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第二章
7話
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リリーちゃんとの接触から少し経った頃、学院内は少し賑やかになっていた。私たち新入生が入学してから一ヶ月になる一週間後、新入生歓迎パーティーが開かれる予定になっているからだ。かく言う私も心がざわついていた。ただ、周りとは違う意味で。何せこの新入生歓迎パーティーこそがゲームで言う第一の事件の現場となるのだから。
「お嬢様、ルミアーノ様からドレスが届きました」
寮の自室で読書をしていると、寮母さんの部屋まで郵便物を確認に行ってくれていたラナが大きな箱を持って部屋に戻ってきた。
「まあ!わざわざ学院内のパーティーの分まで用意してくださるなんて……すぐにお礼の手紙を書かなくてはいけないわね。それにルーク様にもお礼にいかなくちゃ」
ルミアーノさんがドレスを用意してくれたということは、そうするようにとルーク様からご命令があったということになる。
「そうですね。すぐに紙とペンを用意します」
そうしてラナから紙とペンを受け取ってすぐに手紙を書き始めた。少し考えて感謝の気持ちが伝わるようにと言葉を綴り終えた頃、ラナが箱から取り出したドレスを見て感嘆の声をあげた。
「今回のドレスも素晴らしいですね!お嬢様によく似合いそうです!」
今回は春らしい淡いピンク色のドレスだ。全体的にふんわりとした見た目でとても愛らしい。いつも通りの素敵なドレスに思わず目を奪われた。ただ、私には少しだけ気になることがあった。五年前からずっとルミアーノさんが私のドレスを作ってくれているのだけれど、いつも決まって同じことがあるのだ。
「……どうして、私のドレスっていつもこんなに露出度が少ないのかしら?」
「え、そうですか?」
「ええ。最近だと、確か肩や背中を出すタイプのドレスが流行っているはずだけれど、私はそういうドレスを着たことがないわ。ルミアーノさんは流行に乗るのが結構好きだったと思うのだけれど……やっぱり私には似合わないのかしら?」
「そ、そんなことありませんよ!……あ!第一王子殿下が他の男性にお嬢様の肌を見せたくなくてルミアーノ様に頼んでいらっしゃるのでは?」
ラナはどうも慌てた様子でそう言った。きっと本当は似合わないけれどそれを言わずにおこうと咄嗟にフォローしてくれたのだろう。まぁ、ルーク様が他の人に私の肌を見せたくない、というのは少し無理があるけれど。
「ありがとう、ラナ。とりあえずルーク様にお礼を言いに行きましょうか。ドレスのこともルーク様に聞いてみましょう」
「……そうですね」
今日は授業はない日だけれど、カイ様にルーク様は寝るとき以外は基本生徒会室にいらっしゃると聞いているので、私はラナを連れてそちらに向かった。男子寮にいらっしゃるならさすがに訪ねづらいけれど生徒会室なら大丈夫だろう。
「ルーク様、フィリアです。入ってもよろしいでしょうか?」
「っ……ああ、どうぞ」
ドアをノックすると少し驚いたような返事が聞こえてきた。まぁ、これが学院内では初めてのまともな対面なので驚いても仕方がないかもしれない。
「失礼します。ルーク様、先程ルミアーノさんからドレスが届きました。学院内のパーティーの分までわざわざ手配していただき、本当にありがとうございます」
「奴にしては珍しく早いな。気にする必要はない。入学祝いだと思ってくれ」
「はい……。あの、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「?…ああ」
「ルミアーノさんにデザインしていただいている私のドレスなのですが……」
「どうした?何か不満でも?」
「い、いえ!そうではなくて……全て露出の少ないものになっているのには何か理由があるのかと思いまして……」
「理由、か」
そう呟くとルーク様は視線を下げた。その表情にどことなく寂しさを感じてなぜか苦しくなる。しかし、少しするとまたルーク様は視線をこちらに戻した。
「悪いが俺には分からない。ルミアーノの好みだろう」
「……そうですか。ありがとうございます。では、私はこれで失礼しますね。お忙しい中、失礼しました」
「ああ」
私は深く礼をしてその場を後にした。ドアが閉まるまでのその刹那、
「……すまない」
そうルーク様が小さく溢したことには全く気づかずに。
「お嬢様、ルミアーノ様からドレスが届きました」
寮の自室で読書をしていると、寮母さんの部屋まで郵便物を確認に行ってくれていたラナが大きな箱を持って部屋に戻ってきた。
「まあ!わざわざ学院内のパーティーの分まで用意してくださるなんて……すぐにお礼の手紙を書かなくてはいけないわね。それにルーク様にもお礼にいかなくちゃ」
ルミアーノさんがドレスを用意してくれたということは、そうするようにとルーク様からご命令があったということになる。
「そうですね。すぐに紙とペンを用意します」
そうしてラナから紙とペンを受け取ってすぐに手紙を書き始めた。少し考えて感謝の気持ちが伝わるようにと言葉を綴り終えた頃、ラナが箱から取り出したドレスを見て感嘆の声をあげた。
「今回のドレスも素晴らしいですね!お嬢様によく似合いそうです!」
今回は春らしい淡いピンク色のドレスだ。全体的にふんわりとした見た目でとても愛らしい。いつも通りの素敵なドレスに思わず目を奪われた。ただ、私には少しだけ気になることがあった。五年前からずっとルミアーノさんが私のドレスを作ってくれているのだけれど、いつも決まって同じことがあるのだ。
「……どうして、私のドレスっていつもこんなに露出度が少ないのかしら?」
「え、そうですか?」
「ええ。最近だと、確か肩や背中を出すタイプのドレスが流行っているはずだけれど、私はそういうドレスを着たことがないわ。ルミアーノさんは流行に乗るのが結構好きだったと思うのだけれど……やっぱり私には似合わないのかしら?」
「そ、そんなことありませんよ!……あ!第一王子殿下が他の男性にお嬢様の肌を見せたくなくてルミアーノ様に頼んでいらっしゃるのでは?」
ラナはどうも慌てた様子でそう言った。きっと本当は似合わないけれどそれを言わずにおこうと咄嗟にフォローしてくれたのだろう。まぁ、ルーク様が他の人に私の肌を見せたくない、というのは少し無理があるけれど。
「ありがとう、ラナ。とりあえずルーク様にお礼を言いに行きましょうか。ドレスのこともルーク様に聞いてみましょう」
「……そうですね」
今日は授業はない日だけれど、カイ様にルーク様は寝るとき以外は基本生徒会室にいらっしゃると聞いているので、私はラナを連れてそちらに向かった。男子寮にいらっしゃるならさすがに訪ねづらいけれど生徒会室なら大丈夫だろう。
「ルーク様、フィリアです。入ってもよろしいでしょうか?」
「っ……ああ、どうぞ」
ドアをノックすると少し驚いたような返事が聞こえてきた。まぁ、これが学院内では初めてのまともな対面なので驚いても仕方がないかもしれない。
「失礼します。ルーク様、先程ルミアーノさんからドレスが届きました。学院内のパーティーの分までわざわざ手配していただき、本当にありがとうございます」
「奴にしては珍しく早いな。気にする必要はない。入学祝いだと思ってくれ」
「はい……。あの、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「?…ああ」
「ルミアーノさんにデザインしていただいている私のドレスなのですが……」
「どうした?何か不満でも?」
「い、いえ!そうではなくて……全て露出の少ないものになっているのには何か理由があるのかと思いまして……」
「理由、か」
そう呟くとルーク様は視線を下げた。その表情にどことなく寂しさを感じてなぜか苦しくなる。しかし、少しするとまたルーク様は視線をこちらに戻した。
「悪いが俺には分からない。ルミアーノの好みだろう」
「……そうですか。ありがとうございます。では、私はこれで失礼しますね。お忙しい中、失礼しました」
「ああ」
私は深く礼をしてその場を後にした。ドアが閉まるまでのその刹那、
「……すまない」
そうルーク様が小さく溢したことには全く気づかずに。
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