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罪のありか
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しおりを挟む元義母へ小切手を渡すことはその後も続いた。負担になる額ではなかったのと、何より支払いを拒むことでキッドの命に関わることが怖かったのもある。
そして、元義母はリゼにとって間の悪い時にやって来た。朝の忙しい時や工房での来客中にその姿を見ると考えることが面倒になった。決まった額の小切手を渡せばすぐに帰ってくれる。
「本当にリゼは思いやりにあふれた人だわ。別れてもキッドの健康を考えてくれるなんて。何でこんないい奥さんを手放したのだか。あの子の最大の過ちよ。しょうのない息子でごめんね」
必ず大袈裟な感謝と息子に代わっての詫びもついてくる。リゼは返事もせず曖昧に微笑むだけだが。
「フランたら、はちみつを額に塗れば症状が和らぐなんて馬鹿なことを押しつけるから頭に来るわ。はちみつなんかで治ったら医者は商売あがったりじゃないの。キッドもね、あの気味悪い女の言うことに嫌気がさしているのよ。ため息ついているからわかるわ。わたしはあの二人、長く保たないのと見てるのよ」
キッドとフランの関係がその後どうなろうとリゼには関係がない。しかし、自分を踏みにじって結ばれた二人がぎくしゃくしていると聞くと、ちょっと胸がすくような気もした。
その日自宅に現れた元義母は、メイドの静止も聞かずに居間に入ってきた。ちょうどリゼはブーケと会っている時で、ばつの悪い思いをした。 元義母は勧められる前に椅子に座り、小切手を受け取った後も言いたいことを告げ終わるまでは帰ろうとしない。
「あら可愛いお客様ね。キッドもあんな性悪女に引っ掛からなければ、高級なここに今も住めてこんなお嬢さんくらい持てていたかもしれない。そう思うと情けないし、涙が出てくるわ」
ブーケの前でしてほしくない話題だった。見知らぬ女性の慎みのない振る舞いに、少女は怯えた表情を見せている。目にしたことのない状況が不安で怖いのだろう。
「お義母様、今日は日が悪いの。ご用はお済みでしょう。もうお帰り願えます?」
普段にない無礼に近い仕草でリゼは元義母を追い立てた。しかし、元義母は気を悪くする様子もない。
「あららら、お邪魔しちゃって。リゼに会うと嬉しいの。つい娘みたいに思ってしまうから。ごめんね、悪かったわ」
すぐに腰を上げ詫びてくれた。けろりと素直なところは憎めない。そもそもの原因はキッドだ。その母ではないのだから。
「あの方、どなた?」
元義母を見送り居間に戻ると、ブーケが問う。リゼは元義母が床に落としたクッションを拾い、元の場所に戻した。
「わたし、半年ほど前に離婚したの。その相手のお母様よ」
「……リゼ、嫌そうにお相手していたわ。会いたくない方なのではない?」
少女の観察力は見事だ。訪問に当惑した心情を言い当てられている。リゼは苦笑しつつも頷いた。
「頼みごとをされるとやっぱり無碍にもできなくて……。娘のように接していただいていたのは事実だし」
言いながら、彼女自身が問題をなあなあにしていることに気づかされる。
リゼが支払った金の使途、医者の診察を受けたのならその診断結果の説明、それを受けていつまで援助が必要か、その額は……。元義母と相談するべき内容だ。元義母が間の悪い時ばかりにやって来るため、それを話す余裕が持てずにきた。
その他、いつだって調子よくリゼを褒めてくれる元義母を落胆させたくない思いが、離婚したのちもある。今思えば、キッドより元義母の方がずっと彼女に優しかった。そして、これほど実母がリゼに肯定的だったら、と思わなかったと言えば嘘だ。
しかし、どうであれ、
(ブーケの前であのやり取りはよくなかったわ)
と、思う。不意に自宅に来られるのも迷惑で早急に手を打たねば、と考えた。
その夜リゼは元義母に宛て手紙を書いた。自宅や工房への訪問は控えてほしいこと。どうしても必要な場合は手紙でその日時を知らせてほしいこと。これらを了承してもらえないのであれば、今後の医療費の援助は考え直すことになる……。そんな旨を書き送った。
やや厳しい手紙に仕上がったが、自由奔放な元義母への牽制にもなるだろう。
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