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第二部:1章:お騒がせ新学期
153話:聖女争奪戦①
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戦いが始まってもネルカは動き出さなかった。
彼女はできる限りは先輩方に任せるつもりなのだ。
そんな中、ウェイグは戦いながら、動かないネルカを見た。
(こんなにも本人だってのに、最初は双子だと信じちまった。ギウスレア皇太子から逃れるための男装だとは聞いたが…おかげでややこしくなってんなぁ。)
彼は迫って来る剣をかわすと、袈裟斬りをお見舞いした。結界内かつ模擬剣によるものとは言え、斬られた男は吹っ飛ばされると、呻きながらその場に膝を着けた。
すると、会場脇に控えていた王宮騎士団が男に近づき、そのまま会場外まで連れ出したのだった。コロシアムにて乱戦など初めてのことだったため、安全を考慮して脱落者は迅速に回収が行われるのだ。
「…さて、この数、どうすっかな。」
入れ替わるように現れた新たな刺客――数は四。
いくらウェイグが騎士科の上澄みと言えども、人数差を覆せるほどというわけではない。相手は連携など取る気すらなく、互いで牽制すらしている始末だが、それでも四人同時ともなればさすがにと言うものがある。
振るわれた一太刀を剣で受ける。
彼は力技で払い返すが、続いて襲う別の二人からの攻撃に、身を躱す以外のことはできない。しかしながら、躱した先にはもう一人が――ウェイグの右肩へと直撃した。
「ぐぅッ!」
彼はよろめきながらも、倒れるまでは至らぬように踏ん張る。
それでも敵は待ってなどくれやしない。追撃が迫る。
(クソッ、アレをやるか…。)
ウェイグは腰を落とすと、自身の魔力を昂らせた。そして、ネルカのように必要な動きの箇所だけに魔力を巡らせ、最大出力の人体強化を実行させた。
「ハァッ!」
ウェイグの姿がブレる。
次の瞬間、襲い掛かって来た三人が宙へと舞った。
残るは一人、突然のことで状況を理解していないのか、ウェイグを襲うことを中断させることはしない。対してウェイグは、身体強化に使用している魔力を移動させ――
――ガクンと右膝が崩れてしまう。
「チィッ!」
ネルカ式身体強化の欠点、それは魔力の調整の難しさだ。
全身にあらかじめ魔力を行き渡らせていた場合、必要となるのは筋肉による力みだけであり、そんなものは無意識のうちに勝手に調整される。しかし、ここに魔力の配分が加わるとなると話は別――意識して配分する必要が現れるのだ。
少しでも配分を間違えてしまったらどうなるか?
ウェイグがなったように、動きが崩れてしまう。
「もらったッ!」
残った一人がウェイグへと襲う。
退場確定と思えるような一撃だった。
「させないです!」
そんな彼を救ったのはコルナールだった。
彼女は横から割り込んで模擬剣で受けると、攻撃を横へとそらす。そして、腰を落としながら一回転し、遠心力を使って男の胴体へと一撃を放った。よろめいた体を持ち直す頃には、彼の目の前には剣先が突き出されていた。男は両手を上げ降参のポーズをすると、自分から結界の外側へと歩いて行った。
「やるじゃねぇか。」
「どうもです。」
ウェイグは立ち上がると、最初に攻撃を受けた肩をさする。
掌の開閉を繰り返し問題がないことを確かめると、混戦状態となっている会場を見渡しながら、しみじみと呟くのだった。
「しかし、死神式の身体強化も難しいな…よくもまぁ、こんな怪物行為、生き死にの実戦でやってられるぜぇ…。悔しいが、立っているステージが段違いだ。」
「ネルカ様ですから、当然です。」
そうこうしているうちに、トムスとオーバルもまた近くに寄っていた。しかしながら、二人もまた数の暴力に押されているようで、トムスはウェイグとコルナールの姿を見ると声を上げた。
「無駄話をしている暇はないっすよ!」
「テメェらも大変そうだな。」
「あぁ、そうなんだよ。思ったよりは集中狙いされなかったけど、思ったよりは気が猛っていてね。少なくとも、単独行動が許されるような状況ではないかな。」
「ふぅん…で? オーバル、何か策でもあんのか?」
「………角を背にすれば、もう少し戦いやすいはずだ。」
「悪かねぇ。賛成だ。」
牽制をしながらの移動。
ネルカはその作戦に従う様に共に移動するが、それでもなお戦いの本腰を上げる様子は一切なかった。見定めているのか、それとも待っているのか――会場を注意深く見渡している。
一触即発の睨み合い。
先に痺れを切らしたのはどちら側だったか。
あるいは両方だったかもしれない。
剣を持つ手に力が入り、それぞれが一歩を踏み出した。
そんな時だった――
「「「「ッ!?」」」」
ネルカから感じられた魔力の揺れ。
そこのいる者を止めるには十分すぎるほどの昂り。
コルネルの正体を知らぬ者ですら、足を止めるほどのもの。
しかし、当の本人は空を見上げているだけだった。
近くにいた者は、釣られて同じ方向を見る。
会場の中心、その真上――空中に誰かがいる。
「あぁもう! どうしてそっちが来るのよ!」
その人物はそのまま落下すると、結界の中へと入り会場へと降り立った。そんな急に現れた異質な存在に、ネルカの周囲に限らず会場にいる者すべての視線が集まったのであった。ただ一人トムスだけは「高い所からの登場が好きな方っすねぇ。」と遠い目をして呟いていた。
現れた人物は立ち上がると、乱れた金色の剛毛をかき上げる。
そして、周囲の困惑などよそに、声を張り上げるのであった。
「フハッハ~! 俺も参加させてもらうぞ!」
ギウスレア皇太子――参戦。
彼女はできる限りは先輩方に任せるつもりなのだ。
そんな中、ウェイグは戦いながら、動かないネルカを見た。
(こんなにも本人だってのに、最初は双子だと信じちまった。ギウスレア皇太子から逃れるための男装だとは聞いたが…おかげでややこしくなってんなぁ。)
彼は迫って来る剣をかわすと、袈裟斬りをお見舞いした。結界内かつ模擬剣によるものとは言え、斬られた男は吹っ飛ばされると、呻きながらその場に膝を着けた。
すると、会場脇に控えていた王宮騎士団が男に近づき、そのまま会場外まで連れ出したのだった。コロシアムにて乱戦など初めてのことだったため、安全を考慮して脱落者は迅速に回収が行われるのだ。
「…さて、この数、どうすっかな。」
入れ替わるように現れた新たな刺客――数は四。
いくらウェイグが騎士科の上澄みと言えども、人数差を覆せるほどというわけではない。相手は連携など取る気すらなく、互いで牽制すらしている始末だが、それでも四人同時ともなればさすがにと言うものがある。
振るわれた一太刀を剣で受ける。
彼は力技で払い返すが、続いて襲う別の二人からの攻撃に、身を躱す以外のことはできない。しかしながら、躱した先にはもう一人が――ウェイグの右肩へと直撃した。
「ぐぅッ!」
彼はよろめきながらも、倒れるまでは至らぬように踏ん張る。
それでも敵は待ってなどくれやしない。追撃が迫る。
(クソッ、アレをやるか…。)
ウェイグは腰を落とすと、自身の魔力を昂らせた。そして、ネルカのように必要な動きの箇所だけに魔力を巡らせ、最大出力の人体強化を実行させた。
「ハァッ!」
ウェイグの姿がブレる。
次の瞬間、襲い掛かって来た三人が宙へと舞った。
残るは一人、突然のことで状況を理解していないのか、ウェイグを襲うことを中断させることはしない。対してウェイグは、身体強化に使用している魔力を移動させ――
――ガクンと右膝が崩れてしまう。
「チィッ!」
ネルカ式身体強化の欠点、それは魔力の調整の難しさだ。
全身にあらかじめ魔力を行き渡らせていた場合、必要となるのは筋肉による力みだけであり、そんなものは無意識のうちに勝手に調整される。しかし、ここに魔力の配分が加わるとなると話は別――意識して配分する必要が現れるのだ。
少しでも配分を間違えてしまったらどうなるか?
ウェイグがなったように、動きが崩れてしまう。
「もらったッ!」
残った一人がウェイグへと襲う。
退場確定と思えるような一撃だった。
「させないです!」
そんな彼を救ったのはコルナールだった。
彼女は横から割り込んで模擬剣で受けると、攻撃を横へとそらす。そして、腰を落としながら一回転し、遠心力を使って男の胴体へと一撃を放った。よろめいた体を持ち直す頃には、彼の目の前には剣先が突き出されていた。男は両手を上げ降参のポーズをすると、自分から結界の外側へと歩いて行った。
「やるじゃねぇか。」
「どうもです。」
ウェイグは立ち上がると、最初に攻撃を受けた肩をさする。
掌の開閉を繰り返し問題がないことを確かめると、混戦状態となっている会場を見渡しながら、しみじみと呟くのだった。
「しかし、死神式の身体強化も難しいな…よくもまぁ、こんな怪物行為、生き死にの実戦でやってられるぜぇ…。悔しいが、立っているステージが段違いだ。」
「ネルカ様ですから、当然です。」
そうこうしているうちに、トムスとオーバルもまた近くに寄っていた。しかしながら、二人もまた数の暴力に押されているようで、トムスはウェイグとコルナールの姿を見ると声を上げた。
「無駄話をしている暇はないっすよ!」
「テメェらも大変そうだな。」
「あぁ、そうなんだよ。思ったよりは集中狙いされなかったけど、思ったよりは気が猛っていてね。少なくとも、単独行動が許されるような状況ではないかな。」
「ふぅん…で? オーバル、何か策でもあんのか?」
「………角を背にすれば、もう少し戦いやすいはずだ。」
「悪かねぇ。賛成だ。」
牽制をしながらの移動。
ネルカはその作戦に従う様に共に移動するが、それでもなお戦いの本腰を上げる様子は一切なかった。見定めているのか、それとも待っているのか――会場を注意深く見渡している。
一触即発の睨み合い。
先に痺れを切らしたのはどちら側だったか。
あるいは両方だったかもしれない。
剣を持つ手に力が入り、それぞれが一歩を踏み出した。
そんな時だった――
「「「「ッ!?」」」」
ネルカから感じられた魔力の揺れ。
そこのいる者を止めるには十分すぎるほどの昂り。
コルネルの正体を知らぬ者ですら、足を止めるほどのもの。
しかし、当の本人は空を見上げているだけだった。
近くにいた者は、釣られて同じ方向を見る。
会場の中心、その真上――空中に誰かがいる。
「あぁもう! どうしてそっちが来るのよ!」
その人物はそのまま落下すると、結界の中へと入り会場へと降り立った。そんな急に現れた異質な存在に、ネルカの周囲に限らず会場にいる者すべての視線が集まったのであった。ただ一人トムスだけは「高い所からの登場が好きな方っすねぇ。」と遠い目をして呟いていた。
現れた人物は立ち上がると、乱れた金色の剛毛をかき上げる。
そして、周囲の困惑などよそに、声を張り上げるのであった。
「フハッハ~! 俺も参加させてもらうぞ!」
ギウスレア皇太子――参戦。
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