上 下
55 / 117
第二章

1話

しおりを挟む
「お嬢様、到着いたしましたよ」

「ええ、ありがとう」

 ラナの手を借りて馬車を降りると私は大きく息を吸った。今日から私は王立学院の生徒になる。それは何だか人生の新たな一歩のように思えた。私という異分子がラブリリの世界に入るのだからあながち間違いではないかもしれないけれど。

「今日は確か入学式と、入寮に関する説明のみ、だったわよね?」

「はい!空いた時間で校舎内を見回るのなんていかがですか?」

「そうね。まだ慣れない場所だし、メルルも誘ってみんなで見て回りましょう」

「かしこまりました!」

 まぁ、本当はラブリリの舞台であるこの学院のことなんて隅から隅まで頭の中に入っているけれどね。でも、画面越しの世界と実際に見る世界は確実に違う。これがまさに聖地巡礼だわ!

「入学式では確か試験で最も優秀な成績を修めた人の挨拶があるんですよね!お嬢様は誰がするのかご存知ですか?」

「さぁ……私でないことだけは確かだけれど」

 本当は知っている。ヒロインのリリーちゃんだ。ルカルド様はあまり本気を出さずに試験に臨んだから確か次席だったと思う。それにリリーちゃんは頭が良いっていう設定も付いているし。まぁこれは全部ゲームの中の話だけれど。



******************



 この国の学校は貴族が通うものと平民が通うものできっぱりと分けられている。その理由は明確だ。貴族と平民では育ってきた環境も何もかもが違う。正直同じ学校に入って完全に順応できるかと言われると大半の人はそうではない。だからこそいらない争いの種を減らそうというわけだ。平民の学校は学費があまりかからない分、扱う内容は少し簡単で、貴族の通う学校は学費が高い分、受けられる授業の価値も高い。ただ、平民の中にも優秀な人材は存在するのでそういった人々には貴族の通う学校から平民の通う学校へ教師が配属されて、特別な授業を行うのだとか。

 だからこそラナが私についてきてくれるとジェイくんとは離れ離れになってしまうのだ。貴族が通うこの王立学院本校では侍女や侍従の付き添いが許可されている。私もラナがいてくれれば心強いしありがたいけれど、やはり申し訳ない。長期休暇には必ず家に帰ってジェイくんを呼びましょう。

 そんなことを考えながら歩いていると講堂に到着した。まだ入学式が始まるまでには時間がある。私は辺りをぐるりと見回した。ああ、これが色んなルートで度々登場したあの講堂なのね!赤いカーテンの色味や光沢、舞台や座席の位置、全部一緒だわ!私はそれはもう大変なくらいに興奮した。

「あ、フィリア様!」
 
 唐突に可愛らしい声が耳に届き、私は思わず振り向いた。

「?……まあ、メルル!もう着いていたのね!」

「はい!私、とっても緊張していたのでフィリア様にお会いできて嬉しいです!」

「私もよ!あ、そういえば今日入学式と入寮の説明のみだから時間があると思うのだけれど、一緒に校舎を見て回らない?」

「いいですね!ぜひお供させてください!」

 メルルは5年前に比べて少し大人っぽくなった。他人に対しておどおどすることが減ったし、いつも柔らかい癒しの雰囲気を纏っている。得意の歌でも素晴らしい才能を遺憾なく発揮して沢山の賞を受賞していて、巷では「奇跡の歌姫」として有名だ。本人は恥ずかしがって否定しているけれど。あと、いつの間にかレオン様と一緒にいることが増えた。どうやらレオン様の楽しみはジェイくんとメルルを揶揄うことらしく、ジェイくんと会う機会が減ることでメルルにそれが集中することになりそうなのが少し可哀想でもある。でも私にとってはそれも天使達の戯れなので幸せでしかない。

「あ、フィリア様にメルルさん!」

 噂をすればなんとやら。レオン様が元気な笑顔でこちらにやってきた。

「二人とも早いですね!」

「レオン様!えぇ、予定通りに出たはずが思ったより早く着いたもので」

「私は、緊張で早く目が覚めてしまったのです」

「なるほど!僕は荷物を選ぶのが大変で少し遅くなりました」

「荷物、ですか?」

「はい!部屋に置きたい可愛いものが沢山あったのですが流石に全部は持っていけないと言われて……仕分けがすごく大変でした」

「ふふふ、レオン様らしいですね」

「あ、そろそろ始まるみたいです!」

 あっという間に入学式の開始時間になったので指定されている席に座った。なるほど、講堂の椅子の座り心地はかなり良いのね!校長のお話を聞きながらも私はそんなことを考えていた。やはり聖地巡礼は楽しすぎる。

「続いて、新入生代表の挨拶です」

 進行役の人がそう言って壇上からいなくなった。確かここでリリーちゃんが緊張しながらも頑張って挨拶を成功させるのだけれど……あれ?代表って……。



○○○○○○○○○○○○○○○○○○


 やっと第二章開始です!ですが番外編の方ももう少し書きたいことがあるのでそちらも並行して投稿していこうと思います。また、第二章開始に際して、「登場人物が多すぎて分かんない!」という方がいらっしゃいましたらコメントの方に書いていただけると幸いです。その場合は登場人物紹介を追加させていただきます。それでは、第二章の方もよろしくお願いいたします(^^)
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,307pt お気に入り:53

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:511pt お気に入り:1

異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,216pt お気に入り:4,744

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,180pt お気に入り:1,464

真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:246

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

恋愛 / 完結 24h.ポイント:454pt お気に入り:6,891

私が我慢する必要ありますか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:617pt お気に入り:7,043

処理中です...