二枚の写真

原口源太郎

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 勇が更衣室で着替えを済ませて出てくると、沙織が心配そうにやって来た。
「義父さん、大丈夫?」
「うむ。しばらくテニスは休みだ」
 そこに将暉が来る。
「足を挫いたって?」
「ああ。ひどくはないと思うが」
「歳だから骨までやっているかもしれないぞ」
「大丈夫だよ。バカにするな」
「帰りはどうする? 送っていこうか」
「俺が送っていくよ」
 青山が言う。
「車を置いていっていいか?」
「うん。じゃ、車は後で届ける」
「頼んだ」
「それじゃ」
 青山が先にクラブハウスを出ていった。
「最近、宏隆君は来ているのか?」
 残った勇が将暉に話しかける。
「来てるよ。今日もボールを打ちに来るって言ってた。あいつも試合に出るから。多分優勝トロフィーはあいつのものだ」
「じゃ、元気でやっているんだな?」
「相変わらずだよ。どうかした?」
「最近、顔を見ていないから」
「近いうちにそっちに顔を見せるように言っておくよ」
「いや、試合の日に会えるだろうし、いいよ。それじゃ」
 勇はびっこを引いて歩いていく。
「一人で歩いていけるか?」
「大丈夫だよ」
 将暉と沙織は勇の後ろ姿を見送った。

 勇がテニスクラブの建物から出てくると、待っていた青山が手を貸して駐車場へと歩いていく。
 勇と青山が荷物を車に入れている時に、一台の車が駐車場に入ってきた。
 勇たちは気にする様子もなく車に乗り込む。
 青山の運転で車は動き出し、駐車場内を進んだ。
 先ほど入ってきた車から宏隆が降りるのに勇は気が付いた。助手席からも若い女性が降りる。その姿は以前、将暉と話をしていた子のようだった。
 勇はなぜ宏隆がそんな若い子を車の助手席に乗せてテニスコートにやってきたのかわからなかった。
 車を運転している青山はそんな様子に気が付かないでいる。
 隆弘と歩き始めた少女は楽しそうに微笑んでいる。二人はそのまま話をしながらクラブハウスへと歩いていった。
 勇は遠のいていく二人の姿をじっと見ていた。
「どうした?」
 勇の様子に気が付いて青山が尋ねた。
「今、宏隆君が来たんだ」
「宏隆君?」
「娘の旦那だよ。彼もテニスをやっていて、上手いんだ。学生の頃、将暉と一緒にやっていたから」
「ほう」
 窓の外の景色が流れていく。
 勇はそんな街の様子を眺めながら考えていた。
 あの子はいったい誰だろう。どこかで見たことがある気がする。

 テニスコートでは、将暉と宏隆がすごい勢いでボールを打ち合っていた。
 宏隆と一緒に歩いてきた少女がフェンス越しにそんな二人を見ている。
 将暉の打ったボールがネットに掛かり、二人はボールを拾い集める。
「そろそろ来る頃かな」
 宏隆が時計を見ながら言った。
 将暉もクラブハウスに掲げられた時計を見る。
 少女の姿は消えていた。
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