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二、相談相手
しおりを挟むデビュタントでのエヴァリストとのダンスは一生の思い出になる、と思ったピエレットだったが、まさかそれが、エヴァリストとの最初の思い出、出会いの記憶となるとは微塵も、頭の隅をかすりもしなかった。
しかしその後、エヴァリストから外出の誘いを受けるようになり、やがてそれが頻繁になる頃、デュルフェ公爵家に私的にも公式にも招かれるようになり、エヴァリストを伯爵家に招き・・・・と、極自然な流れでピエレットとエヴァリストは婚約した。
次期領主としての教育を受けながら騎士の称号も得、且つ訓練も続けているというエヴァリストが、いわゆる文武両道の逸材で有名なことはピエレットも知っていたが、エヴァリストは対人関係を築くのも上手いらしく、ピエレットに対しても気遣いを忘れることは無かったし、何よりエヴァリストと過ごす時間は幸せで心地よく、ピエレットは婚約する前もしてからも、ふわふわと幸せな気持ちで過ごしていた、のだが。
「ねえ、ぴぃちゃん。私、気が付いてしまったのだけれどね。エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないの」
その日。
ピエレットは、大事にしている孔雀のぬいぐるみに向かってそう話しかけた。
孔雀のぴぃちゃんは、エヴァリストに、珍しい動物、美しい鳥がいるので見に行かないか、と誘われて行った、王家所有の動物の園に居た孔雀を模したものである。
王家所有の園には、おいそれと入ることは出来ない。
当然のように特別な許可が要る。
故に生まれて初めて孔雀を見、その美しさに目を奪われたピエレットに、エヴァリストが王家お抱えの職人に依頼して作成し贈ってくれた、世界にひとつしかない特製のぬいぐるみ。
それが、ぴぃちゃん。
ぬいぐるみではあるが、美しい羽の部分は開閉するようになっており、ピエレットは今、その羽をゆっくり開いたり閉じたりしながら話をしていた。
ぱたん。
「いえね、分かっているのよ?お忙しいのに、まめに色々誘ってくださって、くださるお手紙もご自分の手書きで心が籠っているのを感じるし、添えられているお花も私が好きだと言ったものだったり、魅入っていたものだったりするのよ?見ているだけで、自然と楽しかったお出かけを思い出すの。デートの思い出にさり気なくくださるなんて、素敵でしょう?お花の事もそうだけれど、ぴぃちゃんを特注して贈ってくださるくらい、私のことをよく見ていてくださるし。一緒に歩いていれば、危なくないようにさり気なく気を配ってくださるし、きちんと私の目を見てお話もしてくださる。でもね、ぴぃちゃん。そのお話の内容が、ルシール王女殿下のことばかりだ、って気づいてしまったのよ」
ぱたん、ぱたん、ぱたん。
ぴぃちゃんに意識があれば、余りに激しく動かされる己の羽に、驚き振り返るだろうという勢いで、ピエレットはぴぃちゃんの羽を動かした。
ルシール王女は、エヴァリストの従姉姫。
しかも、国王とデュルフェ公爵は仲の良い兄弟であり、その配偶者である王妃とデュルフェ公爵夫人が独身時代からの親友であることは有名で、エヴァリストが幼い頃よりルシール王女と親しくしているということは、ピエレットでも聞いてではあるが知っているし、然もありなんと理解も出来る。
出来るのだが、しかし、それにしても余りに度が過ぎるとピエレットは気が付いた。
気が付いてしまった。
これまでは、ただふわふわと幸せに酔っていたが、一度気が付いてしまえば、その異常さは際立っている。
「それってつまり、エヴァリスト様はルシール王女殿下をお慕いしているということなのよね、きっと。あんなに、お話をしてしまうほどに忘れ難いのでしょうね」
呟きつつ、ぴぃちゃんの羽をくいっと開けば、本物と見紛うばかりの美しい羽が広がった。
「ぴぃちゃん、すっごくきれいよ・・・でね。エヴァリスト様はルシール王女殿下をお慕いしているけれど、ルシール王女殿下は、隣国の第三王子殿下とご婚約をされていらっしゃるから、諦めざるを得なかったということなのかしらと思うのよ」
それで自分と婚約した、と思えば悲しいが、エヴァリストはピエレットにとても優しいし、思いやりもある。
それは、ルシール王女への思慕を諦め、前を向いて生きようとしている証なのではないかとピエレットは思う。
「エヴァリスト様は、今もルシール王女殿下をお慕いなのかも知れないの。でもね、ぴぃちゃん。前を向いて生きようとされた時、エヴァリスト様が選んでくださったのは私だった、ということかなとも思うのよ。それは、とても嬉しいと思うの。それにね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、ちゃんと私を好きになってもらえるよう、頑張るわね」
孔雀のぬいぐるみ、ぴぃちゃんにそう宣言して、ピエレットは、胸の前で小さく拳を振った。
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