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17.アメリアの怒り
しおりを挟む「あんたみたいなちっぽけな人間が、ノア様に抱きしめられて血を吸われたなんて、ふざけるんじゃないわよ!」
アメリアはそう叫んで怒り狂い、足を踏み鳴らしている。仮にもメイドのやることとは到底思えず、僕はため息をついた。
「君がノアを助けてくれって言ったんだろ。それに僕は、抱きしめられたなんてひとことも言ってない」
「言われなくたってわかるわ。抱きしめないで血なんか吸えっこないじゃない」
……確かにそうだけど。
僕はノアの腕の中にいた時間のことを思って赤面しそうになり、慌てて苦い表情を作った。
「……なあアメリア、なんでそんなに怒ってるんだ? ノアが助かって昨日は喜んでたはずだろ」
「いまだって嬉しいわよ、とっても!! でも、やっぱり悔しいのよ!!」
そう叫ぶとまた地団駄を踏む。駄々をこねる子どものようで、僕は呆れを通り越して少し可愛くすら思えてきた。もともとアメリアは美少女なので、自分の内にある新しい扉さえ開いてしまえば、その態度の悪さも癇癪も、すべて可愛いで片付けられるようになりそうな気がしないでもない。
昨夜、僕の血を吸って復活したノアがアメリアに元気な顔を見せにいくと、彼女は後ろから追いかけるようにして現れた僕に、あろうことか抱きついてまでお礼を言ってきた。「あんたは最高よ! 本当にありがとう!」などと言って泣きながら笑っていたくせに、いまやなぜか文句を言われている。
「アメリアは本当に、ノアのことが好きなんだね」
気がついたらつぶやいていた。
「なによ今さら。私はノア様が封印されるずっとずっと前から、何百年も前から、彼のことを想ってるんだから」
「そんなに昔から知り合いなの?」
「そうよ。だからね、私に勝とうなんて考えちゃダメなのよ」
「考えてないよ……僕がアメリアに勝てる部分なんか、あるわけないってわかってるから」
それは紛れもない本音だった。アメリアは僕の答えに満足したらしく、意地悪そうな笑みを浮かべ、満足げに鼻を鳴らしている。
そこへ突然静かな声が響いた。
「なにを騒いでいるんだ? いつの間にかすっかり仲良くなったみたいだな、お前たちは」
ドアが開き、ノアが現れたので僕は硬直してしまった。アメリアはさっきまでとは違う純粋な笑顔を浮かべ、おはようございますと嬉しそうに挨拶している。
「……ノア、おはよう」
なるべく自然に見えるように気をつけながら、僕も口を開いた。なぜか血を吸われて以降、どうもノアに対しての態度がぎこちなくなってしまうのだ。
ノアは無言のまま僕をじっと見つめ、そして口の端を持ち上げて意味深な笑顔を浮かべる。僕は心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「おはよう、ウィリー」
僕とノアの間で交わされる不可解な視線に気がついたアメリアは、再び腹を立てたらしい。僕たちが見つめ合えないようわざとらしく間に割って入ってきたので、僕はあわてて目を逸らした。
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