会いたいが情、見たいが病

雪華

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◆第三幕 同窓会◆

仕方ない②

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「ところで、茶益園に行った後もずっと浅草にいたんですか? 夕方から今まで、結構時間がありましたよね」
「浅草寺と仲見世を見て回ったんだ」

 劇場に行ったことをなるべく伏せたい陸は即答した。けれど、その答えでは哲治の疑念は拭えなかったらしい。

「その二カ所だけ?」

 そう聞き返されれば、当然佐々木が「そのあと大衆演劇を観てきました」と素直に答えてしまう。

「へぇ。大衆演劇を」
「あぁ……うん。佐々木さんはレトロな建物が好きなんだって。花やしきに向かう途中でたまたま通りかかったら、劇場に興味を持ってさ」

 あくまでも偶然だったことを陸は強調する。まだ誤魔化せるはずだ。大衆演劇で清虎を連想したとしても、まさか本人が戻って来ているとは思わないだろう。

 陸は落ち着かない心臓を鎮めるために、冷えたビールを口に含んだ。早く話題を変えてしまおう。そう思い深澤に視線を向けると、深澤もこちらを見ていたようで目が合った。先ほどの心配そうな色は消え、今度は何かを探るような雰囲気がある。
 嫌な予感がした。

「佐伯くんさ。あの綺麗な女形おやまと、もしかして知り合いだった? 握手してる時、何だか『役者と客』って感じじゃなかったから」

 よりによって、一番隠しておきたいことを晒された。陸の顔から血の気が引いていく。哲治の目を見ることが出来ない。

「綺麗な女形」

 哲治が深澤の言葉を繰り返す。今度は哲治の表情を観察するように、深澤がカウンター越しに身を乗り出した。

「本当に、驚くほど美しい花魁姿でしたよ。息を呑むとは、ああいう時に使うんでしょうね。最高級の遊女に、一晩で何十両もの大金をはたいてしまう客の気持ちが解ったような気がします」
「何て言うんですか? その役者の名前」
「確か、城鐘零」
「へぇ。知っている名前ではないけど、芸名かな。ねぇ、陸。その女形はそんなに綺麗だったの? 会ってみたいなぁ。明日一緒に観に行こうよ」

――ああ。きっと哲治は気付いてしまった。
 陸は抑揚なく「一度観たから充分」と答える。もうビールの味はしない。

「勿体ないなぁ。私が浅草に住んでたら、絶対に毎日通うのに。宝の持ち腐れじゃないの、罰が当たるよ」
「じゃあ佐々木さん、本当に引っ越して来れば? ついでに哲治と付き合っちゃいなよ」

 冗談めかして陸を責める佐々木に、陸もニヤッと笑って応戦した。どこか自分を俯瞰して見ているような、何もかもどうでもいい気分になる。

「もう、からかわないでよ。佐伯くんがそんな軽口を叩く人だと思わなかった」

 他愛ない会話でケラケラ笑う陸は、傍からは上機嫌に見えただろう。
 店は相変わらず混み合っていて、いつの間にかカウンター席も全て埋まっていた。哲治は忙しそうに手を動かし、次々とオーダーをこなしていく。おかげであれ以上追及されることもなく、陸はこっそり安堵する。

 三杯目のビールを飲み干した頃、そろそろ出ようかと深澤が言った。佐々木は名残惜しそうだったが、早く解放されたい陸は直ぐに立ち上がる。伝票を掴んで会計に向かう前に、深澤が哲治に告げた。

「ご馳走様でした。また来ます」
「ありがとうございました。もっとゆっくり話したかったな。また来てください」

 作業の手を止めて哲治が顔を上げる。陸は酔ったフリをして、哲治と目を合わせないまま背を向けた。笑顔で会釈する深澤の後に続いて、振り返らずに店を出る。
 夜も更け、喧騒の遠のいた街の空気は、少しだけひんやりしていた。
 ぐっと両腕を突き上げ、思い切り伸びをした佐々木が「もう一軒行きましょうよ」と明るく笑う。

「ダメダメ、もう遅いからね。今日は解散」

 深澤が手を挙げて一台のタクシーを停めた。運転手に五千円札を渡した後、佐々木に乗るよう促す。

「えっ、お金」
「お釣りがあったら月曜によろしく。じゃあ、気を付けて帰ってね」
 
 有無を言わせず後部座席に佐々木を押し込め、深澤がバイバイと手を振った。走り出したタクシーを見送り、ふうっと息を吐く。その背中に向かって、陸が声を掛けた。

「あの。飲み代、払わせてください」
「いらないよ。今日は無事に契約が決まったお祝い。佐伯くんにもお世話になったから、お礼くらいさせて」

 何を言っても飲み代は受け取って貰えなそうな雰囲気に、陸は諦めて「ご馳走様です」と頭を下げた。それでいいと言わんばかりに、満足そうに深澤が頷く。

「今日は佐伯くんの意外な一面がたくさん見れたなぁ。キミ、実はかなり気が強いでしょ」
「そんなことないですよ」
「いや、そうだよ。大人しいフリしてるだけ。気が弱くて人付き合いを避けてるのかと思ったけど、本当の理由って何?」
「そんな、フリだなんて」

 陸は心外そうに顔を歪め、不機嫌さを露わにする。
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