130 / 136
129.噴水事件 4
しおりを挟む「な、なに、これ」
「魔道具仕込みの噴水」
呆然とした激烈桃色さんに、パトリックさまが、にやり、というに相応しい笑みを向ける。
「見ている分にはただの水だが、触れればこうして光のような粒子に変化し、より強い衝撃、今のように落とされたような状況の際には、保護剤化して身体を優しく包み込んでくれるため、怪我をしない・・・まったく、凄い魔道具を創ったものだ・・・ああ、ローズマリーありがとう」
噴水から出て来ながら説明を加えるウィリアムに、せめて、と手を貸せば優しい笑みを浮かべてウィリアムが手を取ってくれた。
その、記憶にある手との余りの差に、私は思わずウィリアムの手をまじまじと見てしまう。
「まあ、ウィリアム。とても手が大きくなったのね。でもそうよね。背だって凄く高くなったんですもの」
「ローズマリーは、何だか小さくなった気がするよ」
「と、いう訳だから、この噴水に落とされたとしても絶対に濡れない。そしてそもそも、ローズマリーもリリー嬢も、マークルを噴水に落としたりしていない」
私とウィリアムが話ししていると、パトリックさまが割り込んできて、話を元に戻した。
その動きに、私は自分が本線から脱線していたことを知り、慌てて姿勢を正す。
え?
ウィリアム。
どうして、苦笑しているのです?
「パトリック・・・あのね・・お、落とされたのは本当なの。ただ、それじゃあ濡れなかったから、証拠、って言われたら、って思って・・それで」
「落とされたのは本当?だというなら証人は?目撃者がさぞかし大勢いるだろう。何と言っても、整理券制になったくらいの人気の場所なのだから」
パトリックさまの言葉に、激烈桃色さん以外の皆さんが大きく頷いた。
昨日の除幕式で行われたデモンストレーション。
そこで、先ほどウィリアムが体現してみせたような事象を目の当たりにした学園生は、こぞって噴水へ行こうとし。
それこそ、怪我人も出そうな様相に、先生方は昨日の分と今日の分の整理券を作った。
なので今日は朝早くから、この噴水には多くの学園生がいた筈で。
「ああ。それであんなにいっぱい、ひとがいたのね。ほんと、計画の邪魔だと思ったら」
「なんだ。多数の学園生がいたことは確認しているのか。それで?計画とは?」
忌々し気に言った激烈桃色さんに、パトリックさまが詰め寄った。
「マークル。本当のことを言え。どうしてこんなことをしたんだ」
先生にも詰問され、激烈桃色さんは不機嫌に唇を尖らせる。
「どうして、って。このイベントもすっごく大事なのに、リリーもローズマリーも何もしてこないから、仕方なく自分で噴水に飛び込もうと思ったのよ。それなのにひとがたくさんいて、飛び込む場所もなかったの。で、しょうがないから、バケツを使った、ってわけ」
「イベント?」
激烈桃色さんの説明に、先生が首を傾げた。
確かに物語を知らなければ、激烈桃色さんの言葉は意味不明だろうと私も遠い目になってしまう。
物語を伝え聞いた私でさえ、理解できない言葉がままあるのだから。
「そうよ、イベント。このイベントで、ウィリアムは完全にローズマリーを敵認識して、あたしを護ってくれるようになるの。それで、アーサーやパトリックと一緒に、恋敵だけど一緒にあたしを護る、って誓ってくれるの。それが、騎士みたいですっごく素敵で」
うっとりと言う激烈桃色さんをウィリアムもアーサーさまも苦々しく見ているし、パトリックさまの瞳なんて、絶対零度を通り越した氷点下を絶賛発動している。
そして周りの皆さんは意味不明からの諦観状態になったのか、表情が抜け落ちてしまった。
そのなかで、激烈桃色さんひとりが嬉しそうに頬を染めている。
「つまりマークルは、その三人の気を引きたかったわけか。なるほど、それでサウスとポーレットに嫉妬して貶めようとした、と」
「違うわよ!嫉妬してんのはリリーとローズマリーの方!理由は、三人があたしに夢中だから!もう、間違えないでよ」
何となく動機は分かった、という先生の言葉を激烈桃色さんが猛烈に訂正する。
「お前、あた・・・大丈夫か?」
先生!
今、頭大丈夫か、って言おうとしましたね!
思わず零れそうになったのだろう本音を何とか隠した先生が、本気で心配そうに激烈桃色さんを見た。
「大丈夫じゃないのは、あんた達の方でしょ。三人ともあたしが大好きなのに、誰も分かってくれないんだから」
「そりゃお前、当事者三人だって分かっていない、というか、思ってもないと思うぞ?」
今現在の、三人の激烈桃色さんへの態度を見、先生が諭すように言う。
「なに言ってんの。三人ともほんとはあたしが大好きで、あたしだけを護りたい、って思ってんのよ」
「じゃあ、今のこのお前への対応はなんだ?」
「三人とも照れがひどいの。それか、リリーとローズマリーが居るから」
「居ない時は、お前に優しいのか?」
「だと思う。ローズマリーとリリーがいないときに会ったことないけど」
私がいないとき?
それは知りようがないかしら、と思っていると、パトリックさまに、がっしりと肩を掴まれ顔を覗き込まれた。
ひいいいいぃっ!
こ、怖い、怖いですパトリックさま!
「ローズマリー?あの馬鹿の言うこと、信じたりしない、よね?」
物凄い圧で言われ、こくこくと頷いていると、そこにウィリアムも参戦して来た。
何故か私の肩に肘をついて、パトリックさまと同じように、私に視線を完全固定している。
こちらも、それはもう笑わない瞳の怖い顔で。
「でも少し動揺しただろう?傷つく」
そして言われた言葉に私は、動揺なんてしていない、と、今度はぶんぶん首を横にふった。
振りながらパトリックさまを見、ウィリアムを見る。
けれどふたりとも、表情が全然緩和しなくて、私はもう、頷いていいのか否定していいのかも分からなくなる。
「そ、そそそんなつ、つつつもりは、な、なくて、ですね」
両側から、それはもう凄い迫力で迫られて、私はたじたじになってしまった。
「マークル、見えるか?あれが現実だ」
先生が何かを言っているし、周りの皆さんも大きく頷いているけれど、私はそれどころではない。
誰か助けて!
リリーさま!!
誰より頼りになる婚約者と昔馴染みに挟まれて、私は冷や汗を流し続けた。
1
あなたにおすすめの小説
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる