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足首に包帯を巻いた勇は、ベランダから駐車場を見ていた。
朝の寒々とした光に照らされ始めた広いアスファルトの上に車はない。いつもなら少年がテニスの練習をしている時間だ。
その少年の姿もなく、勇は何となく寂しく感じた。
「この時間にいないのなら、もう今日は来ないのじゃないかしら」
「うん」
勇は目を閉じて考えた。
勇の頭の中にあるのは少年でなく、昨日の少女のことだった。
あの女の子、どこかで見たはずなんだが・・・・
小考の後、勇は少しびっこを引きながら部屋に戻った。朝食の用意が整ったテーブルにつく。
「そんなにあの子のことが心配なの?」
明美がテーブルの反対側に座りならが言った。
「ん?」
勇は一瞬、あの少女のことを言っているのかと思った。
「たまには練習を休む時もありますよ。無茶し過ぎるとあなたみたいに怪我をします」
「怪我じゃない。二、三週間もすれば治る」
勇はコーヒーを飲み、トーストをかじった。
「あの子、あなたよりも上手くなったのじゃない?」
「は? ・・・・そうかもしれん。でも、考えられるか? いくら何年ものブランクがあったとしても、俺は若い頃、さんざんテニスをしてきた。それがテニスを始めて一カ月ばかりの子のほうが、俺より上手い?」
「若いからでしょう」
「いや、もしこの目で見なければ、絶対に信じないところだ。若いとか才能があるとか、そんなことじゃ説明がつかん」
「あなたの思い過ごしでしょ」
明美の言葉に、勇は黙り込んだ。
その日の夜、勇はソファに座り、電話をしていた。
「まあ、仕事に差し障りが出るというほどのことでもないし」
「試合には出られそうか?」
電話の向こうで話すのは青山だ。
「大丈夫、その頃には治っていると思う。ただ、練習無しのぶっつけ本番になってしまうかもしれない」
「無理はするなよ」
「皆にそう言われるよ。しっかり治るまでは無理をしないさ。中途半端なうちに練習を再開して、また同じところをグキっとやるなんてことを若いうちは何度か経験したからね」
「それがいい。じゃ、俺は将暉君か誰かに相手をしてもらって一人で練習をしているよ」
「お前も無理はするな」
「お前とは体の作りが違う。じゃあな」
勇は電話を切った。
窓にブラインドが降ろされたオフィスで勇がデスクの上を片付け、帰り支度をしている。他の社員は帰宅して誰もいない。
廊下へと向かう通路を歩き始めた勇は途中で立ち止まった。テニスのスイングの真似をして、捻った足に体重を乗せて痛みの具合をチェックしてみる。
そこへカバンを持った野口が入ってくる。
「行ってきました」
「おう、ご苦労さん」
「ゴルフに行くんですか?」
野口は自分のデスクにカバンを置いて尋ねた。
「テニスだよ」
「足はもういいんですか?」
カバンから書類を出し、整理しながら話す。
「うん。大丈夫そうだ。実は明後日、試合に出るんだ」
「へえ、それは本格的ですね」
「野口君もテニスをやらないか?」
「いえ、僕はそんな余裕ないです。仕事だけで精一杯です」
「何を言っているか」
「いえ、本当、本当」
「興味があるようならいつでも声をかけてくれ。じゃ、俺は先に帰るよ」
「はい」
「他の者はみんな帰ったから。後を頼む」
「了解です」
「じゃ、お先」
「お疲れさまでした」
勇はオフィスを出ていき、一人残された野口は黙々と書類の片付けを行う。
朝の寒々とした光に照らされ始めた広いアスファルトの上に車はない。いつもなら少年がテニスの練習をしている時間だ。
その少年の姿もなく、勇は何となく寂しく感じた。
「この時間にいないのなら、もう今日は来ないのじゃないかしら」
「うん」
勇は目を閉じて考えた。
勇の頭の中にあるのは少年でなく、昨日の少女のことだった。
あの女の子、どこかで見たはずなんだが・・・・
小考の後、勇は少しびっこを引きながら部屋に戻った。朝食の用意が整ったテーブルにつく。
「そんなにあの子のことが心配なの?」
明美がテーブルの反対側に座りならが言った。
「ん?」
勇は一瞬、あの少女のことを言っているのかと思った。
「たまには練習を休む時もありますよ。無茶し過ぎるとあなたみたいに怪我をします」
「怪我じゃない。二、三週間もすれば治る」
勇はコーヒーを飲み、トーストをかじった。
「あの子、あなたよりも上手くなったのじゃない?」
「は? ・・・・そうかもしれん。でも、考えられるか? いくら何年ものブランクがあったとしても、俺は若い頃、さんざんテニスをしてきた。それがテニスを始めて一カ月ばかりの子のほうが、俺より上手い?」
「若いからでしょう」
「いや、もしこの目で見なければ、絶対に信じないところだ。若いとか才能があるとか、そんなことじゃ説明がつかん」
「あなたの思い過ごしでしょ」
明美の言葉に、勇は黙り込んだ。
その日の夜、勇はソファに座り、電話をしていた。
「まあ、仕事に差し障りが出るというほどのことでもないし」
「試合には出られそうか?」
電話の向こうで話すのは青山だ。
「大丈夫、その頃には治っていると思う。ただ、練習無しのぶっつけ本番になってしまうかもしれない」
「無理はするなよ」
「皆にそう言われるよ。しっかり治るまでは無理をしないさ。中途半端なうちに練習を再開して、また同じところをグキっとやるなんてことを若いうちは何度か経験したからね」
「それがいい。じゃ、俺は将暉君か誰かに相手をしてもらって一人で練習をしているよ」
「お前も無理はするな」
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勇は電話を切った。
窓にブラインドが降ろされたオフィスで勇がデスクの上を片付け、帰り支度をしている。他の社員は帰宅して誰もいない。
廊下へと向かう通路を歩き始めた勇は途中で立ち止まった。テニスのスイングの真似をして、捻った足に体重を乗せて痛みの具合をチェックしてみる。
そこへカバンを持った野口が入ってくる。
「行ってきました」
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野口は自分のデスクにカバンを置いて尋ねた。
「テニスだよ」
「足はもういいんですか?」
カバンから書類を出し、整理しながら話す。
「うん。大丈夫そうだ。実は明後日、試合に出るんだ」
「へえ、それは本格的ですね」
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「いえ、僕はそんな余裕ないです。仕事だけで精一杯です」
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「興味があるようならいつでも声をかけてくれ。じゃ、俺は先に帰るよ」
「はい」
「他の者はみんな帰ったから。後を頼む」
「了解です」
「じゃ、お先」
「お疲れさまでした」
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