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しおりを挟む「え?菫?菫ならそこに」
もうこれ以上隠れることはできないと思って、膝に埋めていた顔をそっとあげると、前から振り返った母が驚いた顔をして菫を見下ろしている。
「ってあんた
そんなとこで何やってんの?
蒴くんが心配してくれてたみたいよ」
「ママ、今日はありがとう
またすぐ遊びにいくね
パパにもよろしく言っといて」
「あ、ちょっと菫!」
いてもたってもいられず、車のドアを開けて外に飛び出す。苦しかった車内の空気から抜け出して外の空気を吸い込むと少し落ち着く気がした。
小走りでトランクに向かい、大きな紙袋を両手に持つ。
家にいるときは重いといって母親にごねていたのに、今は重いなんてことを気にする暇もなく、早足でエントランスへと向かう。
振り返ると車の窓から母親が心配そうに見ていたため、家に帰ったら連絡することにして今はとりあえず蒴から逃れることしか考えていなかった。
「菫」
強い口調で名前を呼ばれるけど、振り返らずにエレベーターを待っていると、肩を後ろに引かれ蒴と向き合う形になってしまう。
蒴は身長が高い為視線を上げようとしない菫には大きく上下している胸元しか見えない。
「何で連絡しないの?」
「何でって連絡しないことが蒴ちゃんに何か関係あるの?」
そう言った途端、両肩を強く掴まれる。
「関係あるでしょ
俺は菫を預かってる立場だよ?そんな菫に何かあったら俺は菫の家族に見せられる顔がない」
そんなことを言ってほしいんじゃない。
保護者としてではなくて、1人の女として見た言葉を言って欲しかったのに。
自分はやっぱり子供として見られていることを再確認されているようだった。
「私はもう子供じゃないよ
21歳の大人だよ」
恋愛もできる大人の女に見られたいのにどうしてもそれが叶わない。
そもそもそのラインに立たせてもらえないことが菫にとってもどかしい。
「わかってるけど、心配なんだよ
わかってよ…」
蒴は深い息をついて、菫の肩に額を預けた。久しぶりに感じる蒴の香りが苛立つような感情を落ち着かせた。
触れられた部分だけが少し暖かくなる。
ちょっと自分に目を向けられただけで機嫌をよくするなんて、主人が家に帰ってきたあとおもちゃを持って駆け寄る犬くらい単純だ。
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