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しおりを挟む玲との関係は、あの日屋上で終わるものだと思っていた。
けれど、それは静の思い込みだったらしい。玲は、それ以降も静を見かけるたび、必ずといっていいほど何かしらのリアクションを起こすようになった。
移動教室で三年生の廊下を通ったときのことだ。
正面から玲が歩いてくるのが見えた。隣には、可愛らしい女子生徒が並んでいる。彼女だろうか。胸の奥が、きゅっと小さく痛んだ。
静は咄嗟に知らないふりをしようと、顔を俯ける。
どうせ、玲も自分のことなんて忘れている。そう言い聞かせるほど、すれ違う距離が縮まるにつれ、心臓の音はうるさくなる。
そして、すれ違う直前。
頭に、あの優しい感触が落ちてきた。
「やっほ。また会ったね」
静にしか聞こえないくらいの声でそう言って、玲はそのまま横を通り過ぎていく。
反射的に頭を押さえた。ほんの一瞬だったが、確かに玲の手がそこにあった。
背後から、「ねえ、あの子友達?」と女子生徒の声が聞こえる。
それに対して玲は、「そう。お友達」と、何でもないことのように答えた。
それだけで、静の鼓動は耳元で騒ぎ始めた。
別の日。
持久走の時間、静は歩いているのか走っているのかわからない速度でトラックを回っていた。
「豚、おっせえ」
「あいつが早く走り切れば、俺たちも早く終わんのに。マジきしょい」
悪意のこもった視線と罵声。早く終わらせたいのに、身体が言うことを聞かない。乾いた空気が喉に絡みつき、呼吸がうまくできなくなる。苦しくなって、思わず立ち止まった。
「早く走れよ!!」
怒鳴り声が飛んだ、その瞬間。
「頑張れー!! あとちょっと!!!」
頭上から、やけに明るい声が降ってきた。
顔を上げると、三階の教室の窓から身を乗り出して声を張っている玲がいた。視線が合うと、ぶんぶんと大きく手を振り、眩しすぎる笑顔を向けてくる。
次の瞬間、教師らしき男に襟首を掴まれ、玲はあっさり中へ引きずり込まれていった。
その様子に思わず笑いそうになる。
学校で笑いかけたのなんて、いつぶりだろう。
「あれ、天輝先輩じゃね。やっば、やっぱあの人超イケメンだわ」
「あれはすげえよな。まじで。俺の女友達も天輝先輩だけは別格すぎて近づけねえって言ってた。でもさ、今、先輩、俺たちに向けて頑張れって言ってなかった?」
「あ、確かに言ってた。やば優しすぎんだろ。」
自分が今まで知らなかっただけで玲は相当な有名人であったことを知った。そんな人が自分と仲良くしようとしてくれるなんて夢なんじゃないかと錯覚を覚えた。
また玲会いたい。そんな気持ちで静は屋上に通い続けた。いない日がほとんどだったが、玲は気まぐれで姿を現した。
そんな玲を静が好きになるのには時間はかからなかった。
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