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10.いざスペインへ②
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「もちろん。おじいちゃんもおばあちゃんも優しいし、なんだか申し訳なくて」
「なにが」
「婚約者だって話だよ。本当のことを知ったら悲しませちゃう」
「別れなければ済む話だよ」
「また、そんな簡単に」
「今度は新婚旅行で来よう」
「だから気が早いんだって!」
反省してる様子がない千颯くんの脇腹にパンチを入れると、でも嫌じゃないでしょと余裕の笑みを浮かべて取り合ってくれない。
確かに千颯くんといると、不思議なほど気を遣わない。まるで小さい頃に戻ったように、自然と笑顔になるし楽しくて仕方がない。
千颯くんが私に拘るのはドラマチックな再会のせいだと思っていたけれど、幼馴染みの気やすさもあるのかもしれない。
「チケットが取れたら、バルセロナとかグラナダに行ってもいいかもね」
「電車はないの?」
「あるけど広いからね。移動にめちゃくちゃ時間がかかる」
「そっか。そりゃそうだよね」
たわいない話をしながら公園に到着すると、園内をゆっくりと散策して回る。
「ちぃちゃんはいつも一人で来てるんだよね」
「そうだね。両親と来たこともあるけど、大人になってからフラッとね」
「その時も色々地方を回ったりしたの」
「いや、じいちゃんばあちゃんとバルに行ったり、ゆっくり過ごすことの方が多いよ。フラメンコ見たりね」
「なにそれ。凄い素敵」
「結構感動的だよ」
千颯くんの知らない一面に触れ、どうしてこんなに素敵な人が私なんかとのお見合いを受けたのか気になってしまう。
歳だってまだ三十二だし、結婚を焦るようなタイプには見えない。
「ねえ、ちぃちゃん」
「ん?」
「おばさんから私とのお見合いの話が出た時、なんで断らなかったの」
「どうしたんだよ急に」
「だってちぃちゃんは自由だし、結婚を急いでるようにも見えないから」
私とのお見合いは、同窓会のつもりだったと言っていた。あの言葉も嘘ではないんだろう。だから尚更気になってしまう。おじいちゃんやおばあちゃんに私が婚約者だと紹介したことが。
「スズが覚えてるかは分からないけど、最初に飲んだ日、俺見合いするって話したよね」
「ああ、そういえば言ってたね」
「慣れない土地で五年仕事して、かなり精神的に参ってたんだよね。恋人なんて作るほど心に余裕もなかったし。母さんはそれに気付いてたみたいでさ、どうにかしたかったんだと思う」
「でも相手が私だったじゃない? 同窓会のつもりだったって、お見合いの日に言ってたよね」
「確かに、見合いに乗り気だったかって言われたら、そうでもなかったのは事実だよ。あの時言ったけど、スズは親戚とか妹みたいな感覚が強かったし」
「だよね」
私だってお見合いする前は、懐かしさで会いたかっただけで、ちぃちゃんと付き合うなんて考えもしなかった。
「心配してくれる母さんの気持ちに応えたかったし、見合いだって相手がスズなら、困った親を持ったねって笑って済むと思ってたんだよ」
「そっか。でも私も同じようなものだったかも」
「だけど来たのがスズだったでしょ。俺、自覚がないだけでロマンチストなのかもしれない」
「運命を感じちゃったんだ?」
可笑しくて笑いながら顔を見上げると、千颯くんは思いの外真剣な顔をしていた。
「スズだってなにかしら思うところはあっただろ」
「凄い偶然があるもんだと、あの時はかなり驚いた。でも同窓会のつもりで来たのに、結婚を考えるなんてやっぱり性急すぎない?」
「出会ったのがスズじゃなかったら、親の勧めとはいえ同窓会で終わってたと思う。だけど出会っちゃったからね。真剣に考えたいって思うようになった」
「そうだったんだね」
結婚は別として、千颯くんの言っていることは理解できる。
会えるはずがないと思っていた思い出の人との再会はドラマチックだし、それが幼馴染みだったなんて、付き合うべきなのかもと思っても仕方ないかもしれない。
「なにが」
「婚約者だって話だよ。本当のことを知ったら悲しませちゃう」
「別れなければ済む話だよ」
「また、そんな簡単に」
「今度は新婚旅行で来よう」
「だから気が早いんだって!」
反省してる様子がない千颯くんの脇腹にパンチを入れると、でも嫌じゃないでしょと余裕の笑みを浮かべて取り合ってくれない。
確かに千颯くんといると、不思議なほど気を遣わない。まるで小さい頃に戻ったように、自然と笑顔になるし楽しくて仕方がない。
千颯くんが私に拘るのはドラマチックな再会のせいだと思っていたけれど、幼馴染みの気やすさもあるのかもしれない。
「チケットが取れたら、バルセロナとかグラナダに行ってもいいかもね」
「電車はないの?」
「あるけど広いからね。移動にめちゃくちゃ時間がかかる」
「そっか。そりゃそうだよね」
たわいない話をしながら公園に到着すると、園内をゆっくりと散策して回る。
「ちぃちゃんはいつも一人で来てるんだよね」
「そうだね。両親と来たこともあるけど、大人になってからフラッとね」
「その時も色々地方を回ったりしたの」
「いや、じいちゃんばあちゃんとバルに行ったり、ゆっくり過ごすことの方が多いよ。フラメンコ見たりね」
「なにそれ。凄い素敵」
「結構感動的だよ」
千颯くんの知らない一面に触れ、どうしてこんなに素敵な人が私なんかとのお見合いを受けたのか気になってしまう。
歳だってまだ三十二だし、結婚を焦るようなタイプには見えない。
「ねえ、ちぃちゃん」
「ん?」
「おばさんから私とのお見合いの話が出た時、なんで断らなかったの」
「どうしたんだよ急に」
「だってちぃちゃんは自由だし、結婚を急いでるようにも見えないから」
私とのお見合いは、同窓会のつもりだったと言っていた。あの言葉も嘘ではないんだろう。だから尚更気になってしまう。おじいちゃんやおばあちゃんに私が婚約者だと紹介したことが。
「スズが覚えてるかは分からないけど、最初に飲んだ日、俺見合いするって話したよね」
「ああ、そういえば言ってたね」
「慣れない土地で五年仕事して、かなり精神的に参ってたんだよね。恋人なんて作るほど心に余裕もなかったし。母さんはそれに気付いてたみたいでさ、どうにかしたかったんだと思う」
「でも相手が私だったじゃない? 同窓会のつもりだったって、お見合いの日に言ってたよね」
「確かに、見合いに乗り気だったかって言われたら、そうでもなかったのは事実だよ。あの時言ったけど、スズは親戚とか妹みたいな感覚が強かったし」
「だよね」
私だってお見合いする前は、懐かしさで会いたかっただけで、ちぃちゃんと付き合うなんて考えもしなかった。
「心配してくれる母さんの気持ちに応えたかったし、見合いだって相手がスズなら、困った親を持ったねって笑って済むと思ってたんだよ」
「そっか。でも私も同じようなものだったかも」
「だけど来たのがスズだったでしょ。俺、自覚がないだけでロマンチストなのかもしれない」
「運命を感じちゃったんだ?」
可笑しくて笑いながら顔を見上げると、千颯くんは思いの外真剣な顔をしていた。
「スズだってなにかしら思うところはあっただろ」
「凄い偶然があるもんだと、あの時はかなり驚いた。でも同窓会のつもりで来たのに、結婚を考えるなんてやっぱり性急すぎない?」
「出会ったのがスズじゃなかったら、親の勧めとはいえ同窓会で終わってたと思う。だけど出会っちゃったからね。真剣に考えたいって思うようになった」
「そうだったんだね」
結婚は別として、千颯くんの言っていることは理解できる。
会えるはずがないと思っていた思い出の人との再会はドラマチックだし、それが幼馴染みだったなんて、付き合うべきなのかもと思っても仕方ないかもしれない。
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