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────3話*俺のものだから

10・ヤキモチと紀夫の本音

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****♡Side・電車でんま

「なんだよ、また女に絡まれやがって」
 それは就業時間後。
 電車でんまは塩田から先に正面玄関に向かって欲しいと言われ、指示通りに待っていた時のことである。
「そんなんじゃないよ」
 受付の女の子たちに話しかけられ、受け答えをしていたら塩田はいつの間にか指定の場所からこちらを不機嫌そうに眺めていた。

『塩田さんと付き合うことになったんですか?』
『わあ、良かったね! 電車くん』

「ニヤニヤしやがって、ムカつく」
と文句を言う彼の手を掴むと、電車は自動ドアに向かいながら、
「ヤキモチ妬きだなあ」
と軽口を叩く。
 てっきり、うるさいとか妬いてないと言われると思っていたのだが、
「悪いかよ」
と彼が俯くので慌てる。
「可愛い」
「は? え……おい!」
 玄関を出ると、死角となる建物の陰へ彼を引っ張っていき壁に押しやり、
「紀夫?」
 戸惑う彼の顎を掴み口づけた。
「んんッ」
 電車は彼の腰を引き寄せその耳元で、
「大好きだよ」
と囁くと不満そうにこちらを見る瞳。

「どうしたの? そんな顔して」
と問えば、
「お前は俺のものだろ?」
といって彼はぎゅっと電車に抱きつく。
「うん」
「俺のものなのに……」
「塩田」
「なんだよ」
 彼を抱きしめ返すと、ため息をついて。
「可愛すぎて、押し倒したくなっちゃうんだけど」
と、状況を申告する。
「は⁈ ちょっ、なに会社の前で変なとこ大きくしてんだよ!」
 さすがの彼も慌て気味だ。
「ふふ」
「笑いごとじゃな……、紀夫?」
「好き……塩田が好き」
 呟くように吐き出した告白。

──ほんとは、辞めたいなって思ってたんだ。
 あの日までは。

 **

 新入社員として起用された会社はデカかった。
 正面玄関から入ってすぐの壁には、気が遠くなるほどずらりと並んだ、各部署のプレート。とてもじゃないが覚えられそうにない。その横にある役職表は、役人数が膨大過ぎて覚えられそうになかった。
 正直な話、社長の名前すら憶えていない。手広く事業を行っているらしく、謎の課も多い。そんな中、自分が配属された”苦情係”は自分を含めたった四人しかいない小さな小さな部署。
 こんな小さな部署がいくつもあるのかと思っただけで眩暈めまいがしそうだった。

 新しく設立されたという苦情係は、今でこそ和やかな雰囲気だが。
 新入社員で同期が三人と、直属の上司が一人。上司は優しそうなイケメンだが、同期はムスッとした美人の塩田と、いかにも体育会系っぽい板井。仲良くやっていけそうにはなかった。
 それに自分は揉め事の類が苦手だ。苦情なんて処理できそうにない。

 案の定、部署はてんてこ舞いという状況に陥った。今でこそ、残業はきっかり二時間以上不可となって会社が閉まってしまうが、あれは苦情係のせいでそうなったとしか言いようがない。見切り発車のようなものでうまく回らなかった為、サービス残業は当たり前だったのだ。
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