部屋の前に行き、カギのかかっていないドアをカギがかかっているかのようにお芝居をしていただけのことです。まさか盆凡さんにこんな鉄壁のアリバイがあるとは思いもしなかったでしょうな」
将一はうなだれて動機を話し始めた。
豪華なディナーを終えた酒の飲めない世界的名探偵の保成(ポナロ)氏は、暇を持て余してテレビを見ていた。それを見かねたこの館の執事が、保成氏の横に座り、話し相手になった。
登場人物
数々の難事件を解決してきた世界的名探偵 保成(ポナロ)(五六)
大会社の会長 直上 盆太 (七六)
大会社の社長で盆太の息子 直上 盆凡 (四七)
盆太の甥 直上 将一 (四三)
真面目な執事 (六四)
働き者の家政婦 (五一)
二階でドスンという何か物のぶつかる音がして、保成氏と執事は耳を澄ませた。
すぐに「おじさん、おじさん」と呼ぶ声が聞こえてきた。
保成氏と執事は急いで二階へ行った。
廊下の一番奥の部屋の前に直上将一が立ち、ドアノブを握りしめて中に声をかけている。
「どうかしたのですか?」
保成氏が尋ねた。
「隣の部屋で人が倒れるような音がしたので、心配して見にきたのです。心筋梗塞か何かで倒れているといけませんから。でもドアには鍵がかかっていますし、中から返事はありません」
「急いでカギを取って参ります」
執事が急ぎ足で立ち去った。
将一はなおも叔父を呼び続けた。保成氏はドアに耳を近付けて中の様子を伺ってみたが、何の物音もしなかった。
「どうしたのですか?」
反対側の奥にある部屋から直上盆凡が出てきた。
それに続くように、カギを持った執事が息を切らせてやってきた。
執事からカギを受け取ると、将一はカギを回し、ドアを開けた。
部屋の中央に盆太が横たわっていた。頭から血を流している。
駆け寄ろうとする人々を保成氏が止めた。
「待ちなさい。誰も入らないよう、ここで待っていてください」
保成氏はそう言うと、一人部屋に入り盆太の様子を調べた。
「死んでいますな。皆さん、ここに来て確認してください。周りのものには一切手を触れないように」
盆凡と将一と執事が部屋に入り、死体を確認した。触れるまでもなく、見開いた目を見れば、事切れているのは明らかだった。
「警察に連絡をしてください。この雪ではすぐに来られないと思いますが」
執事が部屋を出ていった。盆凡と将一も後に続いた。
保成氏はスマホで死体や部屋の様子を撮影しだした。
暖房を切り、部屋のドアを閉めると、保成氏はカギをかけた。
「警察が来るまで、この部屋には入らないでください。それではひとまず全員居間に集まってもらいましょう」
保成氏は執事にカギを渡しながら言った。
居間に五人の人間が集まった。この屋敷にいる全ての人で、思い思いの場所に陣取っている。
「ちょうど先ほど、この家には数え切れないほどのカギがあるという話が出たばかりでありましたな」
保成氏は誰に話しかけるとでもなく、先ほどのディナーでの話題について話しだした。
「亡くなった盆太さんの部屋のカギは三つあり、一つは盆太さんが、一つは盆凡さんが、もう一つは執事さんが管理をしているという話も出ましたが、間違いはありませんか?」
「はい」
保成氏の問いかけに、盆凡と執事が答えた。
「先ほど盆太さんの部屋のドアを開けるときに使ったカギはどこにありましたか?」
「この屋敷の全てのカギはその金庫にあります」
執事が居間の片隅にある大きな金庫を示した。
「このカギもその中に?」
「はい。ありました」
「では、その話が真実として先に進みましょう。もう一つのカギは盆太さんご自身が管理していました。これは警察が来て、部屋を捜索すればはっきりするでしょう。残りはひとつ。盆凡さん、盆太さんの部屋のカギはどこにありますか?」
「私の部屋の机の中にあります」
「申し訳ありませんが、持ってきていただけますか?」
「はい」
盆凡は二階に上がり、カギを持ってきた。
保成氏は二つのカギを見比べた。
「同じカギですな。カギのかかった部屋の中で盆太さんが死んでいました。頭には二度殴られた形跡がありました。傷がひとつなら何らかの事故ということも考えられますが、二つというのは考えられません。盆太さんは殺されたのです。殺されたのですから、自分で部屋のカギをかけることはできません。必然的にカギを持っている者が犯人となるわけです」
「ちょっと待ってください。じゃあ、私が父を殺したとでもいうのですか?」
盆凡が慌てた様子で言った。
「状況を鑑みると、そうなりますかな。お父さんを殺していないと証明することはできますか?」
「もちろんです。食事の後、私は自分の部屋に行き、騒ぎがあるまでずっと部屋にいて外に出ていません」
「それでは証明になりません」
「私はずっと部屋で会議をしていました。ネットを使ってのテレビ会議です。月に二回、今日のように夜、役員たちで会議を行います。昼間の固い会議と違って、参加を強制していませんし、一杯飲みながら参加する者がいるような砕けた会議です。雑談みたいな話が多いのですが、意外とそんなところから良いアイデアが出てきたりするものなのです」
「それではその会議に参加されていた皆さんが証人になるということですか?」
「そうです。今日の会議には七名の役員が参加していました。一応会議ですので、議事録として会議の様子も録画してあるはずです」
「では、あなたは無実ということですな。これで全てがはっきりしました」
そう言うと、保成氏は一人の人物を指さした。
「あなたが盆太さんを殺した犯人です」
「え? 何で僕が? 僕は部屋にカギをかけることはできません」
将一が驚いた様子で言った。
「なぜ犯人は盆太さんを殺害した後、部屋にカギをかけていったのでしょう? そんな必要はありません。必要があるとすれば、カギを扱える人物に罪を着せるためです。あなたは盆太さんを殺害した後、隣の自分の部屋に行き、盆太さんの部屋に接した壁に体当たりをして盆太さんが床に倒れたような音を出しました。そのあと盆太さんの部屋の前に行き、カギのかかっていないドアをカギがかかっているかのようにお芝居をしていただけのことです。まさか盆凡さんにこんな鉄壁のアリバイがあるとは思いもしなかったでしょうな」
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