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しおりを挟むさっき映画を見ていると言っていた蒴の視線はすっかりスマートフォンに奪われていてた。
菫の目もいつのまに映画から蒴へと向いて、肩に頭を預けながら蒴の顔を見上げる。
少し視線を下げただけでまつ毛の長さがより際立つ。髪の毛の色素は薄いのにまつ毛は黒く一本一本がしっかりとしていてとにかく長い。
下から見ると普通の人は普段より少しビジュアルが劣ったりするのに、蒴はどの角度から見てもビジュアルが劣らない。
ふと写真を撮りたいと思いこっそりスマートフォンを取り出し、カメラアプリを起動させ朔に向けた瞬間、蒴がこちらに気づき画面越しに目が合う。
「菫、勝手に撮らないでよ。盗撮。
貸して」
眉を寄せて怒ったような表情をしているものの、声は全く怒っていなくてむしろ優しくも聞こえる。
手元に持っていたスマートフォンは蒴から抜き取られて、今度は蒴が菫へとカメラを向ける。
「やだ!やだ!撮らないで!」
「こっそりじゃなくてこういう風に撮らないと」
顔を両手で覆い隠すもの、蒴が無理矢理菫の顔にある手をどかそうとする。
それに抵抗して顔を隠し続け、しばらくそんな攻防を繰り返していると蒴の動きがピタッと止まった。
「わかった
菫の勝ち、もう写真は撮りません」
蒴は笑みを浮かべながら両手を顔の横にあげて降参のポーズを取る。
「本当に…?」
「うん、これじゃあ撮れないでしょ?」
朔は両手をひらひらと動かす。
確かにその状態では写真は撮れない。
そういって力を抜いた瞬間、蒴が隙を見て菫の写真を撮った。
「あー!写真撮った!」
「ごめん、でも、菫も俺の写真撮るからおあいこでしょ?」
「でも、私のスマホに私の写真が入ってても別に嬉しくない…」
「なんで?こんな可愛いのに」
蒴は撮った写真を拡大する。
菫にはどこが可愛いのかわからない。
「2人で写真撮ろうよ」
このチャンスを逃すまいと、蒴の顔に自分の顔を寄せる。
蒴もその提案に仕方ないといった様子でカメラへと視線を送った。
内カメラに設定して2人の顔を映し出されると蒴の顔の小ささが際立った。
「蒴ちゃん、顔小さすぎ!
もっと前に行って」
自分の顔は極力小さく可愛く見せたいけど、蒴が隣にいてはそれが叶わないため
せめてもの願いとして菫より少し前にいってもらうもさほど効果はなかった。
「最近の女の子はそういうの気にするの?」
「え、だって男の人より顔でかいのは嫌だよ」
「菫は可愛いからいいんじゃない?
顔も十分小さいよ?」
蒴は菫の頬へと手を伸ばし輪郭をなぞるように優しく撫でる。
普段おしゃべりなはずなのにそんな場面になると、恥ずかしくて黙ってしまう。
「ちょっとからかいすぎた?」
「もう…」
蒴はフッと笑って、カメラの方へと向き直る。
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