あやかしと神様の昔語り

花咲マイコ

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襲撃

4☆ 結界突破された理由

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「紺太…よく頑張ったな……」
 高良は胸が苦しくてたまらない。
 やっとそう言葉が出た……
 紺太は自分の仕事をきちんとこなした。
 愛おしい者を守った…
 かわいそうと言ったらプライドの高い紺太は怒ると思うから……この言葉が一番喜ぶだろうと思うから……
 けれど悲しくて辛くて胸が苦しくて後の言葉が続かない…
 つい数時間前に別れたばかりなのに……
 冷たくなった紺太の頬を触れる。

 あの笑顔も明るさも、もう見ることができないことに胸が痛いのと同時に血の気が逆流して冷たい冷静な怒りが湧く。

 威津那の兄、焔を絶対に許すことはできない……


 それに…一番腑に落ちない事は……
「晴綛様が宮中の異変の気配を感知できない事があるのか……?」
 と、つぶやいてしまった。
「奴らは方位を破る呪詛を仕掛け、入り込んだということだ…宮中は風水で方位で守られている隙をつかれたのだ…」
「晴綛様!」
 晴綛は険しい顔をしてそう話す。
 さらに、左の袖が真っ赤に濡れて染まっていた。
「血の汚れで、宮中を穢すわけにも行かぬし、四神の異界に身を隠したのだ。
 宮中から出るわけにも行かぬでな。
 あやつらは急に襲ってきよって、スパイを捉えていた指を切られてしまった…」
 そう言って切られた小指を見せる。
 高良はギョッとする。
「は、早く病院に行かなくちゃ…」
「ま、これを貼っておけばしばらくして直るじゃて」
 その切られた指は護符で巻きつき繋げようとしている。
 正直どの医者の施しより完治する。
 神符を作る能力に長けた副陰陽寮長に処置してもらったようだ。
 不穏な気配を感じてすぐさま宮中の外に出て気配を探っていたら、黒御足家のものに後ろから気配もなく襲われた。
 尻尾を狙われると思って警戒していたが、
 小指を切られた。
「威津那を縛る術なんて,指を切って仕舞えば無くなるなんてわかってんのに、やらないなんてやっぱり威津那は甘いよねぇ……」
 と、焔がやった。
 晴綛は本気で焔を葬ろうとしたが、瞬間姿を消した。
 そして、西の守りの紺太を襲った。
 血の穢れを宮中にやはり持っていく事は禁忌だ。
 それほど穢れに敏感…さらに四方拝が行われるために潔斎をしている陛下のおそばに侍る事も憚れる。
 だが、宮中裏の世界の妖の四神の異界ならば遠隔的に護れるので晴綛は異界に引っ込んだのだ。
 それに陰陽寮の不祥事だと言うこともバレたくない。
 威津那を迎え入れる事覚悟は出来ていたのだから……
 もし、威津那が神誓いをしていなければかなりの戦力になったと、今更思うが仕方がない。
(これは神が定めた宿命のうちなのだから……)
 とりあえず式神で、全てのことは副陰陽寮長に任せて血の穢れを落とすためにあやかしの四神の異界に来たようだ。

「そ、そんな大変なことになってるなんてっ!」
 高良は家に帰らず、陰陽寮にいたのに皆普通に仕事をしていて、タヌさんに呼び出されるまで気が付かなかった。
 なので、陰陽寮長と無表情の副長以外知らない緊急事実だ。
 知らなかったのは高良の方だった。
「それにしても急すぎる……」
「祝皇を消したい奴らが、犯行時刻なんか教えるものか。奴らはこの忙しい時期を…わざと選んだのだ。」
「黒御足…とくに八那果は方位を知り操ることに長けている……それの息子ならば風水で宮中の龍穴を辿ることなど容易いということだ」
 威津那も多少はその力を無意識に持っていて宮中に呪詛をかけたのだ。
「まったく…厄介な一族よ……」
 晴綛は大きくため息をつく。
 晴綛はまだ余裕があるように高良は思う。

 焦らなきゃいけない時なのに焦らず冷静だ。
 若い高良はそこがもどかしいが、尊敬もしてしまう。
 余計に不安にさせてもいい事はないからだ。
 大変な時こそ冷静にという事だ。
「そして、奴らの目的はやはり橘だ…」
「橘はどこに?」
「ちょうど物忌中で、屋敷にいる……」
 それは安心してよかったことなのか…と高良は思うが不安の方が強い。
「タヌさんが異界に閉じ込めたと言ったな…」
 タヌさんは機転を効かせた行動だったかもしれないが……
 それは真逆のことだと晴綛は確信している。
「タヌさんの思惑通りあやかしに喰われてくれればいいが、神隠しとして百年くらい彷徨うのも助かるが……このわしを傷つけるほどの力を持っている。
 奴らは異界を通って阿倍野屋敷に行く計画だ……」
「そんな、橘は今日は物忌で屋敷に…!」
「それじゃ…橘は……!」
 奴らに攫われたら九尾を復活させて日和を乗っ取る計画は成功してしまう。
 威津那に与えられた命令は焔がすべて素早く処理をするために来たのだ。

「高良、すまぬがわしの代わりに阿倍野屋敷に橘を守ってくれ。

 そう言って、導きの石を渡す。
 異界にから阿倍野屋敷へ直行しろということだ。

「わしは紺太の代わりに西の守護をする……」

 高良はテレパシーで晴綛の内心を覗くと屋敷にいる家族が心配でたまらないのが伝わる。
 悠然としている晴綛は紺太に触れてタヌさんを慰めるように膝に乗せて撫でる。
 それはタヌさんは、失敗したかもしれないことにしゅんとするのを慰めている。
 いま一番つらいのはタヌさんなのだ。
(晴綛さまの優しさに応じたい……オレも晴綛様のように余裕がほしい…)
 高良は晴綛を改めて尊敬し、導きの石を手に握り阿倍野屋敷へ急いだ。
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