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 王都で過ごす最終日。何度か通った食堂で最後の晩餐をすることにした。

 この店の料理は、美味しくてリーズナブルな所が気に入っている。
 時間も時間も少し早かったが、カウンターの端に場所を取り、に出入りする人を見ながら食事をしてお酒も少々すすんだ。

 人が多くなる時間帯になった頃、騎士と思われるフードを被った男性が空いていた隣に腰掛けた。
 どうして隣に?と思ったが、他の空いている席は彼にとっては微妙だったらしい。

 それに何やら疲れているのか浮かない顔をしているようだ。
 旅の恥は掻き捨てともいうが、王都での最後の日だからか、反応がなければ帰ればいいからと、いつもはしない声をかけてしまった。


「お兄さん。ここの、料理美味しいんだからそんな顔してたら店の人に悪いよ」


 すると驚いたようで、パッとこちらを見た。その顔は言っちゃなんだが、綺麗だった元婚約者なんか足元にも及ばないほど美形で、その瞳は黒いが光が入ると赤に輝きとても綺麗で、今まで見たことのない美しさだった。


 さすが王都、色々な人が集まるとこんな美形も多い。


 でも、声をかけられることが嫌なのか、彼の表情は硬いままだ。そう頑なになられると気になってどうにかその表情を崩したくなる。多分、酔いが回ってきているからそう思うのかも。


「お兄さん。ほら、そんな顔してないで嫌なことがあったなら呑んで忘れなきゃ」


 そう言って私は自分のグラスを空け、「もう一杯、ちょうだーい」と声をかけおかわりを受け取り、こくんと喉を鳴らして笑顔で飲むと、渋い顔をしていた彼がようやく口を開いた。


「君は…ここの常連なのか?」


 眉間にしわを寄せたまま私を見てそう聞いてきたので「違うわよ。何回か来ただけだけど、ここの料理が美味しくて」そう言って笑いながら料理を口に運び、あまりの美味しさに顔をほころばせた姿を見て彼が硬い顔をようやく崩して笑い出した。


「君のその幸せそうな顔を見たら、何だが悩んでいたことが馬鹿らしくなるな」

「なによ。私にだって色々あるのよ。一応は傷心旅行みたいものなのだから」


 もう3杯目も飲み終わり少し酔いが回ってきてるのか、ついつい饒舌になる。
 そんなにアルコールが強いものを頼んでいないはずなんだけど、普段から飲むことがないから実は私がアルコールに弱かったのだろうか。でも、楽しいからまだ飲もう。 


「傷心旅行?彼氏にでも振られたのか」

「そんなんならいいわよ。聞いてくれる?私ね、婚約者がいたの。結婚する日も決まってたのに、いきなり姉と浮気して子供ができたって言われて婚約破棄よ!サイテーでしょ?」

「それは…なんと言っていいのか」

「それに、大嫌いな兄が家を継ぐから居心地悪くて…嫁いで家を出られると思っていたのに、それも出来なくなって。だから、家出したのよ」

「家出?そんな無茶をしたのか?」

「無茶じゃないわ。新たな旅立ち…自分で新しい人生のスタートラインに立ったのよ」


 そう言い放った私は今までにない最高の笑顔だったろうと思う。目の前のカイが目を大きく見開き驚いているのが滑稽だ。
 でも、誰かに心配してもらえるなんてどれだけぶりの事かしら。


「私、ミアよ。あなたは?」

「俺は…カイだ」

「そう、カイ?貴方、なんだか表情が暗い…硬かったけど」


 この店に入ってきた時も、声をかけた時もどこかに影があるような顔をしていたことが気になっていたから、自分が話したのだから貴方も話してみてよと聞いてみた。


「ミアの話を聞いてたら、俺が悩んでることってちっぽけだな」

「ちっぽけ?」

「ああ、俺は優秀な兄がいて比較されて生活することが苦痛で……越えられないと言われているようで」

「そんなの、気にしなきゃいいのよ。だって、年齢差だってあるんだし兄弟が同じ人間だったら面白くないじゃない。得意な面を伸ばして、それだけでも追い越せばいいのよ。私もね、姉と比べられて……なんとか追い付こうとしたけど、今はもう、私は私って思えるようになったわ」


 手に持ったグラスをテーブルに置いて、横に置いてあったナッツを口に入れてカイの顔を見た。
 またしても驚いた顔をしているが、私と目が合うと、突然笑い出した。


「はははっ、なんだか、ミアは面白いな。今日、ここに来てよかったよ」


 そう言って、またお酒を追加で頼み、再度乾杯をした。
 
 一度目は初めての出会いに、二度目は新しいスタートに、三度目のこの乾杯は、知り合えたことへの神への感謝に。
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