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────4話*水面下の戦い

10・皇の家柄と塩田の境遇

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****♡Side・電車でんま

「ふふ♡ 買って貰っちゃった」
 電車でんまは袋いっぱいのバナナを手にエレベーターへ乗り込む。副社長ことすめらぎは、お洒落なエコバッグを持ち嫌そうな顔をした。塩田は我関せずといった風で自分の荷物を持ち、黙って箱に乗り込む。
「お前の粘り勝ちだ」
 皇はため息をつくとエレベーターの壁に寄り掛かり、口元に手をあてた。どうやらお疲れのようだ。
 あくびをする皇に塩田が視線を投げると、
「皇、先に風呂入れ」
と言う。
 放って置いたら寝てしまうと判断したらしい。
「ん。ありがと」
 眠たいのか皇は素直で可愛い。

「でも、お泊りセットをいつも車に積んでるとか。用意が良いんだね、副社長」
と電車が彼に声をかけると、
「いつ出張って言われるか分からんしな」
と眠そうな声で。
 副社長って大変なんだなと電車が思っているとチンと言う音がし、目的の階へ着いたことを知らせた。
「ここだから」
と家主である塩田が先に降り、電車が開くボタンを押しながら二人が降りるのを待つ。
 確か苦情係の課長と板井はここへ遊びに来たことはあったが、皇はどうだっただろうかとぼんやりと記憶を辿る。
紀夫のりお、早く来い」
「あ、うん」
 ぼんやりし過ぎたのか二人に置いて行かれそうになり、電車は慌てた。

「お邪魔します」
 いつもは尊大な態度の皇が綺麗に靴を揃え、挨拶して家の中に入る様子を見た時、彼がお金持ちの息子であり育ちが良いという噂を思い出す。あれは単なる噂ではなかったのだと電車は思った。
「風呂、そこ。洗濯するものあったら洗濯機に入れといて」
 塩田は皇から買ったものとカバンを受け取り、テキパキと指示をする。電車は買い物袋を持ったまま彼らの脇を通りキッチンへ向かう。
 一緒に暮らしているとはいえ、こんな日が来るとは思っていなかった。もう自分はお客さんではない。勝手も知っている。そのことを改めて感じ、少し嬉しくなった。

「紀夫、何か手伝う?」
と受け取った買い物を電車に渡しながら、塩田が問う。
「副社長にバスタオル出してあげた?」
「それは大丈夫」
「じゃあ客間にお布団、用意してあげたら? すぐ寝ちゃいそうだし」
「一緒に寝るってのは?」
 塩田のマンションのベッドルームにはキングサイズのベッドがあるが、さすがに男三人では狭かろう。
「いや、いくらなんでもそれは狭いよ」
「そっか、しかたない。布団出してくる」
 塩田のマンションは広い。都心ではないとはいえ交通の便が良く、駅が近い。その立地でこの広さのマンションを購入したとなると相当な値なのではなのだろうか。もしかすると彼も、良い家柄の子息なのではないかと電車は思った。

──そんなお坊ちゃんと、結婚許して貰えるかなー?

 塩田と婚姻しずっと一緒に居たい電車としては、ほんの少し不安を感じるのだった。
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