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25.街歩きの思い出、なのです。
しおりを挟む「リリー、大丈夫かい?何か飲み物でも用意して少し休もうか?」
激烈桃色さんが走り去り、その姿が完全に見えなくなると、アーサーさまがほっとしたようにおっしゃった。
「はい、是非。ローズマリーもそれでいいかしら?」
そして、私への気遣いも忘れないリリーさま。
「はい、わたくしも休憩したいと思います。何だか、喉も乾きましたし」
本当にリリーさまは素敵です、と嬉しくにっこりリリーさまに言ったらパトリックさまも頷いた。
「激烈桃色迷惑女は今日も強烈だったからね。ね、ローズマリー。それなら樹液を飲んでみないか?」
パトリックさまの提案に、私は首を傾げた。
「樹液を、飲むのですか?」
樹液、ってあの。
虫が飲んだりするという?
「うん、樹液。飲むなんて虫みたいだと思う?」
あれをひとも飲めるのか、と不思議で仕方のない私の心を読んだように、パトリックさまは楽しそうに笑っている。
「樹液を飲むのか。水か何かで割ってあるのか?」
アーサーさまも知らないらしく、驚いたようにおっしゃった。
「いいや、樹液そのまま」
「そのまま、ですか。シロップになっているものなら、知っているのですが」
リリーさまが思案するようにおっしゃった言葉に、私も思い当たって頷いた。
「あ、あれですね。はい。それなら、パンケーキにかけたりして、わたくしも食べたことがあります」
「パンケーキにかけるシロップ。リリー、もしかして僕もそれ食べたことある?」
何やら考え込んだアーサーさまが、リリーさまに問いかけた。
「はい。王都のカフェにご一緒してくださった際、お召し上がりになっていらっしゃいます。でも、アーサーさまは余り甘いものがお得意ではいらっしゃらないから」
そんなアーサーさまに微笑み、当然のようにリリーさまがお答えになる。
アーサーさまの苦手な物も知っていらして、それを微笑ましく思っていらっしゃるのが凄く凄くとてもよく判りますリリーさま!
うっとり思う私の隣で、パトリックさまも頷かれた。
「確かに、樹液からシロップも作りますね。でも飲む物はシロップよりもっとさらさらしていて、樹液そのもの、という感じでしょうか。甘みもうっすらある程度だから、アーサーでも飲みづらいということはないと思うけど、どうする?他の飲み物も、もちろん用意できるよ」
リリーさまに答え、アーサーさまに向き直ってパトリックさまが言う。
「そうか。それなら、僕は樹液を飲んでみたいな」
パトリックさまの言葉にアーサーさまが答え、リリーさまと私の意見を聞くように視線をくださった。
「わたくしも、樹液を飲んでみたいですわ。ローズマリーはどう?」
「わたくしも、飲んでみたいです」
是非飲んでみたい、と思っていた私は、アーサーさまとリリーさまが忌避されなかったことが心の底から嬉しく、どんな味がするのか、とわくわくしながら言ってしまう。
「じゃあ、行こうか」
パトリックさまが当然のように手を差し出してくれて、自然と繋ぎ。
「良かった。ローズマリーには飲んでみてほしかったし、興味を持ってもらえたみたいで嬉しかったけど、アーサーとリリー嬢が嫌がったら、君は遠慮してしまっただろうから」
アーサーさまとリリーさまに気づかれないよう、パトリックさまがこそりと囁くのに。
「そうしたら、また連れて来てくださ・・・くれましたか?」
私も、こそりと囁き返せば。
「もちろん」
ぎゅ、と握る手に力を込めて強く頷き笑ってくれた。
そうして、樹液をベンチに座っておいしく飲み、それからまた街歩きを再開して、本当に楽しい時間を過ごした。
それに、帰りにはパトリックさまがこっそり『足は痛くない?』って心配もしてくれて嬉しかった、な。
応援ありがとうございます!
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