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第五章:魔法士の産声
仮面魔闘会―決勝戦―
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「――ティアナ、最後の試合も出れるかい?」
「えっ、はい」
耳元で囁かれた声に、ハッと顔を上げる。
最後? あぁ、決勝戦ですか。
周囲を見渡すと通路の途中で、もう光の差し込む試合会場の手前。
あと数歩も行けば観客からも見える位置に出てしまうところまで来てしまっていました。
あれ……決勝戦は明日でしたよね?
気が付かない間に一日経った?
いえ、気にする必要などありませんね。
だって覚悟はとうに終わっています。
「今ならまだ引き返せるよ?」
「いいえ。行ってきますヴェルター」
フワフワする意識と、熱い身体を前に運ぶ。
ヴェルターがわたしに出した『課題』まであと少し。
――青ゲート、ルミエル=アルフェン
……始まりましたね。
わたしはこの後の赤ゲートで呼ばれるはず。
あぁ、早く戦いたいと心がざわつく。
痛みを終わらせるため。
この身体の熱を抑えるため。
そして魔法を使うため。
早く速く疾くはやくハヤク……この不満を発散したい。
――赤ゲート、金獅子!
さぁ、始めましょう――
・
・
・
舞台の中央に金獅子と名乗る、制服にマフラーとゴーグルを身に着けて容姿を偽る少女が登る。
異様な姿で一言も交わさず静かに戦い、類を見ない不自然な決着を繰り返す、不思議な魅力で視線を惹き付けていた。
ゆらゆらと夢遊病患者のように歩く彼女に観衆の視線が集中する。
これは学生同士の大会だ。
名簿に存在する情報……顔や名前や家系はもちろん、戦闘スタイルから食べ物の好みまで、ありとあらゆる情報が手に入る。
成績が掛かっているのだ。わざわざ身元を隠してまで参加する意味などないはずが、彼女に限っては何もない。
対峙者からするとこんなにも恐ろしいことはないイレギュラーだった。
それは決勝まで勝ち残ったルミエル=アルフェンも同じ。
負けるかもしれないという不安に駆られ、舞台上で声を掛けて無意識に情報収集に走っていが、金獅子はただゆらゆらと合図を待つだけ。
その揺らぐ姿は柳のようで、確信のない不気味さをルミエルに感じさせていた。
「さて、ティアナ。真価が問われる瞬間だ。君は変われるかな?」
客席から舞台上を見下ろす賢者の呟きは誰にも拾われない。
観客たちの興味は、一般的な勝ち負けではなく、金獅子の秘密に集約されていたからだ。
――両者、準備は準備はよろしいか?
審判員が口にした最後の確認に金獅子は変わらずだんまりを決め込み、ルミエルは何も答えない相手に見切りをつけて返事をする。
異を唱える者の居ない舞台に、ついに開始の合図が送られた。
開始直後にルミエルは強化の魔法を唱え終え、淡い光に包まれた。
初戦から通して真正面から突っ込んで制圧を続ける金獅子に対策した形の出だし。
だが、対する金獅子は開始されたというのに、ゆらゆらと揺らぐだけで一向に動く気配がない。
腰を落として警戒していたルミエルも、不思議そうに遠距離用の魔法の詠唱に入った。
周囲に浮かぶのは第三位階の《水球弾》。
射出した水の質量で押し潰す、主に制圧用に使われる魔法で、《火炎弾》とは違って周囲への被害も少なくて済む。
攻撃力の面から見ると劣っていても、この仮想戦場に限って言えば、魔力がどれだけ伴っているかでしかない。
命中さえすればどんな魔法も大して変わらないため、あとは使い勝手の問題だろう。
「何だか聞いていた雰囲気と違うなっ!!」
叫びに乗って発射された水球はゆらゆらと揺らぐだけの金獅子へと殺到する。
全部で五発。逃げ場を塞ぐように放たれた水球は背後の地面を濡らすだけ。
耐えたのなら金獅子の周囲に水を滴らせているはずなのに、まるで魔法すべてがすり抜けるような光景だった。
「何で当たらない!?」
疑問を口にしながらも新たな詠唱はなされているが、このたった一合のやり取りのみで会場全体がざわめき立っていた。
それはどの角度から見ても理由が分からないからだろう……ということを、周囲のざわめきから読み取る彼はとても優秀だ。
だから彼は第三位階の《水牢》を金獅子の周囲に三つ展開する。
観客は何をするのか、と興味をそそられる中で発動させるのは、それを踏み台に第四位階の範囲魔法、《水封爆》だった。
「行くぞ、金獅子!!」
不可解な現象に怯える心を叱咤するためルミエルは叫び、周囲に展開した三つの《水牢》が破裂させ押し潰す。
本来なら二段階も必要な魔法を悠長に待っている相手などいない。
だが、金獅子は未だふらふらとしているだけで動かないから発動したともいえるが、彼の正確な情報判断によるもの――
―――グルルルルゥゥ……
突如会場全体を震わせ、人が持つ根源的な恐怖を掻き立てる唸り声が響き渡った。
「えっ、はい」
耳元で囁かれた声に、ハッと顔を上げる。
最後? あぁ、決勝戦ですか。
周囲を見渡すと通路の途中で、もう光の差し込む試合会場の手前。
あと数歩も行けば観客からも見える位置に出てしまうところまで来てしまっていました。
あれ……決勝戦は明日でしたよね?
気が付かない間に一日経った?
いえ、気にする必要などありませんね。
だって覚悟はとうに終わっています。
「今ならまだ引き返せるよ?」
「いいえ。行ってきますヴェルター」
フワフワする意識と、熱い身体を前に運ぶ。
ヴェルターがわたしに出した『課題』まであと少し。
――青ゲート、ルミエル=アルフェン
……始まりましたね。
わたしはこの後の赤ゲートで呼ばれるはず。
あぁ、早く戦いたいと心がざわつく。
痛みを終わらせるため。
この身体の熱を抑えるため。
そして魔法を使うため。
早く速く疾くはやくハヤク……この不満を発散したい。
――赤ゲート、金獅子!
さぁ、始めましょう――
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舞台の中央に金獅子と名乗る、制服にマフラーとゴーグルを身に着けて容姿を偽る少女が登る。
異様な姿で一言も交わさず静かに戦い、類を見ない不自然な決着を繰り返す、不思議な魅力で視線を惹き付けていた。
ゆらゆらと夢遊病患者のように歩く彼女に観衆の視線が集中する。
これは学生同士の大会だ。
名簿に存在する情報……顔や名前や家系はもちろん、戦闘スタイルから食べ物の好みまで、ありとあらゆる情報が手に入る。
成績が掛かっているのだ。わざわざ身元を隠してまで参加する意味などないはずが、彼女に限っては何もない。
対峙者からするとこんなにも恐ろしいことはないイレギュラーだった。
それは決勝まで勝ち残ったルミエル=アルフェンも同じ。
負けるかもしれないという不安に駆られ、舞台上で声を掛けて無意識に情報収集に走っていが、金獅子はただゆらゆらと合図を待つだけ。
その揺らぐ姿は柳のようで、確信のない不気味さをルミエルに感じさせていた。
「さて、ティアナ。真価が問われる瞬間だ。君は変われるかな?」
客席から舞台上を見下ろす賢者の呟きは誰にも拾われない。
観客たちの興味は、一般的な勝ち負けではなく、金獅子の秘密に集約されていたからだ。
――両者、準備は準備はよろしいか?
審判員が口にした最後の確認に金獅子は変わらずだんまりを決め込み、ルミエルは何も答えない相手に見切りをつけて返事をする。
異を唱える者の居ない舞台に、ついに開始の合図が送られた。
開始直後にルミエルは強化の魔法を唱え終え、淡い光に包まれた。
初戦から通して真正面から突っ込んで制圧を続ける金獅子に対策した形の出だし。
だが、対する金獅子は開始されたというのに、ゆらゆらと揺らぐだけで一向に動く気配がない。
腰を落として警戒していたルミエルも、不思議そうに遠距離用の魔法の詠唱に入った。
周囲に浮かぶのは第三位階の《水球弾》。
射出した水の質量で押し潰す、主に制圧用に使われる魔法で、《火炎弾》とは違って周囲への被害も少なくて済む。
攻撃力の面から見ると劣っていても、この仮想戦場に限って言えば、魔力がどれだけ伴っているかでしかない。
命中さえすればどんな魔法も大して変わらないため、あとは使い勝手の問題だろう。
「何だか聞いていた雰囲気と違うなっ!!」
叫びに乗って発射された水球はゆらゆらと揺らぐだけの金獅子へと殺到する。
全部で五発。逃げ場を塞ぐように放たれた水球は背後の地面を濡らすだけ。
耐えたのなら金獅子の周囲に水を滴らせているはずなのに、まるで魔法すべてがすり抜けるような光景だった。
「何で当たらない!?」
疑問を口にしながらも新たな詠唱はなされているが、このたった一合のやり取りのみで会場全体がざわめき立っていた。
それはどの角度から見ても理由が分からないからだろう……ということを、周囲のざわめきから読み取る彼はとても優秀だ。
だから彼は第三位階の《水牢》を金獅子の周囲に三つ展開する。
観客は何をするのか、と興味をそそられる中で発動させるのは、それを踏み台に第四位階の範囲魔法、《水封爆》だった。
「行くぞ、金獅子!!」
不可解な現象に怯える心を叱咤するためルミエルは叫び、周囲に展開した三つの《水牢》が破裂させ押し潰す。
本来なら二段階も必要な魔法を悠長に待っている相手などいない。
だが、金獅子は未だふらふらとしているだけで動かないから発動したともいえるが、彼の正確な情報判断によるもの――
―――グルルルルゥゥ……
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