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勇と青山は一緒にテニスをした三日後の夜に、再びコートでボールを打ちあっていた。二人とも真剣な表情で、熱のこもったラリーが続く。
勇が打ったボールがネットに掛かった。
「ちょっと休憩しようか」
ネット際でボールを拾いながら勇は青山に言った。
二人はベンチにラケットとボールを置き、クラブハウスへと歩いていく。
「どうだ? 筋肉痛は」
休憩の椅子に座り、ペットボトルの飲料を飲みながら青山が勇に尋ねた。
「昨日がピークだったかな。今日は割と楽になった」
「筋肉痛が消えるか消えないかくらいの時に、また動かすと体が軽く感じるんだよな」
「そうか?」
「お前は違うのか?」
「よくわからん。ただ、そういうときは怪我をしやすいのじゃないか? 年を取ると」
「そうかな? ところで、将暉君たちに子供はいるのか?」
「いや、まだだ。二、三年は作らないとか、生意気なことを言ってるよ」
「何だ、孫の顔を見るのはまだ先か」
「いや、娘が今年、女の子を産んだ」
「そうか、下の子もそんなに大きくなっていたのか」
「可愛いもんだよ。青山の娘はどれくらいになった?」
「まだ高校生だ」
「そんなになるのか。確か日花里ちゃんだったっけ?」
「うん。あいつもじきに俺の手を離れていっちまう」
青山は寂しそうな顔になって言った。
そこにテニスウエアの将暉が入ってくる。
「来てたの」
勇を見て将暉が言う。
「おう」
青山が声をかけた。
「あれ? 青山さん? お久しぶりです」
「でかくなったな」
「よして下さいよ。最近まで背が伸びていたみたいじゃないですか」
「違うか?」
「違います。もう十年くらい前に成長は止まっています」
「この前に見た時はこんなんだった」
そう言って青山は自分の額の高さに手を持っていった。
「それは中学生の頃でしょ」
「そんなに昔か」
将暉は勇を見る。
「七月にうちとサン・テニスクラブ、堀テニスクラブ共同で大会を開くんだ。できるだけ盛大にやりたくて、参加者を募ってる。親父たちも出てくれよ」
「もうすぐじゃないか」
「青山さんもどうですか? 一週目にシングル、次の週にダブルスをするんですが」
「俺? この年になって試合はきついな」
「まだ二カ月近くあるから。昔の勘を取り戻すには十分でしょ」
「昔の勘は取り戻せても、昔の体力は取り戻せんよ」
「まあ、そう言わずに」
「どうする?」
青山は勇に尋ねる。
「そうだな、出てみるか。シングルがきついのなら、ダブルスだけでも」
「うーん」
青山は少し考える。
「よし、やるか。どうせならシングルもだ」
「じゃ、将暉、エントリーしておいてくれ」
「よかった。助かるよ」
勇は食卓でビールを飲んでいた。明美がテーブルの上に茶椀やみそ汁の椀、皿を並べていく。
「どうでした? 将暉」
「ん? 訊きそびれた。意外と話しにくいもんだ。でも、次には訊いておく」
「お願いします」
「でも、宏隆君みたいな好青年が浮気なんてするかな」
「好青年だからこそ、誘惑も多いんでしょ?」
「うむ。ところで、例の少年はまだ来ているのか?」
「例の少年?」
「壁打ちの」
「ああ、来ていますよ。とても上手くなったみたい」
「何だかあの子を見るのが楽しみになってきた。驚くほど上達のスピードが早い」
「あなたも早起きして壁打ちをすれば?」
「・・・・」
勇は小考してビールをグイッと飲んだ。
「そんな訳にもいかんだろ」
小さな声で呟いた。
勇が打ったボールがネットに掛かった。
「ちょっと休憩しようか」
ネット際でボールを拾いながら勇は青山に言った。
二人はベンチにラケットとボールを置き、クラブハウスへと歩いていく。
「どうだ? 筋肉痛は」
休憩の椅子に座り、ペットボトルの飲料を飲みながら青山が勇に尋ねた。
「昨日がピークだったかな。今日は割と楽になった」
「筋肉痛が消えるか消えないかくらいの時に、また動かすと体が軽く感じるんだよな」
「そうか?」
「お前は違うのか?」
「よくわからん。ただ、そういうときは怪我をしやすいのじゃないか? 年を取ると」
「そうかな? ところで、将暉君たちに子供はいるのか?」
「いや、まだだ。二、三年は作らないとか、生意気なことを言ってるよ」
「何だ、孫の顔を見るのはまだ先か」
「いや、娘が今年、女の子を産んだ」
「そうか、下の子もそんなに大きくなっていたのか」
「可愛いもんだよ。青山の娘はどれくらいになった?」
「まだ高校生だ」
「そんなになるのか。確か日花里ちゃんだったっけ?」
「うん。あいつもじきに俺の手を離れていっちまう」
青山は寂しそうな顔になって言った。
そこにテニスウエアの将暉が入ってくる。
「来てたの」
勇を見て将暉が言う。
「おう」
青山が声をかけた。
「あれ? 青山さん? お久しぶりです」
「でかくなったな」
「よして下さいよ。最近まで背が伸びていたみたいじゃないですか」
「違うか?」
「違います。もう十年くらい前に成長は止まっています」
「この前に見た時はこんなんだった」
そう言って青山は自分の額の高さに手を持っていった。
「それは中学生の頃でしょ」
「そんなに昔か」
将暉は勇を見る。
「七月にうちとサン・テニスクラブ、堀テニスクラブ共同で大会を開くんだ。できるだけ盛大にやりたくて、参加者を募ってる。親父たちも出てくれよ」
「もうすぐじゃないか」
「青山さんもどうですか? 一週目にシングル、次の週にダブルスをするんですが」
「俺? この年になって試合はきついな」
「まだ二カ月近くあるから。昔の勘を取り戻すには十分でしょ」
「昔の勘は取り戻せても、昔の体力は取り戻せんよ」
「まあ、そう言わずに」
「どうする?」
青山は勇に尋ねる。
「そうだな、出てみるか。シングルがきついのなら、ダブルスだけでも」
「うーん」
青山は少し考える。
「よし、やるか。どうせならシングルもだ」
「じゃ、将暉、エントリーしておいてくれ」
「よかった。助かるよ」
勇は食卓でビールを飲んでいた。明美がテーブルの上に茶椀やみそ汁の椀、皿を並べていく。
「どうでした? 将暉」
「ん? 訊きそびれた。意外と話しにくいもんだ。でも、次には訊いておく」
「お願いします」
「でも、宏隆君みたいな好青年が浮気なんてするかな」
「好青年だからこそ、誘惑も多いんでしょ?」
「うむ。ところで、例の少年はまだ来ているのか?」
「例の少年?」
「壁打ちの」
「ああ、来ていますよ。とても上手くなったみたい」
「何だかあの子を見るのが楽しみになってきた。驚くほど上達のスピードが早い」
「あなたも早起きして壁打ちをすれば?」
「・・・・」
勇は小考してビールをグイッと飲んだ。
「そんな訳にもいかんだろ」
小さな声で呟いた。
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