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襲撃
8☆人質
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「だめっ!破られたわっ!」
橘は弾かれたように叫ぶ。
家を守る鬼が消された事に青ざめる。
いま留守番をしている橘は阿倍野殿として屋敷全体を見渡しあやかしの配置がわかる。
父の晴綛が屋敷の主だとしても血で繋がって管理をしているのだ。
「そんなっ!早すぎ!いやっ!来るわ!みんな逃げてっ!」
その言葉に幼い弟二人は恐怖で泣き出すと同時に大窓のガラスがバリン!と割れた。
「あっけないなぁ。」
窓を割ったのは焔一人で右手には小刀を持っていた。
「威津那さんそっくり……」
三鷹は恐れずに覚悟を決めて焔という男を見て正直に感想が出た。
「あれは…!退魔の刃よ!私の太刀がそう言ってる!」
咲羅子は焔が持つ刃に気付き素早く鞘を抜いて、警戒する。
「右手がある……?紺太が燃やしたはず……」
高良は眉間に皺を寄せ怪訝な顔で焔を睨む。
「ああ、異界で治してもらったんだ。あやかし製だよ。命の最後の炎も無駄になったねぇ。ざぁぁぁんねぇえん!」
といって、焔はあっかんべーをしてバカにする事に高良は心底腹が立つ。
「殺す……」
懐から札を数枚出し紙の端は鋭い刃物のように伸びて焔の胸を狙うが、それた。
右手の腕を半分切り落としただけだ。
「ううっ…」
高良は自分の不甲斐なさにうなだれる。
殺すとは言っても思っても、犯罪者になりたくないという深層心理、本能が働いて心臓を貫くことができなかった……
あやかし性の腕はすぐに再生して、焔自身もその回復力に驚き満足げに笑う。
「だから、甘いんだよ。香茂家は…その甘さが、遠い昔、黒御足家と別れた原因だ…」
冷たい瞳で高良を見下す。
「私は本気よっ!陛下にあだ名する者は容赦しないわ!あやかしと同化したなら尚更好都合よ!」
咲羅子は鞘を抜く、普通の婦女子ではない身体能力で焔に退魔のたちを薙ぐ。
焔は寸前のところで咲羅子の持つ退魔の刀と同じ小刀で防ぎ火花が散る。
対等の力を緩め刃を滑らせ、刃が途切れた瞬間、咲羅子は刃を返して腕を落とそうとしたが、焔の右手は蛸のような形に膨張し咲羅子を捉える。
刀は壁に突き刺さるように投げ飛ばされた。
「なっ!」
蛸の手は焔の手から自らの離れ咲羅子は床に磔にして口を塞ぐ。
「うぐぐっ!」
咲羅子は苦しさに必死に足をバタバタと暴れさせる。
「姐さん!」
橘は鞘を持ってなんとか助け出そうとする。
刀は咲羅子以外が触れると呪われるから使えない。
牡丹は大量の紙の式神を蛸の手に貼り付けて妖力を吸い取り消させた。
咲羅子はむせて息を整えるために必死だ。
「人質がたくさんいるのは有利でいいなぁ」
焔は切り離した蛇のようにクネクネと蠢くあたまが小さな狐をした管狐が手を形取る。
「あなた…人じゃ…ないの?」
橘は警戒して睨む。
「さぁね、威津那も呪詛を体に吸い取ることができるだろ?呪うために…そんな感覚など容易いことなんだよ」
威津那は普段そういう力を他人には見せないから分からないが、焔のような力を操ることができるほどの人物なのだ。
高良は、そばでそのことを見ていたので納得する。
さらに人の命を奪うことに罪悪感や躊躇というものを基本持っていない一族……だからこそ、穢れを受けても力に変えてしまえるのだ。
「か、母さん…」
三鷹が苦しそうに声をかけたのをみると、高良の兄弟と祖父母は黒ずくめの人間には羽交い締めにされて刃物を喉元に突き立てられていた。
黒御足の一族総出で襲ってきたのだ。
配置したあやかしたちが一瞬でやられたのも躊躇しない一族が容赦なく葬り去ったためだ。
「こいつらの命と引き換えだよ……オレたちが欲しいのは橘、お前だけだ…」
「卑怯者……!」
橘は焔を殺気を含み睨む。
そんな橘の表情を見下すように笑う。
「いいなぁ、その表情….…そそる…」
そう言って舌なめずりをされて、橘は鳥肌と、危険信号が体に警告を発するのを感じる。
「私の子供たちに手を出すなぁあっ!」
牡丹はドスドスと般若のごとくの形相で三鷹に刃を立てる者に牡丹の体格では想像できない早さで迫って黒ずくめの男に体当たりしていき子供たちを奪い守る。
我が子を守る母は最強に強い。
その様子に、焔は目を見開く。
高良は常に焔の思考を読み、己の母親と、重なったことを思い僅かながら人の心の一欠片でもあり、狂った原因だということを知った。
(最凶な野郎でも狂う原因は心を壊すほどの後悔……それが黒御足の力を強くする源…)
冷静に高良は分析することを忘れず抜かりのない。
だが、牡丹が三鷹を胸に抱いて守った瞬間背中を切りつけられた。
「母さん!」
子供たちは青ざめて悲鳴のごとくに叫ぶ。
さらに膝裏まで切られて崩れ落ちる。
「やめて!、やめさせてっ!私が大人しく連行されるからみんなには手を出さないで!」
橘は焔に懇願する。
棟梁である焔が一言やめさせればこれ以上の最悪なことはないのだから……
焔は一瞬呆けた事を眉間のシワを深くして、橘をにらみごまかし、
「大人しく俺の元に来てくれるならね。
来てくれないなら香茂家のようにこの場を燃やすよ…」
橘に選択肢はない……。
「わかったわ!絶対に、みんなに手を出さないって約束して!苦しめない殺さないって!」
橘は涙目で訴える。
不本意だけれど自分が原因でみんなの命を危険に合わせることは嫌なのだ。
そのことをこの男はわかっていてやっていることにも腹が立つが覚悟をきめる。
焔は橘に管狐の手を差し出す。
嫌な過去の出来事をつい、思い出してしまうが、橘は焔の気持ち悪い手を取った。
「橘!ばかっ!そんなやつ私が一刀両断にしてやるんだからっ!」
咲羅子は後ろ手に羽交い締めにされていたが抵抗し抜け出し男を気絶させた瞬間二人は消えた。
香茂家の家族を捉えていた者たちもだ。
もとからいなかったかのように……
焔は約束を守ったようだった。
それは、牡丹が子供たちを守る姿にほんの僅かな人の心を気まぐれで動かしたにすぎないと高良は思った。
二人のいなくなった空には朝日が登り夜は開けていた。
橘は一番暗い夜闇に連れて行かれてしまったようだと思うと、咲羅子は自分の力のなさに不甲斐なさを覚えた。
自分は甘かったのだと…覚悟はあったのに……あの男には敵わない。
「悔しいけど……早く威津那を叩き起こしにいかなきゃ!」
あいつを、殺るのは威津那しかいないと咲羅子は決めて宮中に急いで戻るのだった。
橘は弾かれたように叫ぶ。
家を守る鬼が消された事に青ざめる。
いま留守番をしている橘は阿倍野殿として屋敷全体を見渡しあやかしの配置がわかる。
父の晴綛が屋敷の主だとしても血で繋がって管理をしているのだ。
「そんなっ!早すぎ!いやっ!来るわ!みんな逃げてっ!」
その言葉に幼い弟二人は恐怖で泣き出すと同時に大窓のガラスがバリン!と割れた。
「あっけないなぁ。」
窓を割ったのは焔一人で右手には小刀を持っていた。
「威津那さんそっくり……」
三鷹は恐れずに覚悟を決めて焔という男を見て正直に感想が出た。
「あれは…!退魔の刃よ!私の太刀がそう言ってる!」
咲羅子は焔が持つ刃に気付き素早く鞘を抜いて、警戒する。
「右手がある……?紺太が燃やしたはず……」
高良は眉間に皺を寄せ怪訝な顔で焔を睨む。
「ああ、異界で治してもらったんだ。あやかし製だよ。命の最後の炎も無駄になったねぇ。ざぁぁぁんねぇえん!」
といって、焔はあっかんべーをしてバカにする事に高良は心底腹が立つ。
「殺す……」
懐から札を数枚出し紙の端は鋭い刃物のように伸びて焔の胸を狙うが、それた。
右手の腕を半分切り落としただけだ。
「ううっ…」
高良は自分の不甲斐なさにうなだれる。
殺すとは言っても思っても、犯罪者になりたくないという深層心理、本能が働いて心臓を貫くことができなかった……
あやかし性の腕はすぐに再生して、焔自身もその回復力に驚き満足げに笑う。
「だから、甘いんだよ。香茂家は…その甘さが、遠い昔、黒御足家と別れた原因だ…」
冷たい瞳で高良を見下す。
「私は本気よっ!陛下にあだ名する者は容赦しないわ!あやかしと同化したなら尚更好都合よ!」
咲羅子は鞘を抜く、普通の婦女子ではない身体能力で焔に退魔のたちを薙ぐ。
焔は寸前のところで咲羅子の持つ退魔の刀と同じ小刀で防ぎ火花が散る。
対等の力を緩め刃を滑らせ、刃が途切れた瞬間、咲羅子は刃を返して腕を落とそうとしたが、焔の右手は蛸のような形に膨張し咲羅子を捉える。
刀は壁に突き刺さるように投げ飛ばされた。
「なっ!」
蛸の手は焔の手から自らの離れ咲羅子は床に磔にして口を塞ぐ。
「うぐぐっ!」
咲羅子は苦しさに必死に足をバタバタと暴れさせる。
「姐さん!」
橘は鞘を持ってなんとか助け出そうとする。
刀は咲羅子以外が触れると呪われるから使えない。
牡丹は大量の紙の式神を蛸の手に貼り付けて妖力を吸い取り消させた。
咲羅子はむせて息を整えるために必死だ。
「人質がたくさんいるのは有利でいいなぁ」
焔は切り離した蛇のようにクネクネと蠢くあたまが小さな狐をした管狐が手を形取る。
「あなた…人じゃ…ないの?」
橘は警戒して睨む。
「さぁね、威津那も呪詛を体に吸い取ることができるだろ?呪うために…そんな感覚など容易いことなんだよ」
威津那は普段そういう力を他人には見せないから分からないが、焔のような力を操ることができるほどの人物なのだ。
高良は、そばでそのことを見ていたので納得する。
さらに人の命を奪うことに罪悪感や躊躇というものを基本持っていない一族……だからこそ、穢れを受けても力に変えてしまえるのだ。
「か、母さん…」
三鷹が苦しそうに声をかけたのをみると、高良の兄弟と祖父母は黒ずくめの人間には羽交い締めにされて刃物を喉元に突き立てられていた。
黒御足の一族総出で襲ってきたのだ。
配置したあやかしたちが一瞬でやられたのも躊躇しない一族が容赦なく葬り去ったためだ。
「こいつらの命と引き換えだよ……オレたちが欲しいのは橘、お前だけだ…」
「卑怯者……!」
橘は焔を殺気を含み睨む。
そんな橘の表情を見下すように笑う。
「いいなぁ、その表情….…そそる…」
そう言って舌なめずりをされて、橘は鳥肌と、危険信号が体に警告を発するのを感じる。
「私の子供たちに手を出すなぁあっ!」
牡丹はドスドスと般若のごとくの形相で三鷹に刃を立てる者に牡丹の体格では想像できない早さで迫って黒ずくめの男に体当たりしていき子供たちを奪い守る。
我が子を守る母は最強に強い。
その様子に、焔は目を見開く。
高良は常に焔の思考を読み、己の母親と、重なったことを思い僅かながら人の心の一欠片でもあり、狂った原因だということを知った。
(最凶な野郎でも狂う原因は心を壊すほどの後悔……それが黒御足の力を強くする源…)
冷静に高良は分析することを忘れず抜かりのない。
だが、牡丹が三鷹を胸に抱いて守った瞬間背中を切りつけられた。
「母さん!」
子供たちは青ざめて悲鳴のごとくに叫ぶ。
さらに膝裏まで切られて崩れ落ちる。
「やめて!、やめさせてっ!私が大人しく連行されるからみんなには手を出さないで!」
橘は焔に懇願する。
棟梁である焔が一言やめさせればこれ以上の最悪なことはないのだから……
焔は一瞬呆けた事を眉間のシワを深くして、橘をにらみごまかし、
「大人しく俺の元に来てくれるならね。
来てくれないなら香茂家のようにこの場を燃やすよ…」
橘に選択肢はない……。
「わかったわ!絶対に、みんなに手を出さないって約束して!苦しめない殺さないって!」
橘は涙目で訴える。
不本意だけれど自分が原因でみんなの命を危険に合わせることは嫌なのだ。
そのことをこの男はわかっていてやっていることにも腹が立つが覚悟をきめる。
焔は橘に管狐の手を差し出す。
嫌な過去の出来事をつい、思い出してしまうが、橘は焔の気持ち悪い手を取った。
「橘!ばかっ!そんなやつ私が一刀両断にしてやるんだからっ!」
咲羅子は後ろ手に羽交い締めにされていたが抵抗し抜け出し男を気絶させた瞬間二人は消えた。
香茂家の家族を捉えていた者たちもだ。
もとからいなかったかのように……
焔は約束を守ったようだった。
それは、牡丹が子供たちを守る姿にほんの僅かな人の心を気まぐれで動かしたにすぎないと高良は思った。
二人のいなくなった空には朝日が登り夜は開けていた。
橘は一番暗い夜闇に連れて行かれてしまったようだと思うと、咲羅子は自分の力のなさに不甲斐なさを覚えた。
自分は甘かったのだと…覚悟はあったのに……あの男には敵わない。
「悔しいけど……早く威津那を叩き起こしにいかなきゃ!」
あいつを、殺るのは威津那しかいないと咲羅子は決めて宮中に急いで戻るのだった。
応援ありがとうございます!
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