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第二部:1章:お騒がせ新学期
154話:聖女争奪戦②
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突然の帝国の皇子の登場。
ギウスレアは困惑する周囲など気にすることもなく目を険にしながら、コルネルだけを視界に入れる。しかし、恨みなどの負の気持ちなどでは決してなく、どこか悔しさを含ませた怒りであった。
そして、彼は声を張り上げた。
「おい、コルネルよ!」
「なんだ!」
コルネル――もといネルカも負けずの声量でギウスレアに返事をする。やり取りの雰囲気だけならば、仲の良い者同士の喧嘩に近いものがあり、周囲は空気を読んで静観を決め込んだのだった。
「親友…いや、兄に黙っていた罪は重いぞ!」
「いつ私たちはそんな関係になったんだ!」
「挨拶の握手、あの瞬間からだ!」
「それに、兄だとしても私の方だ! 殿下が弟だ!」
「フハッハ~! それも含めて、今から白黒つけようぞ!」
そう言うと、ギウスレアは後腰に備えていた武器を取り出した。二振りの鉄棍、だが持ち手が棍の途中につけられており、不揃いなT字型――マリアンネの前世で『トンファー』と呼ばれる武器に類似していた。
見慣れぬ武器にネルカですら眉をひそめる中、知った反応を示したのはコルナールだけだった。
「あれは…旋棍です!?」
「旋棍だぁ…?」
「はい、帝国のさらに北の地で使われる護身用の武器です。私も…聞いたことがあるだけで…実際に見たのは初めてです…。」
ギウスレアは悠然とネルカの方へと歩き始めた。
しかし、目の前に集団が立ちはだかった。
「帝国へ復讐のチャンスだ!」
「皇太子さんよぉ、ここに立つってことの意味、分かるか?」
「今日は、どれだけ攻撃しても許される日だ。」
「ヒッヒッヒ! 恨むんじゃねぇぜ!」
参加して残っているうちの大半、人数はおよそ20人ほど。
彼らのうち数人は聖女争奪戦の間でも集団戦を仕掛けることはあったが、結局最後は一人しか残れないことを知っていたため、決定的な連携を臨むことはできなかった。ウェイグたちを襲った者たちも同じだ。
しかし、今は違う。
彼らは嫌いな帝国の奔放皇太子を叩きのめすという、完全一致の目的が生じていたのだ。訓練ですら見せることのなかった団結力を、ここに来て発揮させたのであった。
ギウスレアは嬉しそうに舌なめずりをする。
「確かルールは乱戦…全員蹴散らしたら勝ちということだな?」
「「「「潰すッ!」」」」
動き出したのは同時。
だが、速いのはギウスレアだった。
一瞬とも思えるような時間で集団のうちの一人が吹き飛んだ。そこには右手に持った旋棍を突き出したギウスレアが立っており、さらに次の瞬間には左手の旋棍を回転させたのち、近くにいた別の者を叩き飛ばしていた。そこから続いて身をかがめると、三人ほどの脇腹を殴ってダウンさせる。
「フハッハ~! 雑兵共が! どれだけ盛ろうが、塵は塵よ!」
それでも足を止めない騎士科の生徒たちは、ギウスレアに対して攻撃をしかける。しかしながら、まるで消えたかのように錯覚するほどの速度で回避されると、瞬きの時間のうちに人が殴り飛ばされていく。
「盛るなら、山になってから出直せい! 数が足りんぞ!」
そんな蹂躙をネルカは冷静に見ていた。
彼が扱う旋棍という武器について彼女は分析していた。
拳として、籠手として、棍として――多機能を重視した武器。
殴る動作を主とし、肘まで達する棒部で攻撃を防ぎながら、持ち手を回転させれば防ぐ部分は叩く部分へと変貌する。まさしく格闘の拡張装備とでも言えるだろう。
しかし、打撃武器だ。
確かに、この世界では魔力膜により斬撃の効力は薄い
しかし、主流の武器が剣であり続け、熟練者でもそれなりの防具を身につけているのは――『とは言え』だからだ。だからこそ、第一部隊副隊長のアルタンのように打撃武器を使用するも者は、刃物を扱う利点を上回るほどの『暴力』を有している場合に限るのだ。
つまり、ギウスレアも同じ。
旋棍を使う方が利点であるほどの、暴力を有しているということ。
(これは…私が出ないと厳しいかしら…?)
そうこうしているうちに、人数は半分ほどまで減っている。
だが、人間一人を囲うだけはまだ残ってはいる。
そんな時だった。
ギウスレアは構わず蹂躙を続けていたが、一つだけ違和感を抱いていた。その違和感というのは、あまりにも相手が弱すぎるという違和感だ。確かにここにいるのは生徒たちであり、そこまで強い者がいないというのは当然なのだが、時々来るピリリとした殺気が届くのだ。
ギウスレアと比べた決して強者とは言えない気配。
だが、殺す気で立ち回っている者だ。
(………ん?)
視界の右端、新たに叩き飛ばした二人の男。
二人の間、ギラリとした目が覗かせていた。
そして、ぬるりと這うように現れたのは――ウェイグだった。
(こいつか!)
狩る者の目、野生の目。
ウェイグは魔力を昂らせると――
「ハァッ!」
「ぐぬッ!」
寸でのところでギウスレアの防御が間に合った。
そして、不自然な力が働いたと感じてしまうほど、無理な体勢でウェイグの剣を弾くのだった。そのまま反撃をしようとしたところ、横からオーバル、続いてトムス、最後にコルナールによる休む暇を与えない連携を繰り出される。
ギウスレアはたまらず距離を取った。
彼は頬を伝う冷や汗を拭う。
「クソッ! 奇襲はダメか!」
「ハァ…合図もなく出るな。問題児は相変わらずだ…。」
「喧嘩は辞めるっす~。」
「強い相手です! 連携するです!」
「フハッハ~! 良いぞ! 楽しい! このギリギリがたまらん!」
それでも、ウェイグが惜しかったのは奇襲だったからだ。
四人の中でその事実を理解していたのはオーバルだけだった。
と同時に、彼だけが自身の背後の存在に気が付いていた。
勝ちの目が見えたと、オーバルは感じ取った。
「よし、私も参戦するとしようか。」
そこには剣を構えたコルネルの姿があった。
ギウスレアは困惑する周囲など気にすることもなく目を険にしながら、コルネルだけを視界に入れる。しかし、恨みなどの負の気持ちなどでは決してなく、どこか悔しさを含ませた怒りであった。
そして、彼は声を張り上げた。
「おい、コルネルよ!」
「なんだ!」
コルネル――もといネルカも負けずの声量でギウスレアに返事をする。やり取りの雰囲気だけならば、仲の良い者同士の喧嘩に近いものがあり、周囲は空気を読んで静観を決め込んだのだった。
「親友…いや、兄に黙っていた罪は重いぞ!」
「いつ私たちはそんな関係になったんだ!」
「挨拶の握手、あの瞬間からだ!」
「それに、兄だとしても私の方だ! 殿下が弟だ!」
「フハッハ~! それも含めて、今から白黒つけようぞ!」
そう言うと、ギウスレアは後腰に備えていた武器を取り出した。二振りの鉄棍、だが持ち手が棍の途中につけられており、不揃いなT字型――マリアンネの前世で『トンファー』と呼ばれる武器に類似していた。
見慣れぬ武器にネルカですら眉をひそめる中、知った反応を示したのはコルナールだけだった。
「あれは…旋棍です!?」
「旋棍だぁ…?」
「はい、帝国のさらに北の地で使われる護身用の武器です。私も…聞いたことがあるだけで…実際に見たのは初めてです…。」
ギウスレアは悠然とネルカの方へと歩き始めた。
しかし、目の前に集団が立ちはだかった。
「帝国へ復讐のチャンスだ!」
「皇太子さんよぉ、ここに立つってことの意味、分かるか?」
「今日は、どれだけ攻撃しても許される日だ。」
「ヒッヒッヒ! 恨むんじゃねぇぜ!」
参加して残っているうちの大半、人数はおよそ20人ほど。
彼らのうち数人は聖女争奪戦の間でも集団戦を仕掛けることはあったが、結局最後は一人しか残れないことを知っていたため、決定的な連携を臨むことはできなかった。ウェイグたちを襲った者たちも同じだ。
しかし、今は違う。
彼らは嫌いな帝国の奔放皇太子を叩きのめすという、完全一致の目的が生じていたのだ。訓練ですら見せることのなかった団結力を、ここに来て発揮させたのであった。
ギウスレアは嬉しそうに舌なめずりをする。
「確かルールは乱戦…全員蹴散らしたら勝ちということだな?」
「「「「潰すッ!」」」」
動き出したのは同時。
だが、速いのはギウスレアだった。
一瞬とも思えるような時間で集団のうちの一人が吹き飛んだ。そこには右手に持った旋棍を突き出したギウスレアが立っており、さらに次の瞬間には左手の旋棍を回転させたのち、近くにいた別の者を叩き飛ばしていた。そこから続いて身をかがめると、三人ほどの脇腹を殴ってダウンさせる。
「フハッハ~! 雑兵共が! どれだけ盛ろうが、塵は塵よ!」
それでも足を止めない騎士科の生徒たちは、ギウスレアに対して攻撃をしかける。しかしながら、まるで消えたかのように錯覚するほどの速度で回避されると、瞬きの時間のうちに人が殴り飛ばされていく。
「盛るなら、山になってから出直せい! 数が足りんぞ!」
そんな蹂躙をネルカは冷静に見ていた。
彼が扱う旋棍という武器について彼女は分析していた。
拳として、籠手として、棍として――多機能を重視した武器。
殴る動作を主とし、肘まで達する棒部で攻撃を防ぎながら、持ち手を回転させれば防ぐ部分は叩く部分へと変貌する。まさしく格闘の拡張装備とでも言えるだろう。
しかし、打撃武器だ。
確かに、この世界では魔力膜により斬撃の効力は薄い
しかし、主流の武器が剣であり続け、熟練者でもそれなりの防具を身につけているのは――『とは言え』だからだ。だからこそ、第一部隊副隊長のアルタンのように打撃武器を使用するも者は、刃物を扱う利点を上回るほどの『暴力』を有している場合に限るのだ。
つまり、ギウスレアも同じ。
旋棍を使う方が利点であるほどの、暴力を有しているということ。
(これは…私が出ないと厳しいかしら…?)
そうこうしているうちに、人数は半分ほどまで減っている。
だが、人間一人を囲うだけはまだ残ってはいる。
そんな時だった。
ギウスレアは構わず蹂躙を続けていたが、一つだけ違和感を抱いていた。その違和感というのは、あまりにも相手が弱すぎるという違和感だ。確かにここにいるのは生徒たちであり、そこまで強い者がいないというのは当然なのだが、時々来るピリリとした殺気が届くのだ。
ギウスレアと比べた決して強者とは言えない気配。
だが、殺す気で立ち回っている者だ。
(………ん?)
視界の右端、新たに叩き飛ばした二人の男。
二人の間、ギラリとした目が覗かせていた。
そして、ぬるりと這うように現れたのは――ウェイグだった。
(こいつか!)
狩る者の目、野生の目。
ウェイグは魔力を昂らせると――
「ハァッ!」
「ぐぬッ!」
寸でのところでギウスレアの防御が間に合った。
そして、不自然な力が働いたと感じてしまうほど、無理な体勢でウェイグの剣を弾くのだった。そのまま反撃をしようとしたところ、横からオーバル、続いてトムス、最後にコルナールによる休む暇を与えない連携を繰り出される。
ギウスレアはたまらず距離を取った。
彼は頬を伝う冷や汗を拭う。
「クソッ! 奇襲はダメか!」
「ハァ…合図もなく出るな。問題児は相変わらずだ…。」
「喧嘩は辞めるっす~。」
「強い相手です! 連携するです!」
「フハッハ~! 良いぞ! 楽しい! このギリギリがたまらん!」
それでも、ウェイグが惜しかったのは奇襲だったからだ。
四人の中でその事実を理解していたのはオーバルだけだった。
と同時に、彼だけが自身の背後の存在に気が付いていた。
勝ちの目が見えたと、オーバルは感じ取った。
「よし、私も参戦するとしようか。」
そこには剣を構えたコルネルの姿があった。
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