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────0話*出会いと恋
3・不安だらけの苦情係
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****side■電車紀夫(同僚)
──こんな職場、絶対無理!
始業すらしていないのに、電車は既に音を上げていた。
先ほど廊下で助けてくれた同僚の塩田という男は、見た目だけなら申し分ないが如何せん塩だった。
『同僚だし、呼び捨てでいい』
彼の辞書には愛想という文字はないのだろうか?
ぶっきらぼうにそう言い放つと、彼は商品部のドアを開けスタスタと中へ入っていく。商品部を通る時、塩田の容姿に魅了された女子社員たちが黄色い声を上げたが、彼は見向きもせずに苦情係へ向かっていった。
代わりに電車が愛想笑いをして塩田に続いたのである。
──就職したら同僚と呑みに行くような、フレンドリーな職場に憧れていたのに!
苦情係へ着いてみると、もう一人の同僚となる板井が先に来ていた。
ガタイの良さそうな、見るからに体育会系の背の高い男。無愛想と言うわけではなさそうだが、無口で真面目でにこりともしない。
そんな中、上司となる唯野課長だけは違っていた。
元営業部のトップらしく、人あたりが良く物腰が柔らかい。仕事の教え方も分かりやすく、とても優し気な人という印象。
──課長がいなかったら、俺絶対帰ってる!
若干涙目になりながらも、初日の業務を終える。
怒涛と言うのが正しいのか。出来たばかりの部署と言うこともあり、マニュアルがなく多忙を極めた。
一日目、彼らと一緒に働いて感じたこと。愛想のない同僚の二人であったが、非常に仕事ができるという印象を受けた。
電車はますます自分が場違いな気がしてしまう。
ため息をつきながら帰り支度をしていると、唯野から先に帰るように言われる。
どうやら業務報告が残っていたらしい。
「俺、家がすぐそこだから手伝うわ」
時間が来たらすぐさよならしそうな塩田が、率先して手伝いを申し出たのが意外だった。
「悪い。じゃあこっち頼む。俺は副社長のところへ行ってくるから。二人は電車通勤だろ? 先に帰って良いから」
と唯野。
自分も手伝いたさそうにしていた板井だったが、
「明日からは残業もあるから、今日は帰ってゆっくり休め」
と言われ、彼はしぶしぶというように荷物を持った。
電車は苦手と感じていた板井と肩を並べ、駅へ向かうこととなったのだった。
「変わった位置づけの部署だな」
会社の玄関口を出ると、板井は呟くように言って電車の方を見る。
彼は仕事時とは違い、少し柔らかい表情をしているように感じた。
「えっと俺……自分のことでいっぱいいっぱいで、その辺のことまだよく解ってない。ごめん」
せっかく話しかけてくれたのにと思いながらも、適当に合わせるのが嫌だった電車は、素直に分からないと謝罪する。
すると板井は、
「そっか」
と言ってフッと笑った。
てっきり『そんなことも覚えていないのか?』と言われると思っていた電車は、板井に対して誤解しているのかもしれないと思ったのだった。
路線の違う二人は駅で別れることになる。
その別れ際、
「早くなれると良いな。明日からも頑張ろう」
と板井に言われ泣いてしまいそうになった電車は、何とか笑みを作る。
「どうした?」
「上手くやって行けるか心配で」
思わず弱音を漏らせば、ポンポンと優しく背中を叩かれた。まるで”大丈夫だ”とでも言うように。
板井の優しさに電車はもう少しだけ頑張ってみようと思った。
──こんな職場、絶対無理!
始業すらしていないのに、電車は既に音を上げていた。
先ほど廊下で助けてくれた同僚の塩田という男は、見た目だけなら申し分ないが如何せん塩だった。
『同僚だし、呼び捨てでいい』
彼の辞書には愛想という文字はないのだろうか?
ぶっきらぼうにそう言い放つと、彼は商品部のドアを開けスタスタと中へ入っていく。商品部を通る時、塩田の容姿に魅了された女子社員たちが黄色い声を上げたが、彼は見向きもせずに苦情係へ向かっていった。
代わりに電車が愛想笑いをして塩田に続いたのである。
──就職したら同僚と呑みに行くような、フレンドリーな職場に憧れていたのに!
苦情係へ着いてみると、もう一人の同僚となる板井が先に来ていた。
ガタイの良さそうな、見るからに体育会系の背の高い男。無愛想と言うわけではなさそうだが、無口で真面目でにこりともしない。
そんな中、上司となる唯野課長だけは違っていた。
元営業部のトップらしく、人あたりが良く物腰が柔らかい。仕事の教え方も分かりやすく、とても優し気な人という印象。
──課長がいなかったら、俺絶対帰ってる!
若干涙目になりながらも、初日の業務を終える。
怒涛と言うのが正しいのか。出来たばかりの部署と言うこともあり、マニュアルがなく多忙を極めた。
一日目、彼らと一緒に働いて感じたこと。愛想のない同僚の二人であったが、非常に仕事ができるという印象を受けた。
電車はますます自分が場違いな気がしてしまう。
ため息をつきながら帰り支度をしていると、唯野から先に帰るように言われる。
どうやら業務報告が残っていたらしい。
「俺、家がすぐそこだから手伝うわ」
時間が来たらすぐさよならしそうな塩田が、率先して手伝いを申し出たのが意外だった。
「悪い。じゃあこっち頼む。俺は副社長のところへ行ってくるから。二人は電車通勤だろ? 先に帰って良いから」
と唯野。
自分も手伝いたさそうにしていた板井だったが、
「明日からは残業もあるから、今日は帰ってゆっくり休め」
と言われ、彼はしぶしぶというように荷物を持った。
電車は苦手と感じていた板井と肩を並べ、駅へ向かうこととなったのだった。
「変わった位置づけの部署だな」
会社の玄関口を出ると、板井は呟くように言って電車の方を見る。
彼は仕事時とは違い、少し柔らかい表情をしているように感じた。
「えっと俺……自分のことでいっぱいいっぱいで、その辺のことまだよく解ってない。ごめん」
せっかく話しかけてくれたのにと思いながらも、適当に合わせるのが嫌だった電車は、素直に分からないと謝罪する。
すると板井は、
「そっか」
と言ってフッと笑った。
てっきり『そんなことも覚えていないのか?』と言われると思っていた電車は、板井に対して誤解しているのかもしれないと思ったのだった。
路線の違う二人は駅で別れることになる。
その別れ際、
「早くなれると良いな。明日からも頑張ろう」
と板井に言われ泣いてしまいそうになった電車は、何とか笑みを作る。
「どうした?」
「上手くやって行けるか心配で」
思わず弱音を漏らせば、ポンポンと優しく背中を叩かれた。まるで”大丈夫だ”とでも言うように。
板井の優しさに電車はもう少しだけ頑張ってみようと思った。
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