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────4話*水面下の戦い

21・囚われた、皇の心【微R】

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****♡Side・副社長(皇)

 皇は塩田の胸の中で喘ぎながら、先日のことを思い出していた。
 総括を家に招き入れようとしたことに激怒した社長は皇に酷い仕打ちをし、自分はその事で懲りていたはずだった。話しかけてくる黒岩を冷たくはねのけ、これ以上誰かを巻き込まないようにしようと仕事に打ち込んでいた。
 それなのに……。

『神流川くんは、君のこと好きなのかな?』
 社長の白々しい言い方に背筋が凍った。思わず、社長室の一角でモニターを見つめる彼の方に視線を走らせる。社長が皇の耳元で囁いた言葉は、彼には届かなかったようだ。
 黒髪をかき上げ眼鏡をかけた神流川は、地味な配色のスーツだがお洒落な着こなしに品を感じる。
『知りません』
とプイッと彼から視線を外せば、社長にぐいっと腰を引かれた。
『そう。まあいい。皇くん、こっちへ来なさい』
 彼に危害が及ぶのではないかと思い皇は社長に従う。
 社長は彼のデスクの前で立ち止まると、
『神流川くん。商品部からこれを貰って来てくれないか?』
と、メモを渡す。
 彼は頷くと立ち上がり、社長室から出て行った。

『皇くん。君は彼のことを心配してるのか?』
 社長室の奥には仮眠室がある。
 この会社には部署ごとに休憩室が設けられていた。各階に数個あり、部署の数だけ休憩室がある。ただ、どこを使おうと自由であった。
 しかし社長室に奥にある仮眠室という名の場所は仮眠のためにあるわけではない。皇はその用途をこの時、確信したのだ。
『君次第だよ』
『社長……』
『ん?』
 皇には神流川以外にも気になることがある。
『黒岩さんは……』
『君が僕の傍にいる限り、何もしない』

 社長は先日離婚した。皇と堂々と付き合いたい為だという。
 だが交際を強いるようなことはしない。皇が塩田を好きなことを知っているからだ。そして、その塩田には電車でんまという恋人がいる。どうにもならないと思っているから、強制せず皇が諦めることを待っているのだ。

『服を脱ぎなさい、皇くん』
 黒岩には行為を記録したUSBで。
 神流川には目の前で見せようというのだろうか。
 確かに自分は今まで、注目を浴びたいと思っていた。人から羨望の眼差しで見られることに優越を感じていた。だが好意を向けられたいわけではない。自分が認められたいと願うのは、どんなに努力をしても父に認められなかったからであって、恋愛感情を向けられたいわけではない。

───もっとも、同性からそんな対象に見られるなんて、今まで考えたことなかった。

 それは偏見ではない。
 自分は童顔ではあったが、可愛い性格というわけでもない。どちらかと言えば、生意気と嫌われることはあっても、好かれたという記憶はなかったから。
 社長をはじめ黒岩に神流川。一体、自分の何を見て好きだというのだろうか?

「皇」
 この世で唯一、好意を抱いて欲しいと願う相手は自分など眼中にないというのに。
「もっと、夢中になれよ」
「塩田……」
 皇はただ、彼にぎゅっと抱きついたのだった。
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