143 / 214
────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
1・その執着のわけ
しおりを挟む
****♡Side・社長(呉崎)
『社長が執着している相手は、本当に皇副社長なのですか?』
呉崎は社長室の填め殺しの大きな窓から階下を見下ろしていた。
後ろに手を組み、第一秘書である神流川から言われた言葉を思い出す。
『私には、社長は唯野さんに執着しているように感じます』
神流川は真っすぐに呉崎の瞳を見てそう言った。
呉崎は何も言わずその目をじっと見つめ返していただけ。
いつもなら適当にかわすところだ。何故そうしなかったのだろうか。
しばらく黙っていると、
『確かに社長は皇さんを好いておられるのだとは思います。しかし唯野さんに対しての執着は尋常ではありません。何が社長をそうさせているのか、私には分かり兼ねますが』
一旦そこで彼は言葉を止めため息をついた。
そして、
『皇さんのことで恨みを抱いているとは言え、おかしいですよ』
と続ける。
──神流川君は正しい。
彼がそういうなら、きっとそうなのだろう。
『社長は一体、唯野さんをどうしたいのですか? 彼に何を望んでいるのですか?』
まさかそんな質問を受けるとは思っていなかった呉崎は、驚きに目を見開いた。そもそも何故こんなに神流川に責められているのかもわからない。
『もし唯野さんが退職すると言ったら、社長はどうなさるおつもりなのですか?』
──僕に引き留める権利はないと言いたのか?
しかし……彼は……。
『唯野君は退職なんてしないだろう。彼が、可愛い部下たちを置き去りにするわけがない』
唯野にとってあの三人の部下は特別な存在。もしかしたら家族よりも大切な存在かもしれない。そんな風に大事にしている部下を置いて去ることが出来るくらいなら、とっくに辞表を叩きつけられているはずだ。
──あの三人は人質。
それに皇くんを置いていくことなんて出来ないはずだ。
彼が必死に守って来たものなのだから。
『そうやって唯野さんの弱みに付け込んで、甘えているわけですか? 愛想尽かされても知りませんよ』
神流川は重い一撃を呉崎に食らわすと、呆れ顔で社長室を出て行った。
『君はホントに容赦がないねえ』
呉崎は一人残された社長室でぽつりと呟く。
十七年前の事件以降、唯野のことを気にかけてきた呉崎。皇の一件までは”可愛がっていた”と受け取られていても不思議ではなかったし、そういう態度を取っていたように思う。
社長が一社員の連絡先を知っていて、よく連絡を交わすなどということは大会社にとっては珍しいことだと思う。それがただの平社員ならばなおさら。
──だが、そんな簡単な関係ではない。
十七年前の事件に関しては、呉崎も被害者の一人だといっても過言ではないのだ。自分も会長に騙された一人なのだから。
──彼の娘は、僕の子だ。
まさかあんな嘘を信じてしまうなんて。
呉崎は唯野の妻が受胎した時の精子提供者。呉崎はそのことを唯野の事件発覚の時まで知らなかった。知り合いにどうしても子供の欲しい夫婦がいるから助けてやって欲しいと言われ、呉崎はそれを受けたのだ。
──唯野君には言えないことだ。
彼の妻にもこのことは知られていない。
このことは僕が、墓場まで持っていかなければならない。
自分が勝手に彼を同志のように思っているだけなのは分かっている。なのにどうしても、”君なら分かってくれるはずなのにどうして邪魔をするんだ”と当たってしまう自分がいるのだ。
「僕は彼に執着しているんだろうか……」
自問自答する呉崎。しかし物思いに耽っている場合ではないようだ。机の上に置かれたスマホに着信があり、呉崎はゆっくりとそちらを振り返ったのだった。
『社長が執着している相手は、本当に皇副社長なのですか?』
呉崎は社長室の填め殺しの大きな窓から階下を見下ろしていた。
後ろに手を組み、第一秘書である神流川から言われた言葉を思い出す。
『私には、社長は唯野さんに執着しているように感じます』
神流川は真っすぐに呉崎の瞳を見てそう言った。
呉崎は何も言わずその目をじっと見つめ返していただけ。
いつもなら適当にかわすところだ。何故そうしなかったのだろうか。
しばらく黙っていると、
『確かに社長は皇さんを好いておられるのだとは思います。しかし唯野さんに対しての執着は尋常ではありません。何が社長をそうさせているのか、私には分かり兼ねますが』
一旦そこで彼は言葉を止めため息をついた。
そして、
『皇さんのことで恨みを抱いているとは言え、おかしいですよ』
と続ける。
──神流川君は正しい。
彼がそういうなら、きっとそうなのだろう。
『社長は一体、唯野さんをどうしたいのですか? 彼に何を望んでいるのですか?』
まさかそんな質問を受けるとは思っていなかった呉崎は、驚きに目を見開いた。そもそも何故こんなに神流川に責められているのかもわからない。
『もし唯野さんが退職すると言ったら、社長はどうなさるおつもりなのですか?』
──僕に引き留める権利はないと言いたのか?
しかし……彼は……。
『唯野君は退職なんてしないだろう。彼が、可愛い部下たちを置き去りにするわけがない』
唯野にとってあの三人の部下は特別な存在。もしかしたら家族よりも大切な存在かもしれない。そんな風に大事にしている部下を置いて去ることが出来るくらいなら、とっくに辞表を叩きつけられているはずだ。
──あの三人は人質。
それに皇くんを置いていくことなんて出来ないはずだ。
彼が必死に守って来たものなのだから。
『そうやって唯野さんの弱みに付け込んで、甘えているわけですか? 愛想尽かされても知りませんよ』
神流川は重い一撃を呉崎に食らわすと、呆れ顔で社長室を出て行った。
『君はホントに容赦がないねえ』
呉崎は一人残された社長室でぽつりと呟く。
十七年前の事件以降、唯野のことを気にかけてきた呉崎。皇の一件までは”可愛がっていた”と受け取られていても不思議ではなかったし、そういう態度を取っていたように思う。
社長が一社員の連絡先を知っていて、よく連絡を交わすなどということは大会社にとっては珍しいことだと思う。それがただの平社員ならばなおさら。
──だが、そんな簡単な関係ではない。
十七年前の事件に関しては、呉崎も被害者の一人だといっても過言ではないのだ。自分も会長に騙された一人なのだから。
──彼の娘は、僕の子だ。
まさかあんな嘘を信じてしまうなんて。
呉崎は唯野の妻が受胎した時の精子提供者。呉崎はそのことを唯野の事件発覚の時まで知らなかった。知り合いにどうしても子供の欲しい夫婦がいるから助けてやって欲しいと言われ、呉崎はそれを受けたのだ。
──唯野君には言えないことだ。
彼の妻にもこのことは知られていない。
このことは僕が、墓場まで持っていかなければならない。
自分が勝手に彼を同志のように思っているだけなのは分かっている。なのにどうしても、”君なら分かってくれるはずなのにどうして邪魔をするんだ”と当たってしまう自分がいるのだ。
「僕は彼に執着しているんだろうか……」
自問自答する呉崎。しかし物思いに耽っている場合ではないようだ。机の上に置かれたスマホに着信があり、呉崎はゆっくりとそちらを振り返ったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる