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────0話*出会いと恋

4・社長と課長と副社長の関係

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****side■唯野修二ただのしゅうじ(課長)

 数か月前、営業部にいた唯野修二は社長室に呼ばれた。

 (株)原始人こと株原に就職してかれこれ十五、六年になるだろうか? 
 唯野は営業でトップクラスの成績を納めていたにも関わらず、なかなか昇進しなかった。
 同じくトップクラスの成績を上げていた同僚の【黒岩くろいわ】は去年突然昇進し始め、異例の速さで総括部長まで上り詰めている。
 一年間に何度も昇進した上に、飛び級で昇進。他社では異例とも言える人事はこの会社ではよくあることだ。年功序列ではなく、実力こそがモノを言う。
 その為、社員のモチベーションは高いほうだと言えるのではないか?

 唯野の営業部での後輩だった【皇優一すめらぎゆういち】は、入社してたった一年で副社長となった。
 こちらはさすがに異例中の異例の昇進である。
 社長室に呼ばれた当時、皇は入社二年目。唯野の辞令に同席していた。

『来年度から新しい部署を立ち上げようと思っている』
 にこやかに宣言する社長。
 皇が社長の方を見て、眉をひそめる。
 ”また始まった”と言いたのだろう。
 社長から唯野へのパワハラが始まったのは、皇が入した年だった。
 
 唯野にはその理由がなんとなくわかっていたが、今まで気づかないふりをし何とかやり過ごして来たのである。
 ここで唯野には、新しく発足する部署の為に今から来年度となる四月まで、いろんな部署を回れと社長から辞令がくだった。

『たった数か月で、全ての部署を把握しろと言うのですか? それはあんまりでは?』
 見かねた皇が口を挟んだものの、
『皇くんだって、唯野君の優秀さは知っているはずだ。彼にならできるだろう?』
と社長はそれを退ける。
 褒める形のパワハラは、なかなか止め辛いものだ。これには皇も黙るしかなかったのであろう。彼は唇を噛みしめ、うつむいた。
 元後輩にかばわれるのは複雑な気持ちだ。しかし立場上、進言できるのは副社長くらいしかいないとも言える。
 そのくらい我が社の社長はワンマンつまりは独裁者であった。

 物腰や口調は柔らかいが有無を言わせない。
 それがわが社の社長だ。
 その代わり、嫌味を言うことくらいは許される。
 だが毎度社長に嫌味をぶつける唯野も、この時ばかりはなんと言っていいのか分からなかった。

 そして新年度、苦情係が新たにできたのである。
 役職は課長だが、給料は部長並みに支払われるという。嫌と言わせないことが伝わってきたのと同時に、高校生の娘を持つ唯野としてはこの先何かとお金がかかると思い、断ることなどできなかった。

──に、しても。
 この課の直属の上司が副社長と言うのは……パワハラする気満々だな。

 苦情係は特別な位置にある。
 それでも総括の下にない部署はここが初めてだったのである。
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