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 披露宴も恙無く終了し、フォーセット侯爵家の屋敷は落ち着きを取り戻しつつあった。

 使用人たちは披露宴会場の片付けに取り掛かり、次は明日の晩餐会の会場設営を始めるためにせわしなく動き回っている。
 この晩餐会は今日の披露宴に参加できなかった友人達が参加する会で、披露宴より規模は小さくなるものの手を抜くことなど許されない。使用人達の緊張はまだまだ解けなかった。

 屋敷には王太子殿下を筆頭に王都からの騎士団も大勢滞在しているので、いつも以上に気を使っているのかもしれない。



 ロアーナの護衛として王都から付いてきた騎士達は侯爵家の騎士への情報提供と共にその役目を終え、後は王太子が王都に戻る時に一緒に帰る予定になっている。

 そしてヴィンセント王太子の部屋には護衛騎士として来たカイトの姿があった。


「カイト、お前が昔、私に見せてくれたハンカチがあっただろう?覚えているか?」


 ヴィンセントがカイトに聞いたのは7年前にリアから受け取り「捨てていいよ」と言われたあのハンカチの事だ。
 カイトはあのハンカチを未だに大切に持っている。彼女を感じられるものはそのハンカチしかないのだから、捨てられるはずがない。思い出す度、時間がある度、それを手に取り眺めてリアを思い出していた。


「ああ、覚えてるさ。まだ持っているからな」


 目を伏せ、切ない表情を浮かべるカイトに、机の上に置いてあるカードを手渡す。


「これは?」

「今日の披露宴の時のウェルカムカードだ。この地域の習慣らしいんだが、いいから見てみろ。驚くぞ」


 驚くという意味が分からないまま手に取った封筒からカードを取り出すと、カイトはその目に移ったモノに釘付けになった。 


「これは…」

「驚いただろう?私も最初に見たとき、妙な既視感があったんだが……お前の顔を見て思い出したんだ。その刺繍、似ていないか?」


 そのウェルカムカードにはイチゴと名前が刺繍されているのだけなのだが、カイトはその刺繍から目が離すことが出来ず妙に心に引っかかる。刺繍は見本が存在するのだから似たものが存在するのは当たり前なのだが、これは違うと心の奥底の何かが訴えていた。


「今日は聞けなかったが、帰るまでにはこのカードの作り手を確認しておこう。後はその結果次第だな」


 俯いたカイトの瞳は潤んでいるようにも見えたものの、ヴィンセントは気付かないふりをして肩に手を置き「そういえばお前の同期のウッドリー伯爵家のアーサーがここの駐屯騎士団の隊長をしているだろう?お前に会いたがっていたから、今からでも行ってくるといい」

 そう言って机の上の本を手に取り、ページをめくり始めた。そしてカイトは「はい」と返事をして部屋を出て扉を閉めたと同時に自分の視界がうっすらと滲んでいることに気が付いた。


 カイトの心はただそのウェルカムカードを作った人物がミアであってほしいと、ただそれだけを願った。
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