闇落ちする悪役令嬢のはずでしたが過保護な従者に溺愛されてます

枢 呂紅

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1巻

1-2

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 薄水色の美しい瞳できょとんとアルファルドを見つめながら、従者になにか異常がないかと、シルヴィアが彼の顔のあちこちに触れる。
 それをいさめつつ、アルファルドは切れ長の目を深刻に細めた。

(あの女が逃げるためにあんな幻覚を俺に見せたのか?)

 あの光景が頭に流れ込んできたのは、女がアルファルドの魔法を弾いた直後だ。
 対象の意識をらすため、その者が最も大事に思う人間が危機にひんする幻覚を見せる。聞いたことはないが、そういう魔法を女が使ったのかもしれない。
 だけど、それにしてはあの幻覚はえんきょくてきだった。
 一方で、不穏でもあった。
 幻覚の中、シルヴィアはなにかに手を伸ばしていた。
 深く、暗く、でいのようによどみ、シルヴィアを誘惑するように邪悪にうずくもの。
 その中からてきたのは、まるで伝承に聞く悪魔そのものだった。

「……いずれにせよ、あの女に話を聞く必要があるな」

 無礼をびて書斎を辞してから、アルファルドはそう固く決意した。


 怪しい女が城塞都市アリストレにあるクロウリー家の屋敷前から消えた、翌朝。
 大通りをはずれ、曲がりくねった細道を行った先にある小さな宿から、一人の小柄な少女がこそこそと出てきた。
 としは十五、六歳ほど。肩の上で揺れるストロベリーブロンドの髪をフードで隠し、くりりと大きなくりいろの瞳できょろきょろとおびえるように周囲をうかがっている。
 少女はひとしきりあたりを確認すると、ほっとしたように胸をろした。

「さすがのファルたんも、一晩で宿屋の特定はできないか……」
「そのファルたんというのは、俺のことですか?」

 当たり前のように背後からささやかれ、少女は「うぎゃあ!?」と悲鳴をあげた。
 弾かれたように振り返る少女を、アルファルドは胸に手を当てて迎える。
 少女は口をわなわなさせて、彼を指差した。

「フフフフファルたん!? な、なんでこんなところにいるの!?」
「俺がこの街に、いくつ『目』を飼っていると思っている? 素人しろうと一人、せんぷく場所を暴くなど造作もない」

 笑みを消してアルファルドが言い放つと、少女は「ひぃぃぃ!」と震え上がった。
 昨日のように逃げられたらかなわない。
 少女が震えているうちに、アルファルドは長い足で「だん!」と壁を蹴り、少女の逃げ道を絶った。それから改めて、ぐいと長身をかがめて少女を覗き込んだ。

「答えろ。あの幻覚は何だ。なぜ、あんなものを俺に見せた?」
「だ、だから! 私はシルシルの敵とかじゃなくて……ん? 幻覚?」
とぼけるな! あんなまがものを……お嬢さまが悪魔と契約し、魔人にちるなど! あんなものを俺に見せるとは、よほど命が惜しくないものと見える」

 こめかみに青筋を浮かべて吐き捨てたアルファルドだが、女は目を丸くした。

「なんでファルたんが、『まほきゅう』のシルシルの未来を……? まさか、ファルたんの魔法を弾いた時に、私の記憶がファルたんに流れちゃった……?」
「なにをぶつぶつ言っている。説明するつもりがないというなら……」
「……で、でも。これって、ある意味ですごいチャンスなのかも……!」

 意を決したように女が顔を上げた。くりいろの大きな瞳で真剣に見上げられて、思わずアルファルドは口をつぐむ。
 少女はアルファルドを見つめたまま、こう宣言した。

「ファルたん、ううん、アルファルドさん。シルヴィアさまのことで、大事な話があります!」 


 ――その数分後。
 アルファルドは少女と宿屋の一階の食堂で向かい合って座っていた。
 席に着く時、少女はフードを脱いで肩にかかるストロベリーブロンドの髪をあらわにした。そうしてひと息ついてから、自身の胸に手を当てて口火を切った。

「私はセイラ。ストラ地方のアルカ村から来ました」

 アルファルドは驚いた。
 ストラ地方というと、アリストレから馬車で十日ほどかかる。飛竜を飛ばせば三日もあれば着くが、どのみち遠い場所には違いない。
 彼女を無事に捕まえられたことでいくらか落ち着きを取り戻したアルファルドは、ひらりと手を振って先をうながした。

「確か昨日、シルヴィアお嬢さまが実在するか確かめに来たと言っていましたね。そんな遠くから、それだけのために来たのですか?」
「私、別の世界からの転生者なんです」
「……はい?」

 いきなり突拍子もない方向に話が飛び、さすがのアルファルドも耳を疑う。
 思わず不審者を見る目をしてしまった彼に、セイラは大慌てした。

「う、ううう嘘じゃないんです! 証明は、できないですけど……」
「とりあえず聞きましょう。続けてください」
「う、うう。アルファルドさんの視線が痛い……。前の人生で私は、シナリオライターをしていました。あ、シナリオライターっていうのは、劇作家みたいなものなんですけど。その時に手がけた『まほきゅう』、――『魔法使いと救世の乙女』というゲームの舞台が、ローゼン王国にそっくりで……」
「お嬢さまがその登場人物だったと?」
「…………はい」

 消え入るような声で肯定したセイラに、いよいよアルファルドは頭痛がしてきた。
 これまでの言動から察するに、おそらく自分も彼女の物語の登場人物なのだろう。――もちろん、セイラが正気ならば、だが。

(このまま、治療院にでもぶち込むべきか?)

 一番近い治療院への道のりを思い浮かべて、アルファルドは悩んだ。
 妄想にとりかれて遠路はるばるやってきたのだとしたら、もはや怖い。下手な不審者よりも危険ですらある。
 だが、単なる妄想として切り捨てられないのも確かだ。
 なにせ、もし彼女の言葉が真実ならば…… 

「その物語――ゲームの中で、お嬢さまが悪魔にられ体を奪われてしまう。それが、私が見た幻覚の正体だと?」
「……シルシルの最期は、私が最も後悔したシーンなんです」

 アルファルドの不安を裏付けるように、セイラは表情をくもらせてうつむいた。

「私は本来、ハピエン主義……すべてのキャラクターに幸せになってほしいたちなんです。だから、シルシル――シルヴィアも幸せにしてあげたかった。だけど、それじゃ物語として弱い。主人公を成長させると同時に、プレイヤーを物語に没入させる転換点が必要だった。だからって、私は……」

 悔しげにぎゅっと手を握りしめてから、彼女はアルファルドに頭を下げた。

「お願いです、アルファルドさん。今度こそシルヴィアを幸せにしたい。あの子を悲しい運命から救ってあげたい! そのために、あなたの力が必要なんです!」


(あの女に思わず呑まれて、野放しにしてきてしまった……)

 その日の午後。
 シルヴィアのためのティーセットを準備しながら、アルファルドは頭を悩ませた。
 セイラの話は現実味がなさすぎて、とてもじゃないが信じられない。
 といって、冗談として忘れるには重すぎる。
 内容が内容だけに誰にも相談できず、やっかいとしか言いようがないしろものだ。
 しかもだ。具体的にどうすればいいのかと問えば、わからないときた。

〝前世の記憶があるといっても、思い出せたのは断片的なことばかりで……。なんでシルシル、シルヴィアさまが悪魔にられちゃったか、全然わかんないんです〟

 そう言ってセイラがへらりと笑った時、冗談抜きにアルファルドは手元の木製のマグカップを叩き割りたくなった。

(使えない。使えなすぎるぞ、あの女!)

 思い出した途端、怒りがよみがえってきて、深呼吸をして自分をなだめる。
 実質的にみずからを創造主だと言っておきながら、セイラは細かいことはさっぱり覚えていないらしい。
 それでもアルファルドがぎりぎりその言葉に耳を貸す気になったのは、彼女を誠実な人間だと感じたからだ。

〝ずっと気になっていたのだが、俺を無理に名前で呼ぶ必要はない。慣れた呼称で好きに呼べ〟

 別れ際、アルファルドはセイラにそうげた。
 妄想であれ、真実であれ。セイラにとってアルファルドは彼女が産み出したキャラクターであり、「ファルたん」なのだ。その認識を無理に曲げさせる必要はない。
 けれども、セイラはしばしまばたきをした後で微笑ほほえんで首を横に振った。

〝ありがたいけれど、やめておきます。私は『まほきゅう』の産みの親だけど、この世界は動いていて、みんな生きた人間です。だから私は、この世界で出会ったひとたちを、一から知っていきたいって思うんです〟

 そのまっすぐな言葉に、不覚にもアルファルドは感心した。
 少なくとも、この人間は嘘は言わない。そう信じさせるには十分だった。
 直後、「というわけで……。よろしくお願いします、ファル君」と照れ笑いと共に手を差し出された時は、結局別の愛称を作るのかと突っ込みたくなったが。
 何にせよ、アルファルドはセイラの申し出を受けてしまった。

〝具体的なことは思い出せないですが、シルヴィアさまには実は、みんなに隠している大きな悩みがあります。それが膨れ上がって、悪魔と契約を結んでしまうんです〟

 セイラはそう説明したうえで、人差し指を立てて方針を打ち立てた。

〝私はなんとか記憶を思い出して、シルヴィアさまの未来を変える方法を考えます。ファル君はシルヴィアさまの悩みをさぐりながら、彼女を支えてあげてください〟

 ――だからというわけではないが、アルファルドはその日のティータイム、シルヴィアにいつになく食い下がってみることにした。

「なにか胸にんではいませんか? 思い悩んではいませんか? 私で相談相手が務まるとは思えませんが、吐き出した想いを受け止めることならできます。あなたが抱える重荷を、どうか私にぶつけてください」

 問われたシルヴィアが困ったように眉を八の字にする。
 彼女の心をいたずらにわずらわせるのは本望ではない。だが、シルヴィアを追い詰めかねない悩みごとに、思い当たるものがあるのも事実だ。

(お嬢さまの悩み。それは爵位の継承の件と、おそらくは旦那さまとの関係だ)

 クロウリー辺境伯。
 それは、ローゼン王国で王家、公爵家に次いで力がある由緒正しい貴族の家だ。代々、魔力の強い家系であり、特に現当主でありシルヴィアの父エイワス・クロウリーは、国境のガルド山脈に住む古代竜すらひざまずかせる大魔法使いとして知られている。
 シルヴィアはエイワスのたった一人の子だ。しかもローゼン王国は男系継承が圧倒的に多い。
 そのため、次期クロウリー辺境伯の座を狙う数多あまたの分家が、エイワスに自家の女を後妻としてあてがおうとしたり養子を勧めたりの打診が絶えない。
 つまりシルヴィアは、クロウリー家当主の正統な後継者でありながら、常にその地位をおびやかされてきた。
 気丈な彼女は素晴らしい才能と血のにじむ努力によって、みずからが次期当主としてふさわしいうつわだと証明し続けてきた。

(なのに旦那さまは、お嬢さまこそが自分の後継者だと一向に公言してくださらない。そのせいで、お嬢さまが苦しまれているんだ)

 アルファルドにエイワスの意図はわからない。
 なにか考えがあるのだろうが、そのせいでシルヴィアが苦しんでいると思うと、はらわたが煮え繰りかえりそうだ。
 自分が彼女の苦しみを取り払うのだ。
 その一心で、彼はシルヴィアの答えを待った。
 だが、「頭をでてほしい」と言われた時は、いささか驚いた。

(そういう意味でお聞きしたのではなかったが……)

 うるさい外戚共に手を回して黙らせるだとか、エイワスに彼女を次期当主に指名させるだとか、そういう答えを予想していた。
 だが、シルヴィアのお願いを無下にするという選択肢は、アルファルドにはない。
 立ち上がった彼は、ちゅうちょなくシルヴィアを抱き寄せ、その頭をでた。

「こう、でしょうか?」

 自信はなかった。
 誰かに頭をでられる感覚を、アルファルドはすっかり忘れてしまっていた。
 シルヴィアに拾われる前――クロイツ家にいた頃の彼は、三歳から十歳までの間に発現する魔法の才能の目覚めが一向に訪れず、「クロイツ家にどろを塗る落ちこぼれ」としてしいたげられていたからだ。

(弟たちが母親にでられているのを遠目に見ていたが……力加減はこれくらいでいいだろうか?)

 シルヴィアはきゃしゃだし、肌は柔らかくて髪も絹のように細い。力加減を誤り、彼女を傷つけてしまわないかとヒヤヒヤした。
 けれども次第に、アルファルドは自分がとてつもないあやまちをしたことに気付く。

(お嬢さまのお願いは、『頭をでて』だけだ。そのために抱き寄せたのはやりすぎではないか?)

 血縁上の母親が弟たちをでる時、膝に乗せて抱いていた記憶がある。だから、とっさに似たようなことをしてしまったが、頭をでるだけなら抱き寄せる必要はない。むしろ、従者が主人に必要以上に触れるなどあってはならないことだ。
 慌ててシルヴィアから体を離して、アルファルドは無礼をびた。

「失礼いたしました。身を預けていただいたほうが頭をでやすいかと、つい……」
「あ、ううん……」

 こちらを見ないシルヴィアに、アルファルドは自分を殴りたくなった。
 なんてことだ。彼女を救うどころか、今すぐにクビになってもおかしくない失態を犯してしまった。

(だが、今、お嬢さまのそばを離れるわけにはいかない! 何とお嬢さまにおびをするべきか……)

 アルファルドは必死に考えをめぐらせた。
 ――いなめぐらせようとした。
 そこで、シルヴィアの様子がおかしいことに気付く。

(これは……怒っておられるわけではないのか?)

 よく見ると、彼女の耳が赤い。
 考えてみれば当然だ。シルヴィアは十六歳の淑女で、自分は十八の男だ。
 令嬢らしく男慣れしていない少女が、としの近い異性の腕に抱かれたら、従者相手とはいえ恥じらいを覚えるだろう。

(それどころか、無理やり男に抱かれて、恐怖させてしまったのではないか!?)

 最悪を考えて、アルファルドは青ざめた。
 だとしたら、今後の進退を気にしている場合ではない。そこの窓から飛び降りても謝罪に足りないほどだ。

「お嬢さま! 俺はなんということを……!」

 動揺して、アルファルドはその場にひざまずこうとする。だけど彼が身をかがめる前に、シルヴィアがこちらを見ないまま小さく声をあげた。

「あのね、アルファルド」
「はい、お嬢さま」

 ぴたりと動きを止め、判決を待つ大罪人のような心地で主のを待つアルファルドに、シルヴィアが震える声で続けた。

「本当に。ほんとに、ほんとに、ほんとに。アルファルドが絶対、これっぽっちも嫌じゃなかったらの、お願いなのだけれど」
「……はい、お嬢さま」

 背筋に冷や汗が伝い、アルファルドはごくりと無意識に息を呑み込んだ。
 永遠のような一瞬の後、シルヴィアがもじもじとお願いした。

「時々でいいから、今みたいに、頭をでてもらえない……?」
「…………え?」

 今度こそ本当に、アルファルドは自分の耳がバカになったのかと思った。もし耳が正常なら、頭に異常をきたしたのだ。
 それくらい、都合のいい幻聴を聞いた気がする。
 アルファルドはまじまじと、シルヴィアを見下ろす。
 それで、目が合ってしまった。

「ダメ、かしら?」

 こちらを見上げるその顔は、しゅうのためか真っ赤に染まっていた。薄水色の美しい瞳も、心なしか涙にうるんでいる。
 いつもは高貴で完璧な令嬢であるシルヴィアの、恥じらいに染まった上目遣い。
 それを真っ向から浴びたアルファルドは、一拍遅れてぶわりと全身を熱がめぐる心地がした。

(な、な、何だ。この、胸が締め付けられるような苦しさは……!)

 ぎゅうという胸の痛みに、アルファルドは呼吸の仕方すら一瞬わからなくなる。どうにか息を吸って吐いて動揺を抑え込みながら、なんとかうなずいた。

「え、ええ。私ごときでよろしければ、喜んででてさしあげます」
「本当!?」

 アルファルドの答えを聞くと、シルヴィアはぱっと表情を明るくして顔を上げた。その無邪気な仕草に、再び息が苦しくなる。
 断られなかったあんのためか。それとも、アルファルドが「嫌じゃなかった」とわかったためか。おそらく、後者だ。
 アルファルドは、シルヴィアがそういう、相手の気持ちをおもんばかれる優しい少女だと知っている。
 とにかくシルヴィアは、ほっとしたようにつぶやいた。

「……よかった。嬉しい」

 ずぎゅんと。今度は、心臓をかみなりで射貫かれたような衝撃があった。
 アルファルドは胸を押さえてうめく。

「うぐぅ……!」
「アル? どうしたの、大丈夫?」
「……失礼いたしました。目の前に広がる世界の素晴らしさに対し、心臓の強度が足りていなかったようです」
「そう……? 無理しないでね」

 不思議そうにシルヴィアは首をかしげる。
 その向かいで、アルファルドは深く長くいきを漏らした。
 危なかった。
 従者としておのれを律してきたから耐えられた。
 もし自分が従者でなかったら、シルヴィアの天界級の愛らしさに消しクズになって消えていたかもしれない。
 それにしても、まずいことになった。
 シルヴィアの願いに応えるのはアルファルドの本望だ。彼女をさんな運命から救うためにも、彼女のうれいを晴らす助けになることは何でもするつもりだ。
 だけど、彼女を少し甘やかしただけで、あんなに可愛らしい反応が見られるなら。

(お嬢さまを……シルヴィアさまを甘やかすのが、クセになってしまいそうだ)

 言葉には出さず、アルファルドは熱くなる頬を手で隠したのだった。


   * * *


 長期休暇も残すところ七日となった。
 始業式に遅れないよう余裕をもって明日には屋敷を発つため、今日はシルヴィアがアリストレで過ごす最後の夜だ。

(お父さまともしばらくお会いしないわね)

 侍女に髪を結ってもらいながら、シルヴィアは窓の外の青々とした木々をながめつつ内心そうつぶやいた。
 長期休暇の間、当主エイワスはシルヴィアに日々の細かい政務を任せ、領内視察で各地をめぐっていた。
 けれども娘が学園に戻るので、昨晩遅くに屋敷に戻ってきている。
 なので今晩は、エイワスと夕食を共に取る予定だ。
 尊敬する父ではあるが、緊張もあり少しばかり気が重い。

「はい、できました。完璧です!」

 シルヴィアの髪を結っていた侍女・ロザリーが、パンッと満足げに手を叩く。それで、シルヴィアは正面の鏡に視線を戻した。
 今日の髪型のテーマは『夏』のようだ。普段はおろしている純白の髪が、ロザリーの手によってせんさいに編み込まれ、くるりとすっきりまとめられている。アクセントとして結ばれた水色のリボンが、ヒラヒラと揺れて可愛らしい。

「ありがとう。とっても素敵ね」
「お嬢さまが学園に戻ったら、こうして髪を結ってさしあげられないですからね。今日は特に気合を入れて、おめかしさせていただきました」

 シルヴィアが褒めると、ロザリーはえへんと胸を張る。
 ロザリーはアルファルドよりも年上のはずだが、童顔のせいでシルヴィアより年下に見える。ロザリーには内緒だが、妹がいたらこんな感じだろうかと、シルヴィアは時々思う。
 鏡越しに、シルヴィアは微笑ほほえんだ。

「ロザリーともしばらくお別れと思うと、寂しくなるわ」
「本当ですよ! 学園がずっとお休みか、私もアルファルドさんみたいに学園にご一緒できたら良かったのに!」

 貴族の子女の自立をうながす意味もあり、王立学園は侍女や従者をともなっての入寮を認めていない。そのルールは、たとえ王族であっても同じだ。
 そんな中、アルファルドがなぜ学園についていけるのかというと、彼も王立学園の生徒だからだ。
 遅咲きではあったが、アルファルドの魔力は学園の規定値を満たしており、エイワスの口添えで入学した。
 例外的に二年遅れでシルヴィアと同学年であるものの、従者ではなく学友としてそばにいるのなら問題ない。

(アルとは、これからも毎日、学園でも会える……)

 改めてそう考え、シルヴィアは頭の中心がぽやぽやとなごむのを感じた。
 最近、なぜか彼のことを考えると、シルヴィアはふわふわした心地にとらわれてしまう。
 彼女はぱたぱたと手で顔をあおいだ。
 そんなシルヴィアをよそに、ロザリーは無邪気にシルヴィアの膝の上を覗き込む。

「そういえば、そのご本は読み終わったのですか?」
「あ、ええ。とても勉強になったわ」

 ちょうど髪を結ってもらっている間に読み終わった分厚い書籍を膝の上に立てて、シルヴィアは目を輝かせた。
 勉強熱心な彼女にしては珍しく、魔法理論や領地経営に関する書物ではない。書斎のすみにあった、魔法医学の専門書だ。

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